■眩
作者:朝井まかて
出版社:新潮社
発売日:2016/3/22
ページ数:347ページ
偉大すぎる父・北斎、兄弟子・渓斎英泉への叶わぬ恋、
北斎の名を利用し悪事を重ねる甥―人生にまつわる面倒ごとも、ひとたび筆を握れば全て消え去る。
北斎の右腕として風景画から春画までをこなす一方、自分だけの光と色を終生追い続けた女絵師・応為。
自問自答する二十代から、傑作「吉原格子先之図」に到る六十代までを、圧倒的リアリティで描き出す。
(「BOOK」データベースより)
「葛飾北斎の娘、応為をの人生を描いた物語を取り上げるのは、
カナダ人女性作家キャサリン・ゴヴィエによる小説 『北斎と応為』、
杉浦日向子の漫画作品をアニメ化した映画 『百日紅~Miss HOKUSAI~』 に続いて、これが3回目。
天才・葛飾北斎を父に持つという特異な境遇や、
その半生に関する資料がほとんど残っていない=自由に描きやすいという理由からでしょうか、
葛飾応為は、小説家や漫画家の創作意欲を掻き立てる人物なのかもしれません。
『大河ドラマの主人公にして欲しい偉人』 のランキングは、よくネットで見かけますが。
『芸術家ドラマの主人公にして欲しい芸術家』 といったアンケートを、
もしも実施したなら、 葛飾応為は、かなりイイ線をいくのではないでしょうか?
藤田嗣治や岡本太郎もランクインしそうです。
意外なところで、草間彌生も・・・・・って、それはさておき。
読み終わっての率直な感想は、多くの読者が言及されているように、実にリアリティのある小説でした。
まるで応為という人間が、その辺にいて、
その半生を一定の距離を置いて、ずっと見つめ続けてきた人間が書いたかのよう。
なんなら、応為自身が、晩年に自分の半生を綴ったかのようなリアリティがありました。
執筆中は、作者に葛飾応為が憑依していたに違いありません。
リアリティが感じられた理由の1つは、浮世絵を描くシーンはもちろん、
応為をはじめ、すべての登場人物の江戸の暮らしぶりが、ありありと、かつ丁寧に描かれていたこと。
人々の生き方に、説得力がありました。
そして、もう1つの理由は、全編を通して、そんなに大きなドラマがなかったこと (笑)
いや、もちろん、北斎との親子のドラマ、北斎の死、
兄弟子である渓斎英泉とのラブロマンスや、火事に見舞われるという危機一髪のシーンなど、
改めて思い返してみれば、ハイライトは何度かあるにはあったのですが。
読んでいる最中は、特にハラハラドキドキすることはなかったです。
淡々と物語が進んでいきました。淡々と。
そんな淡々とした応為の半生の数か所に、
ターニングポイントとなるエピソードが、淡々と挟まれ、
それらが合わさって、《吉原格子先之図》 誕生へと繋がる構成は鮮やか。
光と影の傑作 《吉原格子先之図》 が生まれた背景には、
光もあれば影もある応為の知られざる半生があった。そんな感じでした。
(↑はい、巧いこと言った)
全体的に、申し分のない小説ですが。
ただ一つ言わせて頂くならば、葛飾応為を主人公にした小説なのに。
葛飾応為以上に、渓斎英泉のほうが魅力的なキャラクターでした。
かなりのプレイボーイ。
江戸の火野正平。
(星3つ)」
~小説に登場する名画~
《関羽割臂図》