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Channel: アートテラー・とに~の【ここにしかない美術室】
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美術愛住館コレクション「それぞれ展」

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四谷三丁目駅のほど近くに、
昨年3月に開館したばかりの美術館があります。




その名も、美術愛住館
女性の洋画家として初の日本芸術会員となった、
池口史子 (ちかこ) さんの作品を中心に、近現代の優れた洋画を企画展示する美術館です。
ちなみに、読み方は、「あいじゅうかん」 でなく、「あいずみかん」。
この美術館の住所が、新宿区愛住町 (あいずみちょう) であることに由来しています。


・・・・・・・ん?
だったら、『愛住美術館』 のほうが、しっくりくるのでは??
そう思われた方もいらっしゃるかもしれませんが。




なんでも、こちらの建物はもともと、
池口さんとその夫である堺屋太一さんの仕事場兼自宅だったそうで (←まさに “愛の住処”!)。
お二人は、この建物を 「愛住館」 と呼んでいたのだそうです。
なるほど。それで、美術愛住館なのですね。


さてさて、そんな美術愛住館で、現在開催されているのは、
“美術愛住館コレクション「それぞれ展」” という展覧会。




美術愛住館のコレクションの中から、
池口さんを含む洋画家たちそれぞれの傑作を、一挙に初公開する展覧会です。
東京藝術大学時代の池口さんの師であった山口薫や、


(注:館内の写真撮影は、特別に許可を得ております)


池口さんのほぼ同期で、日本画家の小杉放庵を持ち、
その詩的で幻想的な世界観に定評のある小杉小二郎さんを筆頭に、




全8名の洋画家の作品が紹介されています。
作風は8者8様で、それぞれ個性が違っていたのですが、
8名全員に共通していたのは、その作品に、得も言われぬ品格が漂っていたこと。
パッション全開のガツガツした感じは一切なく、ゆとりのようなものが感じられました。
観れば観るほど、自分の心の中の悪い部分が浄化されていくかのような作品でした。
そのように精神的な空気清浄機の役割を果たす作品 (←?) で、満たされていたからでしょうか。




展示室内は、なんともいえない居心地の良さがありました。
ずっとここに居たい。いや、いっその事、ここに住みたい。
そんな愛すべき展示空間でした。
まさに、美術 “愛住” 館です。
星星


今回紹介されていた8名の洋画家の中で、特に印象的だったのは、山田嘉彦さん。
初期の頃には、師である牛島憲之風の絵を描いていたようですが。




その後、点描スタイルに転向。
以来、現在においても、今ではすっかり珍しくなった点描画を描き続けているそうです。




スーラやシニャックといった、
いわゆる新印象派の画家たちが点描画で目指した眩い光の表現とは真逆で、
山田さんが点描で描く風景は、まるで光が内部に閉じ込められているかのような印象を受けました。
ベルベットを連想させる絵肌とあいまって、
一針一針丹念に刺繍するがごとく、一点一点丹念に光を封じ込めながら描いているかのようです。
ちなみに・・・




なんとサインも点描スタイルでした。
点描に徹底するにもほどがあります。


それから、やはり何と言っても、
忘れてはいけないのが、この美術館の主役である池口史子さん。




1階と2階を繋ぐ吹き抜け空間に、学生時代に描いた貴重な作品と、




池田さんが近年取り組んでいるという、
花をモティーフとした静物画と都会的な雰囲気の漂う女性像の作品が展示されていました。




個人的に最も惹かれたのは、
彼女の代名詞ともいうべき、北アメリカの街並みを描いた作品群。




舐めるくらいのローアングルから描かれた下の2点に関しては、
不思議な遠近感といい、その色合いといい、どことなくデ・キリコを彷彿とさせる部分もありますが。
デ・キリコの作品とは対照的に、寂寥感は全くありません。
むしろ、かつてこの光景を目にしたような気持ちになり、親しみや温かさを覚えました。
ちなみに、普通の美術館での展示のように、下から見上げて鑑賞するのもいいのですが。
こちらでは、特別に吹き抜け空間に展示されているので、




2階から見下ろして鑑賞することも。
個人的には、この鑑賞スタイルをオススメいたします。
俯瞰した視点で描かれた街並みを、
見下ろすスタイルで鑑賞すると、また違った印象を受けました。
池口作品、下から見るか? 上から見るか?
それぞれお楽しみくださいませ。




