2013年に開館して以来、毎年のように初公開作品を披露しては、
美術関係者や美術ファンを、幾度となく驚かせてきた岡田美術館。
「えっ?66年も行方不明だった喜多川歌麿の 《深川の雪》 も持ってたの?!
えっ?83年ぶりの再発見となる伊藤若冲の 《孔雀鳳凰図》 も持ってたの?!
えっえっ?東洋美術だけでなく、ガレとドームのガラスコレクションも持ってたの?!」
そんな岡田美術館で、この春開催されているのは、
“初公開 田中一村の絵画 ―奄美を愛した孤高の画家―” という展覧会。
こちらは、田中一村 (1908~77) の生誕110周年を記念したもので、
岡田美術館が収蔵する田中一村作品をまとめて初公開する展覧会です。
まさか、田中一村も収蔵していたとは!
まさに、“持ってる美術館” です。
「田中一村って誰?」 という方のために、簡単に紹介いたしますと。
田中一村は、中央画壇に嫌気がさし、50歳にして奄美大島へと単身移住した日本画家。
その後、亡くなるまでの20年間、奄美大島で制作を続けました。
そのため、『日本のゴーギャン』 と呼ばれることも。
生前はほぼ無名に近かったのですが、
没後、『日曜美術館』 で取り上げられて、一気に美術ファンの間でブレイク!
伝説的な画家となりました。
ちなみに、2010年には千葉市美術館で大々的な田中一村展が開催されました。
こちらの展覧会は、千葉市美術館開館以来、最高の入館者数を記録。
そして、この記録はいまだに破られていないとのこと。
伝説的な展覧会となりました。
さてさて、今回初公開されていた一村の作品の中で、
やはり何と言っても一番印象に残っているのは、奄美時代に描かれた 《白花と赤翡翠》 です。
田中一村 《白花と赤翡翠》 昭和42年(1967) 岡田美術館蔵 ©2018 Hiroshi Niiyama
こちらは、一村59歳の時の作品。
描かれているのは、「火の鳥」 の異名を持つアカショウビンと、
キダチチョウセンアサガオ、画面右のトウモロコシのヒゲみたいなのはガジュマルの気根です。
これぞ一村の真骨頂ともいうべき、細密にして濃密な作品でした。
温度、匂い、色彩。
絵の前に立った瞬間、噎せ返るほどにダイレクトに伝わってきます。
鮮烈で強烈な鑑賞体験でした。
と、奄美時代の作品が鮮烈で強烈なだけに、
その前の時代の色紙作品 《あぢさい》 を鑑賞した際には、
田中一村 《あぢさい》 岡田美術館蔵 ©2018 Hiroshi Niiyama
“まぁ、巧い絵だけど、琳派の絵みたいで、なんかアッサリしてるなァ。
一村の絵に求めているのは、こういうのじゃないんだよなァ”
などと思ってしまったのですが。
ふと横に目をやると、この作品に対する一村の自筆の添状が併せて展示されていました。
(注:館内の写真撮影は、特別に許可を頂いております。)
添状にはこんなことが書かれています。
『このアジサイの絵の荒っぽい描き方は自分が最も好むものですが。
いかにも手間がかかったような細密な絵が好きな素人には歓迎されないでしょう。
(中略) 毒舌をお許しください。』
・・・・・・・・・・。
え・・・え~っと、こういう細密じゃない一村の作品も、なかなか味があっていいですよね。うん。
何はともあれ、一村が毒舌キャラだったことを知れたのは、今回の収穫です (笑)
添状といえば、こちらの作品の添状も併せて紹介されていました。
田中一村 《熱帯魚三種》 昭和48年(1973)岡田美術館蔵 ©2018 Hiroshi Niiyama
もちろん、一村の画力にも驚かされましたが。
それと同じくらいに、
こんなメキシコの覆面レスラーみたいな顔の魚が、日本の海に棲息していることに驚かされました。
さて、やはり気になるのは、その味。
一村の添状には、その答えがちゃんと書かれていました。
『新鮮なものを酢みそにて生食すれば、寒ブリに似てすこぶる美味』
一村の食レポの才能を知れたのも、今回の収穫です。
さて、今回の展覧会では、同い年でライバルだった東山魁夷の作品や、
「昭和の若冲」 とも呼ばれていることにちなんで、若冲の濃密な絵画とともに展示されています。
また、一村が影響を受けたという南画や速水御舟の作品も。
一村の作品は全7点 (うち2点は個人像) と少なめではありますが。
一村の人物像が、きちんと見えてくる展覧会でした。
ちなみに、8月24日より会期終了の9月24日までは、
最高傑作と名高い 《アダンの海辺》 も特別展示されるそうです!
そうそう、一村が鳥好きで鳥の作品を多く描いたことから、
岡田美術館の収蔵品の中から、鳥を描いた絵画や鳥をモチーフにした作品も紹介されていました。
その中で特に衝撃的だったのは、葛飾北斎の 《雁図》 です。
葛飾北斎 《雁図》(部分) 弘化4年(1847) 岡田美術館蔵
雁というか、古代の鳥。
いや、もはや恐竜のたぐいです。
モミジが描かれていることから、秋の雁ということなのでしょうが。
風情は全く感じられません。
そして、もっとも笑撃的だったのが、10世紀に中国で作られたという杯。
なぜ、中に入ってるのか!
そして、何をくつろいでるのか!
「まぁ、俺に気にせず飲めよ。」 みたいな表情に、軽くイラっとさせられました (笑)
ちなみに、“箱根はなかなか遠くて・・・” という方に朗報!
今週21日 (土) に、青山ブックセンターにて、
担当学芸員の小林優子さんが、今展覧会の見どころを解説する特別講座、
「田中一村の絵の魅力に迫る」 が開催されるそうです。
この展覧会の準備のために、小林さんは奄美大島を訪問したとのこと。
もしかしたら、寒ブリみたいな味がする魚の話も飛び出すかもしれません (笑)
ご興味のある方は、是非!
1位を目指して、ランキングに挑戦中。
下のボタンをポチッと押して頂けると嬉しいです!
↧
初公開 田中一村の絵画 ―奄美を愛した孤高の画家―
↧