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Channel: アートテラー・とに~の【ここにしかない美術室】
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住友財団修復助成30年記念「文化財よ、永遠に」

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この秋、住友家が蒐集した美術品を保存、展示する泉屋博古館分館では、
“住友財団修復助成30年記念「文化財よ、永遠に」” という展覧会が開催されています。




普段当たり前のように展示され、何気なく鑑賞している文化財。
しかし、それらは何もせず、ただ受け継がれてきたわけではありません。
その時代の修復や保存技術によって、
天災や人災による損傷や劣化などのピンチを何度もくぐり抜けてきたのです。
さてさて、泉屋博古館分館とも関連が深い公益財団法人住友財団は、
これまでに1000件 (!) を超える国内外の文化財修復事業に対し助成を行ってきました。
そして、再来年2021年には、創立30周年を迎えるそうです。
それを記念して開催されているのが、こちらの展覧会。
これまでに助成によって修復された文化財の数々が展示されています。




また、修復前はどのような状態だったのか、
具体的にどのようにして修復作業を行ったのか、
その辺りの詳細も、パネルで紹介されていました。




ちなみに、上のパネルで紹介されている木島櫻谷の 《かりくら》 という作品。
修復前の姿はご覧のように、汚れているわ、シミがあるわ、
ボロボロでヨレヨレだわ、目も当てられないような惨状でしたが・・・・・・・・




まぁなんということでしょう!

修復によって、もとの美しい姿を完璧に取り戻していました。
まさに劇的ビフォーアフターです。
これまで当たり前のように、何気なく鑑賞してきた文化財。
その裏側には修復してきた職人の皆さまがいらっしゃったことを、強く実感させられました。
これからは、もっと有難がって鑑賞したいと思います。


さてさて、記事の冒頭からずっと、『修復』 という言葉を使ってきましたが。
実は、現在、文化財が修復されることは、あまり無いのだそう。
正確には、『修復』 ではなく、『修理』 されているのだそうです。
『修復』 と 『修理』。
同じように感じられますが、意味合いは全然違います。
こちらの池大雅 《比叡山真景図》 をご覧ください。


池大雅 《比叡山真景図》 修理前 1762年 練馬区立美術館


こちらは、修理前の状態です。
左上には雨垂れのような水染みが、
全体的にも折れや汚れが、かなり目立っています。
そんな 《比叡山真景図》 を修理すると、こうなります。


池大雅 《比叡山真景図》 修理前 1762年 練馬区立美術館


確かに、左上にあったヒドい染みは無くなりましたし、
全体的にも折れや汚れがなく、だいぶすっきりした印象になっています。
ところが、完全にキレイさっぱりした状態に戻ったわけではありません。
もし、元の姿に戻そうとするのであれば、それは 『修復』。
しかし、長年伝えられてきた文化財は、その風合いの変化も含めて魅力的なもの。
そこは残しつつ、直すべきところだけを直し、
基本的には現状維持しようとするのが、『修理』 なのです。
『修復』 に比べて、『修理』 のほうが、文化財に対するダメージは少なくて済むのだとか。
それにより、少しでも長く先の世代へ伝えることができるのだそうです。

文化財を守るだけでなく、未来へと繋ぐ。
それって、素敵やん。
島田紳助さんみたいなセリフが思わず口をつく。
そんな展覧会でした。
星星


ちなみに。
前後期で入替えはありますが、
国宝や重要文化財も数多く出展されています。


国宝 《法華経一品経のうち授学無学人記品第九》(部分) 鎌倉時代13世紀 慈光寺(後期展示)


純粋に、日本美術展としても、見ごたえあり。
しかも、どの文化財も修理仕立てホヤホヤなので、
ベストコンディションの姿で楽しむことができるのです。

個人的にイチオシなのは、重要文化財の 《長谷雄草紙》
平安初期の文化人、紀長谷雄にまつわる絵巻物です。
内容をまとめると、ざっとこんな感じでしょうか。

 ある日、双六の名手でもある長谷雄のもとに妙な男が現れ、双六の勝負を申し込んできました。
 実は何を隠そう、この男の正体は、朱雀門の鬼。
 勝負を受けた長谷雄は全財産を賭けることに、鬼は絶世の美女を賭けました。
 双六は長谷雄の勝利。
 勝負に敗れた鬼は約束を守り、後日、美しい女性を連れて長谷雄のもとを訪れます。 
 そして、「絶対この女に100日間に触れてはならない!」 と言い残し、去って行きました。
 最初は言いつけを守っていた長谷雄。
 しかし、とうとう80日目で我慢できなくなり、その女を抱いてしまいました。
 すると、女の体は、水に変化し、流れ去ってしまったのです・・・。



重要文化財 《長谷雄草紙》(部分) 鎌倉~南北朝時代14世紀 永青文庫(前後期で巻替)


ちなみに、その女は、数々の人間の死体から、
良いパーツばかりを集めて、鬼が作り上げたものとのこと。
平安時代のウォーキング・デッドです。
100日経てば、本当の人間になるはずだったそう。
あと20日我慢しろよ、長谷雄!
しかし、よくよく考えたら、あと20日って。
普通こういうストーリーだと、99日、せめて95日くらいまでは我慢しそうなものです。
もう少しくらい、忍耐力あれよ!




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