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【告知】 現在募集中のアートツアー 【告知】

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現在募集中のアートツアーです。

アートに興味のない方でも楽しんで頂ける企画を心掛けております。
初参加の方も多いので、どうぞお気軽にご参加くださいませ♪
(男女比は、7:3くらいで女性が多いです。
 また、おひとりで参加される方が大半ですので、一人でもふらっと遊びにいらしてください!)
定員になり次第、募集は〆切らせて頂きますので、よろしくお願いします。
参加希望の方は、お手数をおかけして恐縮ですが、
件名に希望するアートツアーを明記して、以下のメールフォームよりお申し込みくださいませ。
詳細をお知らせいたします。
https://ws.formzu.net/fgen/S98375463/
お知らせ先のメールアドレスが間違っている方が、ごくたまにいらっしゃいます。
こちらからの返信がない場合は、もう一度お送り頂けますと幸いです。


2/17(日) 祝11周年!アートテラーの原点に戻る旅

2019年。
おかげさまで、「アートテラー」 を始めて11周年目を迎えることが出来ました。
本来ならキリよく10周年目に行うツアーなのですが (笑)。
昨年いろいろあって、実現しなかったので、
1年越しにアートテラーの原点に戻るツアーを開催したいと思います!

まず訪れるのは、アートテラーとしてデビューを飾った横浜美術館。
現在、こちらでは、特別展 “イサム・ノグチと長谷川三郎” とともに、
“横浜美術館コレクション展 「リズム、反響、ノイズ」” が同時開催されています。
実は、僕がアートテラーとして最初に紹介したのが、横浜美術館のコレクション作品でした。
まさに原点ともいうべき、作品群!
今回は、11年ぶりに、それらの作品の見どころを解説いたします。

その後、休憩を挟んで、横浜市民ギャラリーあざみ野へ。
こちらでは、アートテラー誕生のきっかけを作った天野太郎学芸員直々に、
渾身の展覧会 “あざみ野フォト・アニュアル 長島有里枝展” をガイドして頂きます。
ちなみに、天野さんは、2020年の札幌国際芸術祭のディレクターに就任した実はスゴい人。
美術界一オモロイ学芸員の解説トークは、必聴ですよ!
(もちろん、オモロイだけでなく、ちゃんとタメにもなります)

ちなみに、ツアー終了後、希望者で打ち上げを予定しています。
もちろん天野さんも参戦予定です! (むしろ飲み会のほうがメインイベントですw)
これまでお世話になった方も、はじめましての方も。
皆さまのご参加を心よりお待ちしております。

時間:13時~18時
定員:12名
参加費:1500円 (展覧会鑑賞料を含む)


ご参加希望の方は、ツアー名を書き添えて、こちらの応募フォームからお願いいたします↓
https://ws.formzu.net/fgen/S98375463/


2/24(日) 若冲!国芳!奇想の系譜展へ行こう!

美術は、いろんな人と感想を共有することで、より楽しいものとなります。
一人で美術展を訪れても、もちろん楽しめますが、
みんなで同じ美術展を鑑賞すれば、もっともっと楽しくなります!

さてさて、今回みんなで訪れるのは、“奇想の系譜展” です。
こちらは、伊藤若冲を筆頭に、
白隠、曽我蕭白、長沢芦雪、鈴木其一、歌川国芳といった、
江戸時代の奇想画家8名の代表作が勢揃いするこの春大本命の展覧会です。
若冲の 《梔子雄鶏図》 《鶏図押絵貼屏風》 や、
芦雪の 《猿猴弄柿図》 など、新発見や初公開の作品が多数出品。
さらには、海外から里帰りする作品も多数出品することでも話題の展覧会です。

展覧会を鑑賞したあとは、近くのカフェでまったりいたしましょう♪
図録を持参しますので、展覧会の感想などを中心に楽しくワイワイ話せたらと思っております。
もちろん美術の知識は不要!
美術マニアの集いではないので、どなた様も気軽な気持ちで遊びにいらしてくださいませ。

時間:13時~16時半
定員:12名
参加費:1500円 (展覧会の鑑賞料を含みます)

