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Channel: アートテラー・とに~の【ここにしかない美術室】
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Book:32 『ボッティチェッリの裏庭』

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■ボッティチェッリの裏庭

 作者:梶村啓二
 出版社:筑摩書房
 発売日:2019/8/30
 ページ数:253ページ

「折り入って相談したいことがある。できるだけ早く会いたい」
親友フランツがスイスで謎の死を遂げて三カ月、
未亡人となったカオルからのメールには言いよどむ気配があった。
駆けつけるとそこには幼い娘が一人きり。いぶかるタカオの携帯に見知らぬ男から電話が入る。
「奥さんの身柄は、フランツさんが所有していた絵と交換としましょう」
その絵とは、ルネサンスの巨匠が遺した未発見の真筆。
やむなくタカオは少女を連れて、
まだ見ぬ名画の捜索に乗り出した―罪なき一枚の絵画が、
時を超え、土地を変え、罪なき人々の運命を狂わせる。
(Amazonより)


《ヴィーナスの誕生》《プリマヴェーラ(春)》 で知られるルネサンスの画家ボッティチェッリ。
 彼をモデルにした小説や映画はこれまで目にしたことがなったので、
 彼がどんな風な人物として描かれているのか気になり、手に取ってみました。

 結論からいえば、ボッティチェリはほとんど登場しませんでした。
 物語のメインとなるのは、ボッティチェリ本人ではなく、彼の未発表の作品。
 主人公のタカオは、謎の男からその作品を見つけるように要求される。
 その作品はタカオの友人であるフランツが祖父の代から受け継いでいるものらしい。
 もし、見つけなければ、フランツの妻カオルの安全は保障できない。
 カオルにほのかな恋心を抱いていたタカオは、彼女を救うため、
 ボッティチェリの作品を見つけるべく、フランツの娘カサネとともに駆け巡ります。
 
 と、あらすじをまとめると、サスペンスフルな感じですが、
 『ダ・ヴィンチ・コード』 のようにハラハラドキドキな展開はなし。
 カサネの一言により、思いのほか、目的の品があっさり見つかってしまいます (笑)
 2時間ドラマかと思いきや、30分ドラマくらいの分量でした。
 しかも、シリアスな展開がずっと続いてきたのに、
 最後の最後で、いきなりファンタジーな展開が訪れます。

 えっ、どういうこと?!
 
 一瞬何が起きたのか理解できず、
 “頭の中がプリマヴェーラ(春)” となりました。


 さてさて、そんなメインストーリーとは別に、小説内では、
 フランツの祖父がその妻に宛てた手紙が2回ほど挟まれます。
 その手紙で語られるのは、ナチスの絵画略奪について。
 詳細がこと細かく記載され過ぎていて、とても手紙とは思えません。
 手紙というよりは短編小説です。
 それだけに、手紙というていを取る必要があったのか、ちょっと疑問でした。
 いや、というか、そもそもこのくだりが必要だったのか、かなり疑問でした。

 さらに、手紙と言えば、あるメディチ家の奴隷が、
 晩年のボッティチェッリに宛てた手紙のパートも、計4回ほど挿入されています。
 こちらも手紙というより短編小説。
 《ヴィーナスの誕生》 の秘密やボッティチェッリが凋落した理由などが、綴られています。
 とは言え、ボッティチェッリの未発表作を巡る物語よりも、
 よほどこの手紙のパートのほうが読み応えがあったので、こっちをメインにして欲しいほどでした。


 ちなみに。
 この小説に対して何よりも言いたいことは、
 「ボッティチェッリの未発表作である必然性がなかったじゃん!」 ということ。
 フェルメールの未発表作でもゴッホの未発表作でも、
 もしくは、バンクシーの未発表作でも良かったような。。。

 そして、軽くネタバレになりますが。
 ラストでは、ボッティチェッリや美術ではなく、
 いつの間にやら、レモンの農業の話になっていました。
 ・・・・・あれっ、何でこの本を読んでいたんだっけ?
 朝方、この本を読んでいたのですが、
 本心から、「夢ならばどれほどよかったでしょう」 と思いました。  
 スター スター ほし ほし ほし(星2つ)」


~小説に登場する名画~

《ヴィーナス》


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