日本初の写実絵画専門美術館・ホキ美術館が開館して、早2年。
約300点ほどの写実絵画コレクションを入れ替えつつ、展示し続けたことで、
ホキ美術館は、 『写実の殿堂』 として、美術界に独自の地位を築いた感があります。
・・・・・・・が、その一方で。
常に写実絵画のみを展示し続けているがゆえに、
いつ訪れても、展示室内に、そんなに大きな変化がない美術館であるイメージも定着してしまったような。
これは、あくまで、僕の中での見解ですが、
おそらく、ホキ美術館ほどリピーターになりづらい美術館は無いのでは、という気がします。
ちなみに、僕は、これまでに3回ほど、足を運んでいますが。
最初に訪れた時の衝撃が大きかっただけに、
2回目、3回目と、回を重ねるごとに、その衝撃が薄れている感は否めません。
いい意味でも悪い意味でも、ホキ美術館に慣れてしまいました。
と、そんな中 (←?) で、11月21日よりホキ美術館で始まったのが、
“写実の可能性と大いなる挑戦―新規収蔵展” という美術展です。
こちらは、開館からの2年間でコレクションされた新規収蔵品32点と、
ホキ美術館のために描きおろされた未発表作品15点を一挙に展示している美術展。
(注:展示室内の撮影は、特別に許可を得ています)
展示されているのは、相変わらず写実絵画ばかりなのですが。
展示室内に入った瞬間に、確実に、これまでの美術展とは違う空気を感じました。
いい意味で、緊張感が漂っていると言いますか。
明らかに、以前よりも、空気が密になっている気がするのです。
しばらく、観賞を続けるうちに、その理由に思い至りました。
これまで展示されていたのは、単なる写実絵画 (←いや、実際は、スゴい絵ばかりなんですよ!)。
しかし、今回展示されているのは、
『写実の殿堂』 と称されるホキ美術館に展示されることを大前提として描かれた写実絵画。
料理に例えるならば、これまで料理人がお店で出していた料理と、
『料理の鉄人』 の舞台で、料理人が披露する料理くらいの違いがあります。
ともあれ、ホキ美術館という最高のステージが用意された上で、
新作を描く画家の気合やプレッシャーは、並大抵のものではなかったはずです。
そんな数々の描き下し作品の中でも、一際印象的だったのが、
野田弘志さんの新作シリーズ 《「崇高なるもの」OP.2 》 と 《「崇高なるもの」OP.3 》
モデルとなっているのは、ホキ美術館の館長保木将夫さんと、
詩人の谷川俊太郎さん。
一見すると、これまでと同じく (?)
「うわ~、まるで写真みたい~♪」 と、単純に驚かされるだけの写実絵画のようですが。
そんなペラッペラな作品では、決してありません。
(注:作品の横にいらっしゃるのが、野田さんご本人です)
作者の野田さんが目指したのは、人間の凄みや存在の美しさを表現すること。
あえてモデルに特別なポーズを取らせることもなく。
あえて背景にこだわったり、静物を置いて、構図の面白さを狙うこともなく。
ただただ、モデルをありのままに描くことで、人の存在というものを描こうとしているのだとか。
もはや写実絵画というよりも、写実絵画という技法を駆使した抽象画という気がしました。
ちなみに、野田さん曰く、この作品は、まだ未完成。
というよりも、完成することはないそうで、生涯を通じて、手を入れ続けていきたいとのこと。
今回の美術展が終わったら、一度、自分のアトリエに持って帰って、早速手を入れ直すのだそうです。
さてさて、野田さん以外の作家さんも、次なるステージを目指した写実絵画を発表していました。
安彦文平さんは、3・11の震災後に宮城県気仙沼市を取材した 《九九鳴き浜の蘇生》 という作品を。
五味文彦さんは、モデルの写真を破いて、それを再構成した 《ヒゲを愛した女》 という作品を。
(この謎のタイトルは、破いた写真を重ねた影の部分が、ヒゲに見えることに由来するのだとかw)
ホキ美術館が、すっかり 『写実の殿堂』 として定着したがゆえに、
日本の現代写実絵画界のレベルが、一歩も二歩も底上げされたことを実感する美術展でした。
“リピーターになりづらい美術館” という前言は撤回しますm(__)m
今後のホキ美術館と日本の現代写実絵画界に期待を込めて、2つ星。
最後に、一人だけ違うベクトルで頑張っている (?) 写実画家をご紹介。
こちらは、石黒賢一郎さんの 《CH-OP 08 お願いお願いきずつけないで》 という作品。
横から見るとわかるのですが・・・
女性のヌード画の一部が、謎の器具で覆い隠されています。
肝心なところが見えないじゃないかっ!(←?)
正直なところ、元ネタが、わからなかったのですが。
作品の右下に、こんなものを発見!
「あぁ、だから、そういうタイトルなんだ・・・ (苦笑)」
一部の世代の人には、大ウケする作品なのでしょうね。
そんな石黒さんの新作を、もう1点ご紹介いたしましょう。
タイトルは、 《A○○KA-02》 。
“ん?この伏字って・・・。そして、モデルの頭に乗ったアレって・・・”
すぐさま作品の右下をチェックしてみますと・・・
やっぱり (笑) !!
写実絵画の世界にアニメを持ち込む男・石黒賢一郎さん。
もし、一度お会いする機会があったなら、
「あんたバカぁ?」 と言ってあげたいものです (笑)
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