ご参加希望の方は、ツアー名を書き添えて、こちらの応募フォームからお願いいたします↓
https://ws.formzu.net/fgen/S98375463/


3/3(日) ぶらり途中下車のアートツアー~半蔵門線~

今回は、半蔵門線の沿線にある3つの美術館をぶらりと巡るミステリーツアーを開催いたします。

昨年オープンしたばかりの話題の美術館で、ありがた~い美術品を鑑賞したり、
カフェもオススメの 「隠れ家系美術館」 を学芸員さんの特別ガイド付きで巡ったり。
内容盛りだくさんのアートツアーです。

ちなみに、ラストは、今話題沸騰中の展覧会、
Bunkamura ザ・ミュージアムの “クマのプーさん展” を鑑賞いたします。
昨年イギリスで開催され、大ヒットした展覧会が日本初上陸!
ヴィクトリア&アルバート博物館が所蔵する 『クマのプーさん』 の貴重な原画が見られる展覧会です。
グッズ売り場も充実しているので、そちらもお楽しみに♪

ぶらり途中下車の旅のように、ゆる~く。
でも、内容は濃く。
そんなアートツアーをお届けいたします。

時間:13時~18時
定員:12名
参加費:2000円 (すべての展覧会の鑑賞料を含みます)

ご参加希望の方は、ツアー名を書き添えて、こちらの応募フォームからお願いいたします↓
https://ws.formzu.net/fgen/S98375463/


3/9(土) ル・コルビュジエ!アアルト!史上最強の建築展ツアー

この春、都内で、近代建築の大巨匠と呼ばれる建築家の大々的な展覧会が、同時に開催されます!
1つは、上野の国立西洋美術館で開催される、
“ル・コルビュジエ 絵画から建築へ―ピュリスムの時代”
国立西洋美術館の開館60周年記念として開催されるもので、
建築界のスーパースター、ル・コルビュジエの建築模型や絵画作品など、
約100点が大集結する展覧会です。
そもそも国立西洋美術館の建物そのものが、ル・コルビュジエの日本で唯一の作品。
ル・コルビュジエの建築の中で、ル・コルビュジエの展覧会が開催されるという貴重な機会なのです。

もう1つは、東京ステーションギャラリーで開催される、
“アルヴァ・アアルト もうひとつの自然” という展覧会。
北欧を代表する建築家、アルヴァ・アアルトの日本では20年ぶりとなる大々的な回顧展です。
先行して開催された名古屋市美術館、神奈川県立近代美術館 葉山は連日大盛況。
満を持しての東京での開催となります。

建築がお好きな方はもちろん、
建築を好きになってみたい方にこそ、どちらもオススメの展覧会。
史上最強の建築展ツアー、この機会に是非ご一緒いたしましょう!

時間:13時~18時
定員:12名
参加費:2500円 (すべての展覧会の鑑賞料を含みます)

ご参加希望の方は、ツアー名を書き添えて、こちらの応募フォームからお願いいたします↓
https://ws.formzu.net/fgen/S98375463/


いずれのツアーも、皆様のご参加を心よりお待ちしております!!

草間彌生風の水玉模様の鳥っているの?

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スズメに、サギに、ニワトリに。
美術の世界には、実にたくさんの鳥が登場します。
それら鳥にまつわるアート作品に関して抱いている疑問を、
これまでに何度もトークショーでタッグを組んだ鳥博士・高橋雅雄君に解決してもらおうという企画。
それが、「高橋君に聞いてみないとネ」

高橋君


<プロフィール>
高橋雅雄 
1982年青森県八戸市生まれ。
小学4年生から野鳥の追っかけを始める。
金沢大学理学部、立教大学理学研究科博士課程を経て、
青森県仏沼のオオセッカの繁殖生態の研究を行っている。
2013年3月に博士課程を修了し、博士号 (理学) を取得。
2013年9月より、新潟大学朱鷺・自然再生学研究センターの特任助手として佐渡島に赴任。
トキの野生復帰の研究-プロジェクトに参加。
2015年4月より弘前大学農学生命理学部の研究員となり、
渡り鳥に対する風力発電の影響評価に関する研究プロジェクトに参加。

大学1年より美術館に通い始める。
2009年1月に開催されたアートテラー・とに~氏主催の記念すべき第1回アートツアー@渋谷に参加。
その縁により、とに~氏と 「鳥とアート」 をテーマにしたトークショーを不定期に開催。

未婚。



半年ぶりに復活しましたこの企画。
まずは、2019年のアートシーンの顔ともいうべき、
オーストリアを代表する芸術家の作品に描かれた鳥に関する疑問から。





Q クリムトの 《オイゲニア・プリマフェージの肖像》
右上に描かれてる極彩色の鳥は、
東洋をイメージしているらしいけど、こんな鳥は東洋にいるの?


