現在、東京都写真美術館で開催されているのは、
“本橋成一とロベール・ドアノー 交差する物語”という展覧会。
(注:展示室内の写真撮影は、特別に許可を得ております。)
50年以上にわたって、市井の人びとの姿を、
撮り続けてきた写真家で映画監督の本橋成一さん(1940~)と、
東京都写真美術館の外観に大きくプリントされた・・・・・
《パリ市庁舎前のキス》で知られるパリの写真家ロベール・ドアノー(1912~1994)。
年代も活躍した場所も違う2人の異色のマッチングが楽しめる展覧会です。
本橋さんとドアノーの2人の間に特に接点はなく、
これまで一度もこの組み合わせでの2人展は開催されたことがなかったそうですが。
意外や意外にも、マッチングさせてみたら、
2人の共通点がどんどん見つかったのだそうです。
例えば、2人ともに炭鉱を取材した作品を撮影していました。
また例えば、2人ともにサーカスを取材した作品を撮影していました。
他にも2人は、市場で働く人々や、
街中にいる普通の人の何気ない場面など、
日本とフランスと撮影場所は違えど、似たような光景を撮影しています。
↑こうして一挙展示されると、
パッと見、どちらがどちらの作品かわからないほど。
本橋さんとドアノーは、もしかしたら精神的双子だったのかもしれません。
ただ、被写体が似ているというだけでなく、
2人の写真から感じられるユーモアセンスも似ています。
炭鉱で見つけた落書きを撮影してみたり、
ガーゴイルがエッフェル塔を食べているかのように撮影してみたり。
どちらの写真にも、思わずクスっとなるようなものが多々ありました。
芸人的な視点で言えば、「写真で一言」のお題になりそうなものも少なくありませんでした。
例えば、小窓が2頭の豚が覗くベラルーシで本橋さんが撮影したこちらの写真(右)。
また例えば、ヌード画をガン見するマダムの姿を捉えたドアノーの写真(右)。
どちらもボケ甲斐のあるお題となりそうです。
ちなみに、個人的に一番印象に残っているのは、
かつての上野駅のホームで撮影された本橋さんのこちらの写真(右)。
元祖「チャリで来た」といったところでしょうか。
全力でいきがっている感じが、妙な可笑しみを生んでいました。
なお、展覧会では2人の代表作が中心に展示されていますが、
展覧会のラストでは、与那国島のとある漁師を取材した本橋さんの《沖縄 与那国島》や、
晩年のドアノーによるカラー写真なども紹介されています。
これらはそれぞれ、美術館初公開、日本未公開の作品群。
過去の本橋成一展やロベール・ドアノー展では見られなかった貴重な作品群です。
どうぞお見逃しなきように。
ちなみに。
本橋さんとドアノーの2人の間に特に接点はないと、
冒頭でお伝えしましたが、正確にはニアミスはあったようです。
それは、1991年のこと。
本橋さんは憧れのドアノーに面会すべく、フランスへと向かいました。
ところが、飛行機の到着が遅れてしまったため、
念願のドアノーとの対面は叶わなかったのだとか。
ただ、約束の場所にはドアノーの写真集『カウンターの輩』が託されていたそうです。
「カウンターの輩には気をつけたまえ」という謎めいたメッセージとともに。
あれから約30年。
ようやく2人がこうして再会できたのかと思うと、何とも感慨深いものがありました。