この秋、東京都美術館では、“永遠の都ローマ展”が開催されています。
(注:展示室内の写真撮影は、特別に許可を頂いております。)
一般市民に公開された美術館のうちで、
世界的にもっとも古い美術館の一つに数えられるカピトリーノ美術館。
その設立のきっかけは、教皇シクストゥス4世が、
1471年にローマ市民に4点の古代彫刻を寄贈したことによります。
なお、一般公開が始まったのは、1734年とのこと。
そんな歴史あるカピトリーノ美術館の所蔵品を中心に、
ローマの歴史と芸術を紹介するのが、今回の展覧会です。
展覧会の冒頭を飾るのは、《カピトリーノの牝狼(複製)》。
《カピトリーノの牝狼(複製)》 20世紀(原作は5世紀) ローマ市庁舎蔵
牝オオカミの母乳を飲んでいるのは、
ローマの建国神話に登場する双子の兄弟ロムルスとレムス。
軍神マルスの子で、兄のロムルスはローマを建国しました。
そう、ローマという地名は、ロムルスに由来したものなのです。
さて、こちらの像こそが、
シクストゥス4世がローマ市民に寄贈した4点のうちの1点。
といっても、カピトリーノ美術館が所蔵する実物ではなく、複製です。
ただし、ただの複製ではありません!
ローマのシンボルとして現在、
ローマ市庁舎に置かれている複製の本物です(←ややこしい!)。
複製と言えば、《コンスタンティヌス帝の巨像》の一部の原寸大複製も。
《コンスタンティヌス帝の巨像の左足(複製)》 2021年(原作は312年頃) ローマ文明博物館蔵
しかも、足や手の複製だけでなく、頭部の複製も来日しています。
《コンスタンティヌス帝の巨像の頭部(複製)》 1930年代(原作は330-37年頃) ローマ文明博物館蔵
シルベスター・スタローンみたいな顔をしていますが、
こちらは、ローマ帝国を再統一したコンスタンティヌス帝です。
現段階では断片しか見つかっていないですが、
それらから推測するに、もともとは12mあったと考えられているとか。
そんなにも巨大な像が作られていただなんて、
いかにコンスタンティヌス帝が偉大なのかがわかりますね。
なお、《コンスタンティヌス帝の巨像》以外にも、
数多くの頭部彫刻や胸像(本物!)が来日しています。
それらの中には、ローマ史上初の皇帝アウグストゥスをはじめ、
《アウグストゥスの肖像》 1世紀初頭 カピトリーノ美術館蔵
カエサルやカラカラ帝といった、
ローマ史に残る偉人の彫像が含まれていました。
中には、パンチパーマの中年女性(?)の彫像も。
《女性の胸像》 頭部:1世紀末~2世紀初頭 胸部:2世紀後半 カピトリーノ美術館蔵
勝手なイメージですが、大阪にいそう。
さらに、勝手なイメージですが、声はガサガサしてそうです。
と、さまざまな彫像がイタリアから来日していますが、
その中でも目玉中の目玉ともいうべきが、《カピトリーノのヴィーナス》。
2世紀に制作された古代ヴィーナス像の傑作です。
《カピトリーノのヴィーナス》 2世紀 カピトリーノ美術館蔵
こちらは、カピトリーノ美術館門外不出の作品で、
この像が1752年にカピトリーノ美術館に収蔵されて以来、
美術館を離れるのは、今回を含めてたったの3回とのこと。
なお、そのうちの1回は、ナポレオンによる接収でした。
つまり、美術館が快く貸し出しているのは、歴史上で今回が2回目ということです。
これは、今年1番のビッグサプライズ、
いや、ここ5年くらいの中でも、1番のビッグサプライズといえましょう。
是非、この貴重な機会をお見逃しなく!
恥じらいのポーズを取っているヴィーナスに対して、
若干、心は痛みますが、皆さましかとその姿を目に焼き付けましょう!
なお、カピトリーノ美術館では普段、
《カピトリーノのヴィーナス》は高めの台座に置かれているのだそう。
すなわち、この目線で観ることは、本場イタリアの人でも経験していないわけです。
こんな機会はもう二度とないはず。
そう思って、像の周りをぐるぐる回って、
じっくりと鑑賞していたところ、あることに気が付きました。
それは、右足の甲とふくらはぎ部分が、異様にテカテカしているのです。
僕が思うに、これまでの長い歴史の中で、
その部分だけ多くの人に撫でられたのではないかと。
台座の高さがあるので、背中にまではきっと手が届かなかったのでしょう。
触ってみたくなる気持ちはわかりますが、作品には触っちゃダメ。ゼッタイ。
さてさて、そんな《カピトリーノのヴィーナス》1点豪華主義の展覧会かと思いきや。
先述した通り、《カピトリーノの牝狼》(複製)や、
ローマの偉人たちの肖像彫刻も数多く来日しています。
さらには、美大生にはお馴染みという、
石膏像の一つ「アリアス」の元ネタ(?)ともいうべき、
《ディオニュソスの頭部》もカピトリーノ美術館から来日していました。
《ディオニュソスの頭部》 2世紀半ば 大理石 カピトリーノ美術館蔵
©Roma, Sovrintendenza Capitolina ai Beni Culturali / Archivio Fotografico dei Musei Capitolini
また、ティントレットの《キリストの鞭打ち》を筆頭に、
ドメニコ・ティントレット《キリストの鞭打ち》 1590年代 油彩、カンヴァス カピトリーノ美術館 絵画館蔵
©Roma, Sovrintendenza Capitolina ai Beni Culturali / Archivio Fotografico dei Musei Capitolini
イタリア古典絵画も数多く来日しています。
見ごたえたっぷり、
いや、見ごたえしかない展覧会です。
なんだかんだで考えてみれば、
数年ぶりの本格的なイタリア美術展でしたが、
その数年分をまとめて摂取できた気がします。
最後に、個人的に印象に残った彫像をご紹介。
《老女像》(2世紀)です。
《老女像》 2世紀 カピトリーノ美術館蔵
そのキャプションには、こう書かれていました。
「身体を右方向へ大きく傾けた女性は、巫女か、
あるいは葬礼で歌や嘆きの叫び声を供する参列者とも解釈されてきたが、
最近では単純に老婆とみなされる。」
要するに、ただの婆さんだった、ということですね。
容赦がないというか、なんというか。
ローマの老婆。
《カピトリーノのヴィーナス》との格差がエグいです。