~高橋君による見解~

「嘴や顔の形から、キジやクジャクの仲間です。
 描写が一番似ているのは、
 ヒマラヤやミャンマー、タイなどに住むミヤマハッカン (その中でも冠羽や背が青黒い雄) ですね」




続いては、2017年のアートシーンの顔、
チェコが生んだ国民的画家にまつわる鳥の疑問です。

Q ミュシャの 《春》 に描かれてる鳥って何?





「ヨーロッパに住む身近な小鳥たちです。
 簡素化されて描かれていますが、
 ヨーロッパコマドリ、アオカワラヒワ、ノハラツグミでしょう。」






“奇想の系譜展” も絶好調。
江戸を代表するスター絵師に関する鳥の疑問です。

Q ニワトリの絵が巧いことでもお馴染みの若冲。
彼が描くヒヨコの頭に、トサカが生えてることもあるけど。
実際に、ヒヨコの頭にトサカが生えることってあるの?





「ニワトリは、キジやクジャクの仲間です。
 この仲間は、ヒナが小さい間に、大人の体の構造が発達します。
 (例えば、小さいヒナに翼の羽が生えます)
 トサカも同様で、ニワトリはヒヨコのうちにトサカが生えてきます。」


続いては、現代アート界のミューズ、
草間彌生さんにまつわる鳥の疑問です。




Q 草間彌生も鳥の絵を何点か描いているけど。
草間彌生風の水玉模様の鳥っているの?


「数は少ないですが、いくつかいます。
 水玉度がもっとも高いのは、アフリカにすむホロホロチョウの仲間3種類、
 ホロホロチョウ、カンムリホロホロチョウ、コカンムリホロホロチョウです。
 彼らは、全身水玉です」




最後は、太田記念美術館で絶賛開催中の展覧会、
“小原古邨” にまつわる鳥の疑問をご紹介いたします。





Q 交喙 (いすか) って、何でくちばしが食い違ってるの?


「まず、イスカについて。
 イスカは松の種 (松の実として人間も食べる) を主食としています。
 種は松ぼっくりに入っているので、
 彼らは交差した嘴を使って松ぼっくりの傘を開き、舌を使って種を器用に取り出します。
 小さな雛の間は、嘴は普通の鳥と同じような形状ですが、
 成長するにつれて、徐々に嘴が食い違っていくことがわかっています。
 ただ、この絵に描かれているのは、イスカではなく、正しくは、ナキイスカです」


さて、疑問は以上となりますが、
2月9日付でアップした “小原古邨” の記事に関しまして。
高橋君より、以下のようなメールが寄せられました。

「とに~は記事で、《桃花に雲雀》《月に木菟》 を “ヘンテコな鳥作品” とディスっていたけど。
 これらの絵は、意外と鳥類学的に正しく描写しています。
 雲雀 (ひばり) は、翼も尾も足も正しい位置に付いているし、
 尾の色模様を、これほど正確に描いた絵を私は見たことがありません。
 木菟は、オオコノハズクですが (足の描写は別種のコノハズクっぽいけど・・・)、
 実物は、体の模様が複雑で何とも表現し難く、まさに、こんな感じです」


・・・・・古邨さん、そして、ご親族の皆さま、
鳥に関して何も知らないクセに、ディスってしまったこと、心よりお詫び申し上げます。
大変失礼いたしました。


ちなみに。
我らが高橋君の新連載 「鳥博士高橋の鳥舌技巧!」 が、
京橋にある画廊、加島美術の公式HP上にて、公開されています。
是非、チェックしてみてくださいませ。


