この秋、三井記念美術館では、
6年ぶり3度目となる「超絶技巧」の展覧会が開催されています。
その名も、“超絶技巧、未来へ!明治工芸とそのDNA”。
(注:館内の写真撮影は、特別に許可を頂いております。)
2014年に開催された第1弾では、
明治時代に作られた超絶技巧の工芸品にスポットが当てられました。
続く2017年に開催された第2弾では、明治工芸とともに、
超絶技巧+αな作品を作る現代作家たちの作品も併せて紹介されていました。
今回の第3弾でももちろん、異端の牙彫師・安藤緑山を筆頭に、
安藤緑山《柿》 清水三年坂美術館蔵
明治工芸界のレジェンドたちの作品も紹介されていますが。
今回の主役はあくまで、現代作家たち。
金工や木工、刺繍や切り絵など
多岐に渡るジャンルの現代作家17名による、
超絶技巧+αな作品の数々が紹介されています。
17名の作家のうちのほとんどが、初参戦のメンバー。
「サイバー漆芸作家」の異名を持つ池田晃将さんや、
池田晃将《百千金字塔香合》 2022
立体木象嵌の若き天才・福田亨さんといった、
福田亨《吸水》 2022
アート界を飛び越えてSNS上でも人気の作家も、
満を持して、今回の超絶技巧展に初参戦しています。
そんな初参戦組の作家の中で、
個人的に特に印象に残っているのが、
独学でリアルすぎるペーパークラフトを作っている小坂学さんと、
極薄の木彫作品を制作する松本涼さん。
にわかには信じがたいですが、
風車をモチーフにした《輪廻》は、
一木造りで作られているそうです。
しかも、風が吹けば、ちゃんと回るそうです。
また、名古屋御用鍔師の家に生まれ、
両親も共に金工作家という金工界のサラブレッド、
長谷川清吉さんの作品も、印象的でした。
香合や蓋物など、ちゃんとした(?)金工の作品を作る一方で、
プチプチや爪楊枝など身近なモチーフを、金工で再現する作品も制作しているそう。
当たり前ですが、その見た目とは裏腹に、
手に持ってみると、しっかり重量があるそうです。
そんな長谷川さんの作品と対照的なのが、
輪島の漆芸職人集団「彦十蒔絵」のこちらの作品。
一見すると、古びたモンキーレンチに、
古びたネジ、古びた金属製の工具箱ですが、
実はこれらはなんとすべて漆器です。
漆工の技術だけで金属の質感を完全再現しているのだとか。
つまり、実際は金属ではないので、
手に持ってみると、その軽さにビックリするそうです。
と、初参戦組が存在感を発揮する一方で、
前回の超絶技巧展にも参加した続投組も負けていません。
いや、むしろ前回よりも確実にパワーアップしていました。
例えば、木彫家の大竹亮峯さん。
出展作の一つに、月下美人をモチーフにした《月光》という作品があります。
白い花弁には木材でなく、鹿角を使用しているそうです。
その再現度の高さにも驚かされましたが。
作品の花器の部分に水を注ぐと・・・・・
なんと花が開く仕掛けが施されているのだとか。
どういうこと?!
どうして水を注ぐと花が開くのか、
その仕掛けは企業秘密とのことですが、
令和の工芸は、そこまで進化していたのですね。
また例えば、陶芸家の稲崎栄利子さんも。
一見すると、レースで出来ているように思えますが、
こちらの《Euphoria》という作品は陶土と磁土で出来ています。
極限にまで小さく作った無数のパーツを繋ぎ合わせることで、
この唯一無二のテクスチャーを持つ陶磁作品を制作しているそうです。
なお、最新作の《Amrita》にいたっては・・・・・
もはやレースの布のように、
自由自在に形を変えることができるとのこと。
木彫だけでなく、陶磁も令和に進化を遂げているようです。
最後に紹介したいのは、
“ミスター一木造”こと前原冬樹さん。
前原冬樹《『一刻』スルメに茶碗》 2022
前回の超絶技巧展でも、本物そっくりな・・・いや、
本物にしか見えない、超絶技巧の一木造作品の数々に、
度肝を抜かれましたが、今展でもそのスゴさは健在。
むしろ、さらに磨きがかかっているようでした。
何をどうやったら、一本の木材から、
ブランコのチェーンを彫り抜くことができるのでしょう??
そんな前原さんの最新作が、こちらの《『一刻』トタンに釘、板に鎹》です。
鎹が2か所パチンパチンと留めてあったり。
トタンの破片が上にちょこんと乗っていたり。
過去の作品と比べると、比較的シンプルで、
“これだったら僕でも頑張れば、作れるかも?”と思ったのですが(←?)。
シンプルに見えて、逆に超最高難易度なのだそう。
トタンと鎹の部分だけ残して、彫り進める作業は至難の業。
さらに、自然な木目に見えているものも、多くは描かれたものなのだとか。
あまりにも精巧すぎて、前原さんご本人も、
どこが本物の木目で、どこが描かれたものなのか、
もはやわからなくなってしまったとのことです。
最初から最後まで、あますことなく超絶技巧。
あますことなく驚きのある展覧会でした。
驚きすぎて、ちょっとやそっとのことでは、
驚けない体質になってしまったような気がします。
それだけがネックな展覧会です(笑)。