今回ご紹介するのは、東京国立博物館で3月3日まで開催されている特別展 “書聖 王羲之” 。
こちらは、4世紀の中国・東晋時代に活躍した、
中国の政治家であり書家である王羲之(303~361、異説あり) を取り上げた展覧会です。
王羲之と言えば、書を芸術に高めたことから、 「書聖」 と崇められたほどの人物。
書道界にとっては、神様のようなお方です。
そんなスゴい書家の展覧会だけに、
「書なんて、あまり興味ないからなァ・・・ ( ;´_ゝ`)」
と、普段は、書の展覧会に足が向かない方にも注目して頂きたいところです。
ただ、最初に、衝撃的な事実をお伝えてしておきますが。
今回の “書聖 王羲之” には・・・
王羲之の真筆 (本人の直筆) 作品は、1点も展示されていません!!
「な・・・なんですと (; ゚ ロ゚)」
きっとそう思った方が多くいらっしゃることでしょう。
かつて、フェルメールが1点も展示されていないフェルメール展があったでしょうか。
かつて、葛飾北斎が1点も展示されていない葛飾北斎展があったでしょうか。
もし、そんな展覧会が開催されたら、詐欺で訴えられかねません。
では、なんで、 “書聖 王羲之” には、王羲之の真筆が1点も展示されていないのでしょう?
その理由は、単純明快。
そもそも王羲之の真筆が、この世に1点も残っていないからに他なりません。
真筆は1点も残っていないのですが、そこは、さすが 「書聖」 とでも言いましょうか。
彼の字は、唐の太宗皇帝などが国家的規模の複製事業を行ったため、模本の姿で残っているのです。
模本と聞いて、 「なんだただのレプリカか・・・」 と思うことなかれ。
当時、宮中に集められた専門の職人が超絶技巧を尽くし、
墨のにじみや筆のかすれ具合、虫食いの箇所に至るまで完璧な姿で再現した精巧な模本ともなると、
その現存数は、世界でもたったの10点以下。
そのうちの1点である 《行穣帖》 を筆頭に、
原跡:王羲之筆 唐時代・7~8世紀模 プリンストン大学付属美術館蔵
Princeton University Art Museum / Art Resource, NY
《妹至帖》 など、
原跡:王羲之筆 唐時代・7~8世紀摸 個人蔵
(注:展示期間は、2/13~3/3まで)
4点ものスペシャリティな模本が、今回の “書聖 王羲之” に特別出展されています。
まず、王羲之の文字の美しさに感銘を受け、
さらに、それらの文字が、最高の職人業によって再現されたものと知って感銘を受け。
正直なところ、僕自身も、あまり書には興味が無い方ですが、
そんな僕ですら、これらの模本には、二段階で感銘を受けることが出来ました。
展示されていた作品が、名品ばかりであったことは疑いようもないですし。
書に興味が無い人でも飽きさせないような演出も、随所に見られましたし。
“書聖” の展覧会だけに、気合の入りようが伝わってきましたが。
ただ一つだけ、難を言うならば、いつになく鑑賞後にグッタリとする展覧会だったなァということ。
お客さんが多いため、作品によっては、かなり観づらくなっています。
また、書をたしなんでいるお客さんが多いためか、エア書道をしている人もちらほらと (笑)
さらに、キャプションをはじめ、文字による解説が多く、
作品に書かれた文字と合わせると、どれだけの文字を目にしたことでしょうか (笑)
体力、精神力、そして、時間は万全に整えてから行かれることをオススメします。
ちなみに、個人的に、一番面白いと感じたのが、 『蘭亭序』 にまつわるエトセトラ。
永和9年、王羲之は、蘭亭に41人の名士を招き、詩会を開催したそうです。
この詩会、ただの詩会ではなかったそうで・・・。
《蘭亭図巻―万暦本―》 王羲之等筆 明時代・万暦20年(1592)編 東京国立博物館蔵
王羲之を含む42人が、曲水の畔に陣取って、
上流から杯が流れてきては、その酒を呑んで、詩を詠むのだとか。
もし、詠めなかった場合は、さらに大きな杯で、お酒を飲まなければならないとのこと。
時代が時代なら、アルハラで問題になりかねない詩会です (笑)
その際に、イイ感じで酔っていた王羲之が、
この詩会で誕生した詩集の序文を揮毫したそうで。
もちろん、その真筆は残っていませんが、
王羲之筆 原跡:東晋時代・永和9年(353) 東京国立博物館蔵
《定武蘭亭序-許彦先本》 のように拓本の形で、 『蘭亭序』 として現在まで伝わっているのです。
面白いのは、のちの文人たちが、
この 『蘭亭序』 に書かれた王羲之の28行324字の中から任意の文字を組み合わせて、
新たな対句を作るというムーブメントが起こったこと。
《楷書七言聯》 宣統帝筆 清時代・20世紀 東京国立博物館蔵
これは、完全に、現代のフォントと同じ発想。
書の美しさだけでなく、書のシステムも、
王羲之に源流があるのかと思うと、大変興味深いものがありました。
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書聖 王羲之
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