この秋、すみだ北斎美術館で開催されているのは、
“学者の愛したコレクション ―ピーター・モースと楢﨑宗重―” という展覧会。
すみだ北斎美術館コレクションの中核をなす、
2人の学者のコレクションにスポットを当てた展覧会です。
まず紹介されていたのが、ピーター・モースのコレクション。
(注:展示室内の写真撮影は、特別に許可を得ております。)
ピーター・モースは、北斎の研究者でもあり、
世界有数の北斎作品コレクターでもあった人物です。
ちなみに、大森貝塚を発見したエドワード・モースの血縁にあたります。
そのコレクションの特徴は、マニアックであるということ。
「富嶽三十六景」 とか 「諸国瀧廻り」 とか、
一般的な北斎作品コレクターが欲しがる作品も抑えつつ、
それ以上に、北斎の作品の中でもマイナーなもの (?) ばかりを集めていたそうです。
それだけに、他の美術館では目にしないような、
北斎の作品にたくさん出会えるのが、今展の最大の魅力といえます。
初めて目にする印象的な作品は多々ありましたが、
その中でも特に印象に残ったものをご紹介いたしましょう。
まずは、《新板浮絵八ッ山花盛群衆之図》。
葛飾北斎 《新板浮絵八ッ山花盛群集之図》 すみだ北斎美術館蔵(
北斎が描く人物というと、『北斎漫画』 に登場するような、
一目で北斎が描いた人物とわかる、やや強めの個性がありますが。
こちらの浮世絵に描かれた人物は、
いい意味で、北斎っぽさがありませんでした。
葛飾北斎 《新板浮絵八ッ山花盛群集之図》(部分) すみだ北斎美術館蔵(
デフォルメ具合といい、色味といい、
どことなく80年代アニメ感がありました。
エモい北斎。
続いては、《休茶屋》。
葛飾北斎 《休茶屋》 すみだ北斎美術館蔵(
一見、お茶屋さんでの何気ない場面が描かれているように思えましたが。
客の男性のお腹を思わず二度見してしまいました。
葛飾北斎 《休茶屋》(部分) すみだ北斎美術館蔵(
ものすごくパンパン。
お茶、何リットル飲んだんだ!
あと、よく見ると、左足が奇妙に捻じれています。
怖ぇよ。
店員の後ろにいる女性も、若干引いているように見えます。
続いては、北斎の天才性を再確認させられた作品です。
葛飾北斎 《盆踊》 すみだ北斎美術館蔵(
タイトルは、《盆踊》。
盆踊りの様子を描いた絵は数多くありますが、
縦長のスタイルで描いた人間なんて、北斎しかいないのでは?
その発想力に痺れました。
ちなみに。
展覧会では、ピーター・モースが集めた貴重な北斎作品の数々だけでなく、
葛飾北斎 《百人一首乳母かゑとき 猿丸太夫》 すみだ北斎美術館蔵(
葛飾北斎 『初若菜』 すみだ北斎美術館蔵(
ピーター・モースが北斎について語った言葉の数々も紹介されています。
言葉の端々から溢れ出る北斎愛。
これほどまでに日本の画家を愛してもらえて、
同じ日本人として、ジーンとくるものがありました。
・・・・・・ただ。
最後に紹介されていた彼の言葉に対しては、
その愛が強すぎるがあまり、若干戸惑ってしまいました。
えっ何、宗教でも始めるつもり??
北斎が教祖の。
さて、第2展示室で紹介されていたのは、
昭和から平成にかけて活動した美術史家、楢﨑宗重のコレクション。
国際浮世絵学会の前身である日本浮世絵協会を設立し、会長も務めたことのある人物です。
イルマ・E・グラブホーン 《楢﨑宗重肖像画》 すみだ北斎美術館蔵(前期)
彼のコレクションの特徴は、ピーター・モースとは違って、
北斎に限定せず、葛飾派や他派の絵師たちの作品も満遍なく集めている点にあります。
それらの中には、歌川広重や歌川国芳の作品も。
また、浮世絵に限らず、長澤蘆雪や高橋由一といった日本画や洋画の作品や、
現在SOMPO美術館で回顧展が絶賛開催中の川瀬巴水の作品も含まれていました。
実は、楢﨑宗重と巴水は、生前から交流があったのだそうです。
なお、コレクションのジャンルの幅があまりにも広いので、
ピーター・モースと比べて、楢﨑の北斎愛は薄いのかと思いきや。
彼の年表を見るに、「墓所は北斎と同じ元浅草の誓教寺」 と記載されていました。
北斎と同じ寺で眠りたいだなんて、究極の北斎愛ではなかろうか。
ちなみに。
前期で紹介されていた楢﨑コレクションの中で、
個人的に一番印象に残っているのが、渡辺崋山の 《其角肖像真蹟》 です。
渡辺崋山 《其角肖像真蹟》 すみだ北斎美術館蔵(前期)
う~ん。この顔、誰かに似ているような・・・。
考えること数分。
渡辺崋山 《其角肖像真蹟》 (部分) すみだ北斎美術館蔵(前期)
あっ、松村邦洋だ!!
バウバウ。
┃会期:【前期】10月12日 (火)~11月7日(日) 【後期】11月9日(火)~12月5日(日)
┃会場:すみだ北斎美術館
┃https://hokusai-museum.jp/modules/Exhibition/exhibitions/view/1692