■ル・コルビュジエとアイリーン 追憶のヴィラ
監督・脚本:メアリー・マクガキアン
出演:オーラ・ブラディ、ヴァンサン・ペレーズ、フランチェスコ・シャンナ
2015年製作/108分/ベルギー・アイルランド合作
近代建築の巨匠ル・コルビュジエと、
史上最高額で落札された椅子を手掛けたことでも知られるデザイナーで建築家のアイリーン・グレイ。
華やかな時代に生きた2人の建築家の人生に隠されたドラマを、
実際の建築や家具などをふんだんに取り入れた映像とともに描いていく。
1920年代、気鋭の家具デザイナー、
アイリーン・グレイは自身の別荘 「E.1027」 を南仏の海辺に完成させる。
彼女の建築デビュー作であるその別荘は、
のちに建築史に残る傑作と称されることとなるが、長い間、コルビュジエの作とされていた。
その事実の裏には、光り輝く才能を発揮するアイリーンに対する、
コルビュジエの嫉妬と欲望が絡まりあう、愛憎のドラマが隠されていた。
(映画.comより)
「この映画を観ると、100人が100人、
ル・コルビュジエのことを大っっっ嫌いになるでしょう。
とりあえず、去年、国立西洋美術館で開催された特別展、
“ル・コルビュジエ 絵画から建築へ” を訪れる前に、この映画を観なくて良かったです。はい。
もし、この映画を先に観ていたなら、
展覧会場で相当に胸くそ悪くなっていたかもしれません。
邦題こそ、『ル・コルビュジエとアイリーン 追憶のヴィラ』 ですが、
この映画の主人公はル・コルビュジエではなく、確実にアイリーン・グレイです。
今作を通じて、初めて彼女のことを知りました。
アイリーン・グレイは、アイルランドを代表するインテリアデザイナーだそうで、
彼女がデザインした初期の作品で、イヴ・サン=ローランの家にあったという椅子は、
オークションに出展され、インテリアとしては当時史上最高額の約30億円で落札されたそうです。
約30億円の椅子・・・・・・・。
もったいなくて、座れる気がしません。
ついついお尻を浮かせてしまいそうです。
と、それはさておき。
そんな彼女が、南仏のカップ・マルタンの海辺に、
恋人のジャン・バドヴィッチと過ごすために建てた別荘 「E1027」 が、この映画の真の主役 。
ジャンは、非常に女癖が悪く、愛想をつかしたアイリーンは2年でその建築を去ってしまいます。
ただ、そんなジャン以上に、ゲスなのがル・コルビュジエ。
アイリーンの才能に密かに嫉妬していたコルビュジエは、
彼女がいなくなったのをこれ幸いとばかりに、「E1027」 内に好き勝手、壁画を描いてしまうのです。
その壁画の出来が、まぁ、ヒドいったらありません。
途中、第二次世界大戦でドイツ軍の侵略を受けるシーンがあるのですが、
ドイツ軍の兵士が、「E1027」 内の壁画が落書きのようなので、銃弾を撃ち込んでいました。
何はともあれ、そんなコルビュジエの壁画があったせいで、
長い間、「E1027」 は、コルビュジエの作品と勘違いされていたのだそうです。
理不尽ここに極まれり。
映画のラストで、アイリーン・グレイの功績が明らかになるので、スカッとはしますが。
それまで、終始、ル・コルビュジエが憎たらしい。
しかも、そういう演出だから仕方ないのですが、
ちょくちょくコルビュジエが、心の声をカメラ目線で語りかけてくるのです。
ウザいことこの上なし!
「黙れ小僧!」 と何度口にしたくなったことでしょう。
あと、映画の中で3分の1くらいは、なぜかコルビュジエが上半身裸でした。
それも妙に腹立たしかったです。
別に、良い身体というわけでもないのに。
なお、この映画の監督は、アイリーンを主人公としたドキュメンタリー映画も撮っているのだそう。
それゆえ、アイリーンにだいぶ肩入れした映画になっており、
まんまとこの映画を観た僕も、ル・コルビュジエを敵視してしまったわけですが。
それでも、映画のラストでル・コルビュジエの最期が、
この 「E1027」 の前の海で溺死したと、たった一文で紹介された時には、
“いや、さすがにもう少し紹介してあげろよ”、とは思いました。
ナレ死。
いや、ナレーションすらも読み上げられない、テロップ死でした。
「E1027」 の前の海での謎の溺死。
その真相は、いつか 『奇跡体験アンビリバボー』 で取りあげられるかもしれません。
(星2つ)」
~映画に登場する名建築~
アイリーン・グレイ 《E1027》