現在、DIC川村記念美術館で開催されているのは、 “ミニマル/コンセプチュアル:ドロテ&コンラート・フィッシャーと1960–70年代美術” という展覧会です。 |
(注:展示室内の写真撮影は、特別に許可を得ております。)
ミニマル・アートとコンセプチュアル・アート。
そんな2つの美術の潮流を紹介する展覧会です。
まずは、ミニマル・アートについて簡単にご紹介いたしましょう。
ミニマル・アートは、1960年代に主にアメリカで起こった美術の潮流です。
直訳すれば、最小限のアート。
「シンプルイズベスト」 を地で行くようなアートです。
当然のように、作品の色はシンプルななものに、
形は正方形や立方体といったシンプルな形に行き着きます。
また、ミニマル・アートの作家は、
自身の手を遣わず、金属板や蛍光灯といった既製品を用いがち。
こうして、作品からは作家の個性や感情といったものも消えていきます。
そんなミニマル・アートに続いて現れたのが、コンセプチュアル・アート。
作品のビジュアルよりも何よりも、
アイディアやコンセプトを重視するアートです。
その表現方法は実に多彩で、オブジェや写真、映像、
さらには、言葉や自然物、作家自身の身体を使った作品なんかもあります。
そんな “アートってムズカシイネ・・・” の2トップ、
ミニマル・アートとコンセプチュアル・アートにとって重要な存在なのが、こちらの夫妻↓
コンラート・フィッシャーとその妻ドロテです。
自身もアーティストであったコンラート・フィッシャーは、
1967年に、ドイツのデュッセルドルフにギャラリーを開きました。
彼はドイツ国内に限らず、アメリカやヨーロッパの若いアーティストたちと、
綿密にコンタクトを取りながら、それまでにない斬新なシステムで展覧会を実現させていきました。
そのシステムとは、完成した作品をアトリエから輸送するのではなく、
アーティスト本人をギャラリーに招いて、現地で作品を制作させるというもの。
今でこそすっかり当たり前のこの制作スタイルを、フィッシャーはいち早く取り入れいてました。
まさに、コロンブスの卵。
ちなみに、アーティスト本人ではなく、指示書に基づき、
職人やエンジニアといった別の人物が制作や展示設営をするという、
こちらも今ではすっかり当たり前のやり方も、フィッシャーは先駆的に取り入れていたそう。
今まで考えたこともなかったですが、
何事にもやはり生みの親というのはいるものなのですね。
さてさて。
今展では、そんなフィッシャー夫妻のコレクションを収蔵した、
ノルトライン゠ヴェストファーレン州立美術館の全面的な協力のもと、
ミニマル・アートやコンセプチュアル・アートの一級品の数々が来日しています。
さらに、国内の美術館やギャラリーからの借用品も充実。
それらの中には、ゲルハルト・リヒターやブリンキー・パレルモ、リチャード・ロング、
さらには、日本を代表するコンセプチュアルアーティスト・河原温の作品の数々もあります。
また、それに加えて、アーティストとの手紙、指示書、
展覧会のDMなどの貴重な資料も数多く展示されていました。
どの作品も、見た目こそシンプルですが、
ミニマル・アートも、コンセプチュアル・アートも、見た目が1割。
あとの9割は、思想やコンセプトですので、
普通の展覧会よりも、キャプションが圧倒的に多かったです。
数も文字数も。
ちゃんと全部読んで、ちゃんと全部理解しようとすると、
あっという間に、1,2時間が経過してしまうことでしょう。
訪れる際には、鑑賞時間をマキシマムに設定されることをオススメいたします。
ちなみに。
個人的にもっとも印象に残った作品をご紹介いたしましょう。
マルセル・ブロータースの 《署名、シリーズ1》 (画面左)です。
画面全体にビッシリと書かれているのは、「M.B.」 の文字。
「M.B.」 とは、マルセル・ブロータースの署名です。
普通のアートでは、作品の付属物 (?) に過ぎない署名。
それをあえて全面的に押し出し、埋め尽くすことで、アートにしてしまった作品です。
脇役が主人公になる。
スピンオフのようなアート作品です。