現在、東京ステーションギャラリーで開催されているのは、
“生誕120年 安井仲治 僕の大切な写真”という展覧会です。
(注:展示室内は一部撮影可。写真撮影は、特別に許可を得ております。)
日本写真史に名を刻む伝説のアマチュア写真家、
安井仲治(1903~1942)の20年ぶりとなる大規模な回顧展で、
戦災を免れたヴィンテージプリントを含む約200点が出展されています。
こちらが、本展の主役である安井仲治その人↓
昭和初期にして、すでにツーブロックを取り入れています。
そのヘアスタイルからもわかるように、
時代を先取りするセンスの塊のような人物だったそうで。
同時代の写真家たちからはもちろんのこと、
土門拳や森山大道さんら後の写真家たちからも絶大な支持を受けています。
そんなカリスマ安井仲治が頭角を現すのは、わずか18歳の時のこと。
関西の名門写真クラブ「浪華写真俱楽部」の面々に、
才能を見出され、入会するように勧められたのでした。
その頃に撮影された写真が、こちら↓
パッと見、版画のような。
絵画的な印象を受ける写真作品です。
世界的に見ても、まだまだ写真が、
美術とは捉えられていなかった時代に、
独学でこのような作品を生み出していたなんて。
末恐ろしい18歳です。
なお、その翌年に発表された作品が、こちら↓
構図といい、アングルといい、
これしかないと思わせるくらいに完璧です。
そんな生まれ持っての圧倒的なセンスにくわえて、
当時の海外での最先端の写真表現や理論を独学で吸収していった安井。
ウジェーヌ・アジェっぽい写真や、
ロシア構成主義を彷彿とさせる写真、
ロバート・キャパ顔負けの報道写真なんかも撮影しています。
また、コラージュを駆使した実験的な写真も手掛けていた安井。
こちらの《(凝視)》という作品は・・・・・
《(凝視)》 1931年(モダンプリント制作:2023年)
反転させたり、トリミングしたり、
数枚の写真を組み合わせて制作されたことがわかっています。
なお、安井が得意とした技法の一つに、
ブロムオイルと呼ばれるものがあります。
技法をちゃんと説明するとなると、
大変面倒くさいことになりそうなので(笑)。
超ざっくり言うと、特殊な溶液によって、
写真の黒い部分を漂白し、その上に油性インクを乗せていく技法とのこと。
つまり、手作業で描くように写真のトーンを調整しているのです。
初期の代表作とされる《猿廻しの図》にも、その技法は使われていました。
なお、今回展示されている《猿廻しの図》は、
2023年制作のモダンプリントで、発表当時の姿をなるべく忠実に再現したものです。
確かに、猿廻しの猿を見つめる少女の服の白さが際立っています。
それにより、自然と視線が誘導されるものがありました。
また、シュルレアリスムの芸術家が得意とした、
思いがけないものを組み合わせる「デペイズマン」のように、
安井は、撮影現場にあるものを自由に構成するのを得意としたようで。
それを彼は「半静物」と呼んだそうです。
《(虫)》 1938年頃、個人蔵(兵庫県立美術館寄託)
ちなみに。
安井は、1941年の秋に体調を崩し、
翌年の42年にわずか38歳という若さでこの世を去っています。
その最晩年に発表されたのが、こちらの作品。
これまでのセンスがキレキレの写真とは打って変わって、
川瀬巴水の新版画のような、わびさびを感じる抒情的な作品です。
当時の安井の仲間たちやファンたちも、
この急な路線変更(?)にかなり戸惑ったようですが。
戦争が激化する中で、写真に報道的役割が求められていく、
そんな時代に対しての、彼なりの反骨精神の現れなのかもしれません。
最後に。
個人的にもっとも印象に残っている写真をご紹介。
おそらく女学校で撮影したと思われる《(顔)(Faces)》です。
どういう状況なのでしょう??
『写真で一言』に採用されそうな一枚です。
それから、もう一点。
本展のメインビジュアルにも採用されている《(馬と少女)》です。
《(馬と少女)》1940年、個人蔵(兵庫県立美術館寄託)
やる気スイッチが完全にオフられている少女2人。
その表情は何とも言えないものがあります。
あと、左の少女をぼーっと眺めていたら、
だんだんと、なぎら健壱に見えてきました。