「高橋君に聞いてみないとネ」 では、
読者の皆様からも、アート作品の鳥にまつわる疑問を広く募集しております!
見事、疑問が採用された方には、
何らかの美術展ペアチケットをプレゼントしますので、ふるってご応募ください。
コメント欄に書き込むか、以下のメールフォームによろしくお願いいたします。
https://ws.formzu.net/fgen/S98375463/




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奇想の系譜展 江戸絵画ミラクルワールド

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曽我蕭白に、


曽我蕭白 《雪山童子図》 紙本着色 一幅 169.8×124.8cm 明和元年(1764)頃 三重・継松寺


歌川国芳に、


歌川国芳 《宮本武蔵の鯨退治》 大判錦絵三枚続 弘化4年(1847)頃 個人蔵


狩野山雪に、長沢芦雪に、岩佐又兵衛に、
さらには、もっとも集客力のある日本の芸術家といっても過言ではない伊藤若冲に。


伊藤若冲 《紫陽花双鶏図》 絹本着色 一幅 139.4×85.1cm 江戸時代中期(18世紀) 米国・エツコ&ジョー・プライスコレクション


江戸時代に活躍したスーパースター絵師たちが大集結した、
まさにミラクルな展覧会が、現在、東京都美術館で開催されています。


(注:館内の写真撮影は、特別に許可を得ております)


その名も、“奇想の系譜展 江戸絵画ミラクルワールド”
会期は、4月7日までです。

さてさて、展覧会のタイトルになっている 『奇想の系譜』 とは・・・




日本を代表する美術史家・辻惟雄氏によって、
今から半世紀近く前の1970年に刊行された伝説の一冊。
この本で取り上げられていたのが、
曽我蕭白、歌川国芳、狩野山雪、長沢芦雪、岩佐又兵衛、伊藤若冲の6人です。
今でこそ、日本各地で展覧会に引っ張りだこの6人ですが。
『奇想の系譜』 が出版された当時は、
アカデミックな美術史の世界では、彼らは、主流ではなく異端扱いされていました。
そんな彼らの魅力を “奇想” と定義し、スポットを当てたのが、『奇想の系譜』。
もし、この一冊が無かったら、今の若冲ブーム、
いや、そもそも江戸絵画ブームすらなかったかもしれないのです。


さてさて、今回の展覧会では、6名に加えて、
サントリー美術館での大々的な回顧展が記憶に新しい江戸琳派の絵師・鈴木其一と、




2012年に開催されたBunkamuraザ・ミュージアムでの回顧展が大きな話題となった白隠慧鶴、




2名の新メンバー (?) が加入。
その奇想ぶりをいかんなく発揮しています。
もちろん、『奇想の系譜』 のオリジナルメンバー (?) 6人も負けてはいません。




代表作の数々に加え、新発見&初公開の貴重な作品も特別に出展されていました。
そのうちの1点が、長沢芦雪の 《猿猴弄柿図》


長沢芦雪 《猿猴弄柿図》 絹本着色 一幅 104.0×37.7cm 江戸時代中期(18世紀) 個人蔵


大正4年の売立目録 (カタログ) に掲載されていたもので、その後、行方知れず。
今回の展覧会の調査で、再発見されたそうです。
柿を手に恍惚の表情を浮かべる猿の姿が、なんとも印象的。
見れば見るほど、志村けんに見えてきます。


印象的と言えば、狩野山雪の 《梅花遊禽図襖絵》 も。


狩野山雪 《梅花遊禽図襖絵》 紙本金地着色 四面 各184.0×94.0cm 寛永8年(1631) 京都・天球院


老梅の幹が、なんとも奇怪なことになっています。
曲がって曲がって、さらに曲がって。
クランク状態です。
何でまたこんなにもグイグイ幹と枝を曲げたのか。
じーっと見ていたら、中央の2つの引手が目玉に見えてきました。
枝で形どられた金箔の部分と併せたら、ウサギのようにも見えてきました。
奇想の絵を観過ぎて、想像力まで奇想になってきたようです。


他にも、初公開となる若冲の 《梔子雄鶏図》 や、
2月19日から公開となる岩佐又兵衛の 《妖怪退治図屏風》 など、見逃せない作品が多数出品。

「こんな江戸絵画展が観たかった!」

まさに王道を行く展覧会でした。
3ツ星。
あえて一つだけ難を挙げるなら、
“ミラクルワールド” ってワードが、ちょいダサいことくらいなものです (笑)
星星星
『奇想の系譜展』 が刊行された昭和の当時には、
誰も開催しようと思わなかった展覧会が、平成のラストに実現したことも感慨深いものがあります。
次の元号では、どんな絵師にスポットが当てられるのでしょうか。


