現在、外苑前のワタリウム美術館で開催されているのは、
“山田寅次郎展 茶人、トルコと日本をつなぐ”という展覧会です。
展覧会の主人公は、この人。
山田寅次郎(1866~1957)です。
・・・・・と言われたところで、
多くの日本人が、「え?誰??」となったことでしょう。
が、しかし!
トルコにおいて、山田寅次郎はもっとも知られた日本人。
イスタンブールには、“山田寅次郎広場”なるものがあるほどの人物です。
一体何者なのでしょうか??
時は、1890年。
オスマン帝国から日本に派遣されたエルトゥールル号が、
その帰路、台風の影響で乗組員のほとんどが命を落とした海難事故に遭ってしまいます。
その痛ましい事故に心を痛めた寅次郎青年26歳は、
演芸会を開くなどして、現在の金額にして1億円の義援金を集めます。
さて、この義援金をどうしたものか?
当時の外相であった青木周蔵を訪ねたところ、
「君自身がトルコに赴いてはどうか?」と、丸投げ(?)されます。
この時、寅次郎24歳。
縁もゆかりもないトルコに、
義援金をもって足を踏み入れたところ、
イスタンブールの人々から熱烈な歓迎を受けました。
さらに、スルタン(皇帝)に拝謁したところ、大いに気に入られ、
そのままトルコに滞留し、アートディレクター的な立ち位置で重宝されることに!
以後、10数年ほど、トルコに留まりました。
寅次郎が皇帝に献上した日本の甲冑や大刀は、
現在もトプカプ宮殿博物館に保存されているほどです。
最初の展示室では、そんな寅次郎が、
トルコで感じたことを著した著書『土耳古畫觀』が・・・・・
映像やアニメーション、さらに黒いセル画(?)を、
使用した体験型インスタレーションとして紹介されています。
なお、その一角には、こんなスペースも。
こちらでは、毎週決まった時間に、
チャイやお茶、トルココーヒーが振舞われるそう。
気になる方は、是非、こちらを事前にチェックください↓
http://www.watarium.co.jp/2020/img/exhibition/202308/event_cafe.pdf
さてさて、続く展示室では、
トルコから帰国した後の寅次郎にフォーカスが当てられています。
展示室の一角では、大阪の寅次郎の自宅にあった書斎の再現が再現されていました。
ちなみに。
何気なく設置されている扉も・・・・・
寅次郎の自宅にあった書斎のホンモノとのこと。
そのため、展覧会期間中は、
書斎の扉は、仮のものが設置されているのだとか。
鑑賞する立場としては、貴重なものが観られて嬉しいですが、
そう聴いてしまうと、“いや、そこまでしなくても・・・”と、若干引いてしまいました(笑)。
扉まで分捕ってしまうだなんて、血も涙もないのか!
(注:展覧会期間中、寅次郎の実家には、ワタリウム美術館が手配した仮の扉が代わりに設置されているそうです)
なお、この空間内には、シーシャも展示されていました。
なんでも、トルコ時代の寅次郎は現地でシーシャを嗜んでいたそう。
今でこそ日本でも流行りのシーシャ。
それを初めて体験した日本人は、もしかしたら、寅次郎なのかもしれません。
また、こちらの空間には、こんなものも展示されていました↓
茶道具の数々です。
実は、帰国後、実業家としても成功した寅次郎ですが、
山田宗徧を流祖とする宗徧流の8代目の当主でもあります。
展覧会では、そんな茶人としての寅次郎の一面も紹介されていました。
ちなみに。
(こちらの展示室に関しては写真撮影不可。写真撮影は、特別に許可を得ております。)
最後の展示室では、寅次郎と生涯にわたって、
深い交流のあった建築家・伊東忠太との絵ハガキが紹介されています。
それも、膨大な量の。
しかし、これでも二人がやり取りしたほんの一部なのだとか。
なお、手紙の内容の大半は、取るに足りないものばかり(笑)。
お互い、わりとギャグを飛ばしあっていました。
それだけ二人は仲が良かったのでしょう。
まさか、遠い未来に、こんな感じで、
二人のパーソナルなやりとりが、白日のもとにさらされるとは!
二人も夢にも思ってもみなかったことでしょう。
今でいう、LINE流出みたいなものですね(←?)。
知られざる偉人。
そんな寅次郎に関する資料が、
展覧会では、多々紹介されていましたが、
個人的に一番グッと来たのは、89歳の寅次郎が書いたとうこちらの書。
『勢龍如(いきおいりゅうのごとし)』
と書かれているのだそう。
89歳とは思えないバイタリティー!
というか、寅ではなく、龍に例えるんかい!
それから、もう一つ印象的だったのが、
トルコに行く前の若き日の寅次郎が出版した『東京百事変』。
この本には、当時の東京にあった各省庁や企業、
学校、商店などの屋号や特色・連絡先が網羅されています。
つまり、こちらはなんと日本初の「タウンページ」とのこと。
寅次郎の商才、恐るべし。