菊池寛実記念 智美術館が、約3か月ぶりに再開しました。 |
現在開催されているのは、4月に開幕予定だった “菊池コレクション―継ぐ”。
会期を11月29日までに延期しての開催となっています。
こちらは、菊池コレクションの中から、今泉今右衛門さん、酒井田柿右衛門さん、
三輪休雪さん、樂吉左衞門さんの4名 (組?) の作品に焦点を当てて紹介した展覧会です。
この4名 (組?) の共通点。
それは、十数代にもわたる陶芸家の家系の生まれであること。
伝統を受け継ぎつつ、しかし、作家としての個性も発揮しなければならない。
そんなプレッシャーの中で、彼らは作品を制作しているのです。
まず紹介されていたのは、色鍋島の今泉今右衛門一族。
色鍋島の技術を再現、復興するとと もに、
現代的な意匠を追求したのが、十二代の今泉今右衛門です。
それを受け継いだ息子の十三代今泉今右衛門は、
絵付けではなく顔料を吹き付ける 「吹墨」 や 「薄墨」 という技法を確立し、
白磁の白地とは違う、色のある独特の地に上絵を施す作品を生み出しました。
さらに、それを受け継いだのが、当代の十四代今泉今右衛門さん。
先代、先々代の技法は受け継ぎつつ、
「墨はじき」 や 「雪花墨はじき」 という新たな技法を考案しました。
(↑技法について説明していると長くなるので、割愛!)。
また、代名詞ともいうべき雪文をはじめ、斬新な文様も積極的に取り入れています。
サマンサタバサの柄になっていても違和感ないくらいにオシャレで現代的。
まさに、今風。
さすが名前に、『今』 が2つも入っているだけはあります。
どの作品も本当に素敵でしたが、一番欲しいと思ったのは、こちらの作品↓
一瞬、スマートスピーカーかと思いましたが、花瓶だそうです。
全体を占める白い部分は、何も描かれていないように見えますが。
近づいて観てみると・・・・・・・
表面にびっしりと花が描かれているのがわかります。
白に白。
このセンスが最高です。
続いて紹介されていたのは、酒井田柿右衛門一族。
こちらは、十三代と十四代、
そして、当代の十五代の作品が紹介されていました。
伝統に忠実だったという十四代に比べて、
十三代と十五代は、どちらかといえば革新的な作風なのだそう。
世代ごとに作風が行ったり来たりする。
それが、酒井田柿右衛門。
ということは、ゆくゆく跡を継ぐ十六代は伝統路線を走るのかもしれませんね。
3番目に紹介されていたのは、萩焼の家系に生まれた十二代三輪休雪さんです。
しかし、2019年に十三代を弟に譲ったそうで、
現在は、三輪龍氣生 (りゅうきしょう) を名乗っているとのこと。
そんなヤンキーみたいな名前を名乗るだけあって (←?)、作風はだいぶアヴァンギャルドです。
こちらは、そんな三輪さんが業界で鮮烈なデビューを果たした作品 (の再制作)。
その名も、《ハイヒール》 です。
「何で陶芸でハイヒール?」 とか考えたら、たぶん負けなのでしょう。
Don't think、feelです。
ちなみに、この作品は、ちゃんとろくろをひいて制作されているのだそう。
足を入れる部分とヒールの部分それぞれをろくろで作って、最後にドッキングさせているそうです。
足を入れる部分とヒールの部分それぞれをろくろで作って、最後にドッキングさせているそうです。
また、会場には、三輪さんの近作も展示されていました。
特にインパクトが強かったのが、こちらの 《女帝・夏》 という作品です。
「エロス(愛)」 と 「タナ トス(死)」 をテーマに、
生涯制作を続けているという三輪さんの70代の時の作品です。
なんかいろいろと衝撃的でした。
解説には書かれていなかったですが、
たぶん、いや、絶対、M字開脚を意識した作品なのだと思います。
インリン・オブ・ジョイトイ的な。
最後に紹介されていたのは、十五代樂吉左衞門さん。
昨年、長男に十六代を譲り、自身は 「樂直入」 に改名しました。
樂さんと菊池コレクションを築いた菊池智さんの付き合いは古いのだそう。
智さんが 《焼貫筒茶碗 萠》 を購入したのが、そのきっかけだったのだそうです。
実は、このお茶碗には、ある欠陥が。
なんでも水を入れたら漏れてしまったのだそうです。
そのクレーム (?) の電話を入れたことで、2人の交流が始まり、
1990年には、智美術館の前身である菊池ゲストハウスを会場にして、
約6年の準備期間をかけたという伝説の展覧会 “天問” が開催されたのだそう。
今展では、そんな “天問” に出品された作品約20点が一挙展示されています。
なお、展覧会のタイトルだった “天問” とは、
中国戦国時代の詩文集 『楚辞(そじ)』に収められた詩のタイトルなのだとか。
それだけに、作品には、《焼貫黒樂茶碗 巍巍》 とか、
《焼貫黒樂茶碗 虞淵》 とか、
北方謙三小説の登場人物みたいな名前が付けられていました。
と、それはさておき。
やはり何と言っても目を奪われるのが、見込みに使われている深い黒色です。
レクサスの黒よりも高貴な黒。
ブラックホールを覗き込んでいるような気分になるほど、深淵な黒色です。
ここに抹茶を入れたら、映えること間違いなし。
フォルムは革新的かもしれませんが、
実はちゃんと伝統にのっとった造形と言えそうです。
ちなみに、展覧会のラストでは、
“天問” 以降の樂さんの作品も紹介されていました。
タイトルは、《雨浸して大地の夕を潤す時》。
北方謙三感はすっかり鳴りを潜めて、村上春樹感が醸し出されていました。