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甲斐荘楠音の全貌―絵画、演劇、映画を越境する個性

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近年注目を集めている京都画壇の異才こと、甲斐荘楠音(1894~1978)

その26年ぶりとなる過去最大規模の回顧展、

“甲斐荘楠音の全貌―絵画、演劇、映画を越境する個性”が、

現在、東京ステーションギャラリーで開催されています。

 

(注:館内の写真撮影は、特別に許可を頂いております。)

 

 

過去最大規模の回顧展と謳うだけあって、

甲斐荘楠音(かいのしょうただおと)の代表作が数多く出展されています。

 

 

 

それらの中には、“あやしい絵”展でも、

ひときわ妖しい絵だと話題になった《幻覚(踊る女)》や、

 

《幻覚(踊る女)》 1920年頃、京都国立近代美術館

 

 

花魁というより、もはやジョーカーに近い《春宵(花びら)》

 

《春宵(花びら)》 1921年頃、京都国立近代美術館

 

 

さらには、未完の超大作《畜生塚》も含まれていました。

 

《畜生塚》 1915年頃、京都国立近代美術館

 

 

甲斐荘楠音=あやしい絵を描く人。

きっと、多くの美術ファンの頭の中には、

そんなイメージがこびりついている感もあるでしょうが。

今回の甲斐荘楠音展の最大のミッションは、

甲斐荘楠音のイメージをアップデートすることにあります。

それゆえ、あやしくない絵(?)も多数紹介されていました。

 

 

 

実は、少年時代からレオナルド・ダ・ヴィンチや、

ミケランジェロなど西洋美術に憧れを抱いていたという甲斐荘。

確かに、改めて、彼の作品を観てみると、

どこかルネサンス美術に通ずるものがありました。

日本画でありながら、西洋美術の雰囲気を醸し出す。

なんともボーダーレスな魅力のある絵画です。

 

ちなみに。

今展に出展されている絵画作品の中で、特に見逃せないのが《春》

 

《春》 1929年、メトロポリタン美術館、ニューヨーク
Purchase, Brooke Russell Astor Bequest and Mary Livingston Griggs and Mary Griggs Burke Foundation Fund, 2019 / 2019.366

 

 

2019年にメトロポリタン美術館の所蔵となった作品で、

今回のために、里帰りを果たした甲斐荘の初期の代表作です。

城本クリニックのCMの女性なみに、ゴロゴロしていますね。

よく見てみれば、袖の上に乗ったコップの中には、まだ水が少し入っています。

たぶん、いや、きっとそのうち、こぼしますね。

 

 

さて、日本美術と西洋美術のボーダーを越えた絵画を描いていた甲斐荘ですが、

昭和15年に画業を中断し、美術業界のボーダーを越え、映画業界へと転身します。

そして、衣裳・風俗考証家として、日本の時代劇映画の黄金期を支えたのでした。

展覧会には、そんな甲斐荘が手掛けた豪華絢爛な映画衣裳の数々が展示されています。

 

 

 

甲斐荘がその生涯で携わった映画は、実に230本以上!

溝口健二監督作品の『雨月物語』にいたっては、

なんとアカデミー賞の衣裳部門にもノミネートされています。

 

 

 

また、甲斐荘が携わった映画の中には、

市川右太衛門が主役を演じた人気シリーズ『旗本退屈男』も。

会場には、その主人公の早乙女主水之介が、

映画で実際に着た衣裳も多数展示されていました。

 

『旗本退屈男 謎の幽霊島』衣裳、東映京都撮影所 

©東映(映画公開:1960年、監督:佐々木康、製作・配給元:東映株式会社、衣裳着用者:市川右太衛門)

 

 

『旗本退屈男』という題名くらいは聞いたことがありましたが、

まさか、30本以上も作品が作られるほどの人気シリーズだったとは!

水戸黄門しかり、遠山の金さんしかり、

時代劇の主人公はいつも同じ服を着ているイメージがありますが、

早乙女主水之介は毎回衣装が違っていたということにも驚きました。

あと、『旗本退屈男』のサブタイトルの適当さにも驚きました。

「謎の百万両」とか「謎の幽霊船」とか「謎の南蛮太鼓」とか「謎の大文字」とか。

「謎の~」に頼りすぎにもほどがあります。

 

 

ちなみに。

美術の世界と映画の世界だけでなく、

甲斐荘は、演劇の世界にも関心を抱いていたようで、

自らも女形として素人歌舞伎の舞台に立っていたようです。

 

太夫に扮する楠音、京都国立近代美術館

 

 

甲斐荘は、性別すらも越境していたのですね。

甲斐荘楠音、一体あなたは何者なのか。

知れば知るほど、その輪郭線がぼやけていくような。

不思議な感覚になる展覧会でした。

星星

 

 

そういえば、“あやしい絵”展をはじめ、過去の展覧会では、

「甲斐荘楠音」ではなく、「甲斐庄楠音」と表記されていましたっけ。

実は、37歳の時に「甲斐荘」から「甲斐庄」に雅号を改めたのだとか。

ただ、結局、どっちの雅号も使っていたのだそうです。

「甲斐荘」になったり、「甲斐庄」になったり。

名前からして、ボーダーレスな人物だったのですね。

 

 

 ┃会期:2023年7月1日(土)~8月27日(日)

 ┃会場:東京ステーションギャラリー
 ┃https://www.ejrcf.or.jp/gallery/exhibition/202307_kainosho.html

 

 

 

 

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