この秋、富山県美術館で開催されているのは、
“TADのベスト版 コレクション+(プラス)” という展覧会。
僕が人生で初めてゲストキュレーターとして携わった展覧会です。
だから、というわけでは決してないのですが。
この展覧会は、3ツ星。
文句なしに、3ツ星です。
この 『観シュランガイド』 のコーナーは、
これまで一切の忖度なしで、本音でお届けてしてきました。
今回も、本当にそれ。
実に素晴らしい展覧会なのですが、
強いて欠点を上げるとするならば、とに~がやや自由過ぎ。
あと、とに~がトリを飾っていたが、そんな器ではない (笑)
その2つが減点ポイントでしょう。
さてさて、この展覧会、まず何が素晴らしいかといえば、
そもそも富山県美術館のコレクションそのものが素晴らしい。
シャガールやダリ、ミロなど高そうな奴は大体コレクション。
今展では、それらの一級品が惜しげもなく展示されています。
(注:館内は一部を除いて写真撮影禁止です。特別な許可を得て撮影しています。)
それらの中には、2012年にイギリスのオークションで、生存する画家としては、
史上最高額となる約27億で落札され話題となった、ゲルハルト・リヒターの作品も。
また、開館以来初の試みとして、
所蔵するピカソ作品全7点を一挙公開しているのも見どころの一つです。
さらに、過去最大規模のコレクション展ということで、
これまであまり披露される機会がなかった隠れた名品たちもここぞとばかりに出展されています。
そして、何と言っても素晴らしいのが、
ゲストキュレーターが担当したコーナーです。
アーティストの開発好明さんは、美術の新しい観方を提案。
サム・フランシスの作品を寝転がって見てみたり、
鳥が描かれたコーネルの作品を階段に上がって見てみたり。
これまでにはない鑑賞体験ができます。
「ごろごろサム・フランシス」 とか、
「もうちょこっとコーネル」 とか、ネーミングにもクスっとさせられます。
特に印象的だったのは、裸体の彫刻を集め、
銭湯に見立てた場所で、井戸端会議をさせるというもの。
(音声はスピーカーから流れています)
いわゆる 「#MeToo」 運動をテーマにしながらも、
重くなく、むしろ軽やかに見せているところに好感を抱きました。
続いては、『ここは退屈迎えに来て』 や 『アズミ・ハルコは行方不明』 など、
数多くのヒット作を生んでいる人気小説家・山内マリコさんがキュレーションした展示コーナー。
彼女は生まれ育った 「富山」 や、「
作品の選び方、組み合わせ方がキレッキレでした。
ちなみに、作品に添えられたキャプションは、山内さんによる直筆。
まるでプライベートの手紙を受け取って読んでいるよう。
親密さと、特別な秘密を共有している感覚を味わうことができますよ。
3人目のキュレーターは、美術評論家の林道郎さん。
今回は、『エコー(こだま)』
作品同士が響き合うように配置されたこだわりの強い展示空間となって
林さんは今回のために、事前に2度も美術館を訪れ、
収蔵庫で眠る作品を片っ端から見せてもらったのだそう (僕は一回で充分でしたw)。
その作業の中で、知る人ぞ知るアーティスト、藤江民さんの大作を発見!
展示されるのは、実に40年ぶりとのこと。
作家ご本人も 「まさかこんな綺麗に残っているとは!」 と驚いたのだとか。
ちなみに、この作品はキャンバスに筆で直接描いた作品ではありません。
まずフィルムの上に筆で描き、その筆触をキャンバスに転写しているのです。
つまりは、絵画というよりも版画。
実際に近づいて観てみると、フラットな画面であることに気が付かされました。
林さんのコーナーには、他にも掘り出し物の作品が多々あります。
僕がキュレーションしたコーナーは・・・・・見てのお楽しみ、ということで (笑)
コロナの影響で、もうしばらくの間、
海外から作品を借りてくるのは難しそうです。
そうなると、自館のコレクションを見せていくしかありません。
しかし、普通に展示しているだけでは、いずれ限界がきます。
飽きられる前に、新しい切り口を提案する必要がありそうです。
そういう意味では、この展覧会は、
ニューノーマルなコレクション展の一つの回答といえるのではないでしょうか。
そんな展覧会に携われたことを、心から光栄に思います。
たいていの展覧会は、目立つ作品とそうでもない作品が入り混じっているものですが。
今回の展覧会は、出展作品約150点すべてが、
それぞれ見せ場があり、それぞれ光り輝いています。
まさしく、神キャスティング。
これほどキャスティング力が素晴らしいのは、
“TADのベスト版 コレクション+” か 『半沢直樹』 だけです。