今年2020年は、箱根ラリック美術館開館15周年であり、ルネ・ラリック生誕160周年でもあり。
そんなダブルの記念イヤーを祝して、現在、箱根ラリック美術館では、
“ドラマチック・ラリック 想いをかたちに ときめく香水瓶” という展覧会が開催されています。
(注:館内は写真撮影禁止です。特別な許可を得て撮影しています。)
こちらは、ラリックがその生涯において、
約400種類以上も制作したという香水瓶にスポットを当てた展覧会です。
今でこそ、工芸品としても美しく、バリエーションも豊富なガラスの香水瓶ですが、
実は、20世紀初頭までの香水瓶は、ほぼ似たり寄ったりの味気ない形をしていました。
香水瓶というよりは、ヨードチンキとか薬の瓶のような印象です。
こちらの香水瓶なんか・・・・・
ラベルにオッサンがデザインされていました。
良い香りがするとは到底思えません。。。
さて、このオッサンラベルの香水瓶だけでなく、
当時の香水瓶は、その見た目だけでは、香りが伝わらないものでした。
そんな香水瓶に革命を起こしたのが、伝説の香水商と言われるフランソワ・コティ。
香水の香りをビジュアル化できないものかと考えた彼は、
当時、ジュエリー作家として成功を収めていたラリックに白羽の矢を立てます。
当初、コティはラリックに対して、
香水瓶に貼るラベルをオファーしていただけだったのですが・・・・・。
「これからは、ガラスの時代だ!」 と直感したラリックは、
ガラス工場を借りあげた上で、コティに香水瓶そのものから作らせて欲しいと逆オファー。
かくして、ラリックが香水瓶をトータルデザインするように。
これまでの香水瓶とは一線を画す、美しく造形的なラリックの香水瓶は大評判となり、
その後、ラリックのもとには、コティ社以外からも続々とオファーが舞い込むようになったのです。
今回の展覧会では、そんなラリックが手掛けた香水瓶の数々を紹介。
しかも、可能な限り、当時の広告と合わせる形で紹介されていました。
特に印象的だったのは、リュシアン・ルロン社の 《香水A (または香水N)》。
(画面左にあるのが、《香水A (または香水N)》 の瓶。画面右にあるのは、そのケースです)
一見すると、都会的でスタイリッシュな香水瓶のように思えますが。
よーく見てみると、二重構造になっているのがわかります。
中身の香水がほんのわずか底の4隅に残っていますが、
香水がひたひたに入った状態なら、女性のドレスのシルエットのような形が浮かび上がるはず。
そのことを裏付けるように、リュシアン・ルロン社の広告にも、
《香水A (または香水N)》 とドレスを身にまとった女性がセットで描かれていました。
また、もう一つ印象的だったのが、
ウォルト社から数年置きに販売されたという5つの香水瓶。
いわゆる香水瓶5連作です。
左から、《ダン・ラ・ニュイ》、《ヴェール・ル・ジュール》、
《サン・アデュー》、《ジュ・ルヴィアン》、《ヴェール・トワ》。
5つの香水の名前を順に繋げると、こんな一文になるそうです。
「真夜中に、夜明け前に、さよならは言わない、私は戻ってくる、あなたのもとへ」
なるほど。ドラマチックですね。
さて、会場では、そんな香水瓶5連作のうちの1つ、
《ジュ・ルヴィアン》 の香りを再現したコーナーも用意されていました。
(↑なお、この化粧鏡もラリックが制作したもの。今展が初公開となるそうです)
「私は戻ってくる」という名が付けられた 《ジュ・ルヴィアン》 は、
第二次世界大戦の当時、戦地に赴く兵士達がよく恋人に贈っていたのだそう。
当時の女性たちは、この香水をつけて、
彼氏の帰還を待ちわびていたのですね。
ただ、もしも、その後、彼氏が無事に戻ってきて、破局してしまった場合、
その彼氏は、ジュ~ルヴィア~ンの香水のせいで、いろいろと思い出してしまうのでしょうね。
ちなみに、 《ジュ・ルヴィアン》 の香りは、思ったよりも甘くないシャープな香りでした。
男性が付けても、違和感ないかも。
そうそう。甘くないといえば。
箱根ラリック美術館のカフェレストラン 「リス(LYS)」 では、
香水瓶5連作のうちの1つ、《ダン・ラ・ニュイ》 をイメージした・・・・・
オリジナルスイーツが提供されていました。
バニラムースを見た目にも鮮やかなブルーで包み込み、
《ダン・ラ・ニュイ》 の香料として使用された花やフルーツも用いられているスイーツです。
酸味と甘みのバランスが絶妙で、
甘い見た目とは裏腹に、まったく甘ったるさがありませんでした。
ラリックの香水瓶の世界を目と鼻、
さらに、口でも味わえるドラマチックな展覧会。
別に君をまた好きになることはありえないですが (←?)。
ラリックと彼の香水瓶のことは好きになる展覧会です。