現在、栃木県立美術館で開催されているのは、
“今日の彫刻 冨井大裕展―トルソ、或いはチャーハン―”という展覧会。
こちらは、スーパーボールや画びょう、ハンマーなど、
身の回りにある日用品を素材に、彫刻のようで彫刻でない、
いや、やっぱり彫刻かも・・・な作品を制作する彫刻家、
冨井大裕(もとひろ)さん(1973~)の最新個展です。
我が家から栃木県立美術館までは、
サラッと行ける距離ではないので、訪れるか悩んでいたのですが。
ふと、展覧会HPを目にしたら、何とも気になる文言がありました。
“誰もが彫刻家になりうることの可能性を確信させる
冨井大裕の新作を中心とした約9シリーズ/約45件/約2800点の
“彫刻”とともに、私たちの持つ創造性を自由に解放する機会を探ります。”
(展覧会公式HPより抜粋)
え?ちょ、ま!約2800点?!
1ケタおかしくないですか?
どういうことなん??
気になりすぎたので、真相を確かめてきました!」
結論から言えば、約2800点のうちの2827点(←超えてるやん!)が、
日常の中の彫刻的な瞬間を撮影した写真シリーズ《今日の彫刻》でした。
もちろん、冨井さんらしい立体作品も展示されていますが、
それを取り囲むように壁一面一列に《今日の彫刻》が展示されています。
紹介されていた《今日の彫刻》の中には、
「あー、確かに、彫刻っぽい!」と思えるものもあれば、
「あー、はいはい。こんな光景、たまに目にするよね」と思えるものも。
さらには、「どういう状況だよ!」というものも。
食べかけのおにぎりの上に、
飲みかけのコーヒーを置くだなんて。
せめて、逆でしょ!
ちなみに。
《今日の彫刻》シリーズ全部をちゃんと観るのは、至難の業でした。
というのも、会場の中盤くらいから、
自分の身長よりも遥かに高い位置に展示されるように。
最後の展示室に至っては、
ほぼほぼ天井の辺りに展示されていました。
今まで数えきれないほどの美術作品を目にしてきましたが、
これほどまでに、視力との戦いを余儀なくされる鑑賞体験は初めてでした(笑)
《今日の彫刻》シリーズの作品以外で、
特に印象的だったのは、最新作となる《面の存在(床と面)》。
一瞬、“もの派”の李禹煥っぽいなァ、と思ったのですが。
よく見たら、ガラス板を四隅で支えていたのは、辞書でした。
このシュールさが、冨井大裕ワールド。
いい意味で、“もの派”の作品が醸し出す哲学性は感じられません。
他にも、ゴミ箱を素材にした《紙屑と空間》シリーズや、
スースケースを素材にした《旅行者の制作》シリーズも印象的でしたが、
やはり何と言っても、一番印象に残ったのは、
サブタイトルにもある《トルソ、或いはチャーハン》シリーズでしょうか。
壁の高いところに一列に並んでいるのが、《トルソ、或いはチャーハン》シリーズです。
ゴミ箱の蓋が素材となったこちらも、
鉄の棒と枝がボルトで留められているこちらも、
《トルソ、或いはチャーハン》シリーズ。
トルソとは、人間の頭部と両腕、両脚、
すなわち五体を除いた胴体部分のことです。
そこは、まぁ、百歩譲って、
作品それぞれ、トルソに感じられなくもありません。
が、“或いはチャーハン”って!
僕に感受性が無いからでしょう。
チャーハン感は一切感じられませんでした。
というわけで、チャーハン好きの皆様、
チャーハン目的でこの展覧会を訪れると、
たぶんガッカリしますので、お気をつけくださいませ(笑)
最後に、余談ですが。
冨井さんの作品を観過ぎたせいで、
会場内にあった椅子までもが作品に思えてしまいました。
こちらは、単なる監視員さん用の椅子です。
他にも、会場内で消火器を観たり、
段差に出くわしたりするたびに、「作品か?」と思ってしまいました。
世界は冨井さんの彫刻作品にあふれてる。