現在、日本橋髙島屋S.C.本館8階ホールでは、
“柚木沙弥郎と仲間たち”という展覧会が開催されています。
こちらは、100歳を迎えた今なお現役バリバリで、
活動を続けるレジェンド染色家・柚木沙弥郎さんと、
そのお仲間たちにスポットを当てた展覧会です。
なお、この展覧会の主催は、日本民藝館とNHK財団。
それゆえ、展覧会の冒頭では、
柚木さんがセレクトした日本民藝館の所蔵品が紹介されています。
ちなみに。
壁に掛けられている《三河万歳衣裳裂》は、
所蔵品の中でも、柚木さんが特にお気に入りの逸品とのこと。
さらに、こちらもお気に入りというイタリア製の《色絵鳥文鉢》も展示されていました。
色味といい、タッチといい。
なんとなーく、ですが、
昔のケロッグを彷彿とさせるものがありました。
さてさて、展覧会は全3章で構成されています。
まず第1章の「出会いとはじまり」では、
柚木さんの初期の作品と、仲間の作品が併せて展示されていました。
柚木さんの仲間の一人が、陶芸家の武内晴二郎。
大原美術館の初代館長であった武内潔真の次男として生まれた人物で、
柚木さんにとって、初対面の日から急速に親しくなったという生涯の友とのこと。
その迫力ある大ぶりの作品からは、
まったく想像がつかなかったのですが、
実は、武内晴二郎は戦争により、左腕を消失してしまったのだとか。
そんな片腕というハンデを背負いながらも、
生涯にわたって、力強い作品を多く制作したそうです。
そして、柚木さんのもう一人の仲間が、舩木研兒。
島根県松江市の布志名焼舩木窯の5代目として生まれた陶芸家です。
濱田庄司やバーナード・リーチに師事し、
本格的にイギリスのスリップウェアの技法を取り入れました。
ただ、本場のスリップウェアは抽象的な紋様が多いのに対し、
舩木研兒はスポイトを使用して動物の文様を多く制作したのだそう。
どれも、ゆるキャラのようで、絶妙な愛おしさがありました。
その上に料理を盛り付けるのを、ためらってしまいそうです。
続く第2章の「生活を彩る色・かたち・もよう」では、
柚木さんの染色作品の代表作の数々が紹介されています。
さらには、それらの布を使用して、
実際に仕立てられた服も併せて紹介されていました。
これまで柚木さんの作品を目にした機会は何度もあるものの、
平面の布ではなく、こうして洋服になった状態で観たのは初めて。
布そのものよりも仕立てられたほうが魅力が3割増していたような。
章タイトルに“生活を彩る”とある通り、
実際に生活で使ってみたほうが魅力的に映るのかもしれません。
ちなみに、“生活を彩る”といえば、
柚木さんが愛用する民芸品の数々も紹介されていました。
これらは、柚木さんが実際にご自宅で使用しているもの。
ということは、つまり、この展覧会の期間中は、
これだけのものが柚木さんの自宅から無くなっているわけですね(笑)。
そういう意味でも、大変貴重なものを拝見させて頂きました。
さてさて、展覧会を締めくくる第3章では、
これまであまりスポットが当てられたことがなかったという、
染色家の団体「萌木会」の活動にスポットが当てられています。
結成された戦後間もない頃、作家個人では、
布や型紙などを入手するのは、なかなか難しかったそうで、
柚木さんの師である芹沢銈介によって、「萌木会」は立ち上げられました。
1990年代に「萌木会」はその役割を終えたそうですが、
柚木さんはその最後まで中心メンバーとして活動し続けたそうです。
展覧会では、萌木会時代の柚木さんの作品とともに、
芹沢銈介や三代澤本寿、立花長子ら萌木会メンバーの作品も展示されていました。
今でこそ知る人ぞ知る存在の萌木会ですが、
昭和30~40年にかけて、萌木会は人気が高かったそうで、
萌木会が制作した浴衣は「萌木浴衣」と呼ばれ、広く浸透していたのだとか。
マリメッコやミナペルホネンが流行るよりも前に、
日本にこんなオシャレなテキスタイルがあっただなんて。
この展覧会を機に、萌木会がリバイバルブームするかもしれません。