1920年代、パリをはじめ、ヨーロッパの各地では、
第一次世界大戦からの復興により、工業化が進んだことで、
「機械時代(マシン・エイジ)」と呼ばれる華やかでダイナミックな時代を迎えました。
現在、ポーラ美術館で開催されているのは、
そんな機械時代における機械と人間との様々な関係に迫る展覧会。
その名も、“モダン・タイムス・イン・パリ1925”という展覧会です。
会場に入ると、まず目を惹かれるのが、
およそ100年前に作られた当時最先端の機械の数々。
かれこれ10年以上、ポーラ美術館を訪れていますが、
蒸気機関模型やエンジン、蓄音機といったものが展示されているのは初めて。
なお、大人の事情で、写真撮影はできませんでしたが、
展覧会名の由来となっているチャップリンの『モダン・タイムス』も、
この会場の冒頭の一角で、大画面で上映されています。
工業化と美術。
ともすると、真逆の存在であるような気もします。
しかし、展覧会では、20世紀最大の芸術家、
マルセル・デュシャンのこんなエピソードが紹介されていました。
ある日、デュシャンは、ブランクーシとレジェとともに、
パリのグラン・パレで開催されていた航空展覧会を訪れたのだそう。
そこで飛行機のプロペラを目にしたデュシャンは、ブランクーシにこう言ったのだとか。
「絵画は終った。このプロペラよりいいものを誰がつくれるだろう。」
かくして、デュシャンは絵画を捨て、
工業製品を素材にするレディメイドに行きつき、
ブランクーシはまるで工業製品のような抽象彫刻を生み出しました。
もし、機械時代が訪れなかったら、
20世紀の美術界はまったく別のものになっていたのかもしれません。
また、機械時代の美術界の動向として外せないのが、
1925年に開催されたパリ現代産業装飾芸術国際博覧会、通称アール・デコ博です。
このアール・デコ博をきっかけに、
工業製品との相性が良い幾何学的な「アール・デコ」様式が流行。
その寵児といえるデザイナー、ルネ・ラリックの作品も本展では多数紹介されています。
さてさて、本展では、機械時代のパリだけでなく、
同時代における日本の様相にもスポットが当てられています。
くしくも、日本では1923年(大正12)に、関東大震災が発生。
街がほぼ一面焼け野原となったため、
急ピッチで「モダン」な都市としての復興が進められました。
その時代を代表する日本のデザイナーが、
日本におけるモダンデザインのパイオニア、杉浦非水です。
さらに、展覧会では同時代の、
モダンデザインのポスターの数々も紹介されていました。
その中で個人的に一番印象に残っているのが、こちらの化粧品のポスター。
化粧品を紹介する際は、手を軽く添える。
美容系ユーチューバーの手法は、
この時代にすでに確立していたのですね!
なお、展覧会では、デザイナーだけでなく、
同時代に活躍した前衛画家たちの作品も紹介されています。
中でも特に印象的だったのが、古賀春江の《現実線を切る主智的表情》です。
乗馬するロボットと、それを狙うスナイパー。
シュールにもほどがある光景です。
昭和初期に描かれた絵画というよりも、
まるで、AIで生成した画像のような印象を受けます。
これまで深く意識したことはなかったですが、展覧会を通じて、
工業化と美術の関係性を、いろんな角度から知ることができました。
ありそうでなかった切り口の展覧会です。
ちなみに。
展覧会では、エピローグとして、
21世紀のモダン・タイムスを象徴するような、
現代アーティストの作品が紹介されています。
さらに、常設展示室では、現代アーティストの最高峰、
ゲルハルト・リヒターの新収蔵品が初お披露目されています。
こちらは、リヒターが2011年より制作している「ストリップ」シリーズのうちの1点。
決してポール・スミスではありません。