現在、五島美術館では、存星に焦点を当てた日本初の展覧会が開催されています。
「存星って何??」
そう思った方は、少なくないはず。
かくいう僕も、よくわかっていません。
存星は、唐物漆器の一種なのだそうです。
数ある唐物漆器の中でも、存星だけは別格の扱いで、
『稀なる物』 として茶人たちに珍重されていたのだとか。
あの千利休ですら3点しか目にしたことがないという、いわば幻の漆芸品であったようです。
「・・・いや、だから、存星って何??」
そう思った方は、少なくないはず。
実は、僕がわかっていないだけでなく、
存星に関しては、美術界全体でもよくわかっていないのだそうです。
というのも。
今、存星と言い伝えられている漆芸品の数々を目にしていくと、
どうにも、 「これだっ!」 という共通点が見つからないようで。。。
あれも存星。これも存星。
「もう存星って箱に書いてあるから、存星でいいんじゃね?」 的な空気が無くも無いのだそうです。
さて、今回の日本初の存星展では、そんな 「存星って何?」 という根本的な謎に真っ向から迫っています。
日本全国から存星と呼ばれた名品約70点が集められ、
“結局のところ存星って何なのか問題” に、一応の解答を導き出していました。
あまりに存星の定義がこじれすぎていて (?) 、
クイズやパズルのように、スカッと明快な解答というわけではありませんが、とても興味深かったです。
ちゃんと説明しようとすると、とても長くなりますので割愛しますが。
(気になる方は、是非会場で!)
今回展示されている存星の中で、
おそらくオリジナルに一番近いであろうのが、徳川博物館が所蔵する 《狩猟図彫彩漆盆》 なのだそうです。
徳川美術館所蔵 (C)徳川美術館イメージアーカイブ/DNPartcom
本来は、このような漆芸品を存星と称していたのでしょうが、時代が経つにつれ、
本来の存星と似ている部分があったら、それもまた存星と呼ぶようになってしまったとのこと。
例えば、九州国立博物館が所蔵している 《蒲公英蜻蛉文彫彩漆香合》 。
九州国立博物館所蔵 山・信一氏撮影
箱には、堂々と 『存星』 の文字が書かれています。
しかし、 《狩猟図彫彩漆盆》 とは、どこも似ていないような気が。。。
《蒲公英蜻蛉文彫彩漆香合》 を思いっきりアップにしてみましょう。
一見すると、一色の漆が塗り重ねられているようにしか見えませんでしたが。
実は、何層も色が塗り重ねられているのがわかります。
このカラーリングが、 《狩猟図彫彩漆盆》 に似ているので、 《蒲公英蜻蛉文彫彩漆香合》 も存星。
ちょっと強引です。
また永青文庫が所蔵する 《柚香合》 。
こちらはカラーリングも、 《狩猟図彫彩漆盆》 とは違います。
《柚香合》 の特徴は、何と言っても表面の布目地。
《狩猟図彫彩漆盆》 も、地の部分が布目模様です。
だから、 《柚香合》 も存星。
かなり強引です。
さらに、存星の定義は拡大解釈して、
とある室町期の書における存星の記述の中に、 「魚々子を撒くように」 とあったため・・・
《魚々子地龍文填漆盆》
魚々子地 (魚の卵のような小さな円文) が施された漆芸品も、存星とされたのだとか。
その後も、存星の定義は拡大を続け、いつしか存星という言葉自体に有難みがなくなってしまったようです。
『カリスマ』 や 『神○○』 という言葉が多用され、有難みがなくなってしまったのに似ていますね。
ただ、ここまで話を進めてきて何ですが。
存星が何であれ、展覧会で展示されていた漆芸品は、素晴らしかったです。
《狩猟図彫彩漆盆》 や 《蒲公英蜻蛉文彫彩漆香合》 をはじめ、展覧会の冒頭に展示されていた漆芸品は特に。
技術がハンパなかったです。
こちらの 《蓮弁文彫彩漆盆》 も、一見すると地味な漆のお盆ですが。
アップにすると・・・
何層もの色漆が塗り重ねられているのがわかります。
一度に塗布できる漆の層は、数十ミクロンほど。
それが固まらないと、漆は塗り重ねられないので、
これだけ色漆を塗り重ねるには、相当の漆の量と手間が必要です。
気が遠くなりました。
ちなみに、僕のお気に入りは、パターン画のような 《松皮文彫彩漆盆》 。
シンプルに見えますが、こちらも相当な手間がかかっています。
肉眼で鑑賞するには限界があるので、単眼鏡があればベターです。
(視力が6.0くらいあれば別ですが)
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存星―漆芸の彩り
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