ちなみに、会場のラストでは、
横尾忠則さんが本展のために制作した特別作品が展示されていました。




出品作家のうち6名の絵師の作品部分を、コラージュしたものとのことですが。
横尾忠則さんのオリジナリティのほうが、前面に押し出ていました。
さすが平成の奇想。


 ┃会期:2019年2月9日(土)〜4月7日(日)
 ┃会場:東京都美術館
 ┃
https://kisou2019.jp/





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クマのプーさん展

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『クマのプーさん』 は、ディズニーが生んだキャラクター。

そう思っている方も、少なくないでしょうが (←かくいう僕もその一人)。
実は、イギリスの作家A・A・ミルンによって、
1926年に発表された児童文学 『クマのプーさん』 が、そのオリジナル。
息子であるクリストファー・ロビンに語るスタイルで書かれた物語です。


A.A.ミルン、クリストファー・ロビン・ミルンおよびプー・ベア、ハワード・コスター撮影、1926年 © National Portrait Gallery, London.


そんな原作の 『クマのプーさん』 の魅力を高めているのは、
何と言っても、挿絵画家のE.H.シェパードによって描かれた愛らしい挿絵でしょう。


E.H.シェパード、 ハワード・コスター撮影、1932年、ノラ・シェパード夫人より寄贈 © National Portrait Gallery, London.


そのE.H.シェパードによる 『クマのプーさん』 の原画を、
世界最大規模で所蔵しているヴィクトリア・アンド・アルバート (V&A) 博物館にて、
昨年、大規模な “クマのプーさん展” が開催されました。
イギリスの国民的童話の原画展とあって、大盛況。
さらに、その後、ボストン、アトランタと、
アメリカを巡回し、そちらでも大きな反響を巻き起こしたそうです。
そんな “クマのプーさん展” が、ついに日本初上陸!
4月14日まで、Bunkamuraザ・ミュージアムで開催されています。


(注:館内の写真撮影は、特別に許可を得ております。なお、一部は撮影可です)


「あれっ?Hallo?『Hello』 の間違いでは??」

そう思われた方もいらっしゃるかもしれませんが、
原作の 『クマのプーさん』 的には、こちらが正解。
『クマのプーさん』 には、こうしたスペルミスが、たびたび登場するのだそう。
そうしたA.A.ミルンの言葉遊びもまた、原作の一つの魅力なのだそうです。

と、このように、原作の世界観を大切にしている今回の展覧会。
それ以外にも、会場の随所に、原作をイメージした演出が施されています。





展覧会場というよりも、ディズニーの新アトラクションのよう。
もはや展示品を観なくても、ただこの場所にいるだけで、心がウキウキすること請け合いです。
とは言え、もちろん来日中の 『クマのプーさん』 の原画は、絶対に見逃してはなりません!


「バタン・バタン、バタン・バタン、頭を階段にぶつけながら、クマくんが二階からおりてきます」、『クマのプーさん』第1章、
E.H.シェパード、鉛筆画、1926年、V&A所蔵 © The Shepard Trust



「ハチのやつ、なにか、うたぐってるようですよ」、『クマのプーさん』第1章、
E.H.シェパード、鉛筆画、1926年、V&A所蔵 © The Shepard Trust



これらの貴重な原画は、非常に大切に保管されており、
2年公開すると、その後10年は非公開にするルールが採用されているのだとか。
少なくとも、10年間は目にすることが出来ませんし、
10年後、再び来日してくれる保証はどこにもありません。
展覧会のラストに、こちらのセリフが引用されていましたが・・・




次に原画と会えるのは、“ぼくが百になった時” という可能性だって大いにあり得ます。
しっかりと、その目に焼き付けておきましょう。

また、原画以外にも貴重な資料が数多く来日中。
1926年に発刊された初版本や、




原作者A.A.ミルンの家族写真、




さらには、プーさんとその仲間たちのモデルとなったぬいぐるみもありました。




さてさて、今回の展覧会を通じて、
何よりも目を奪われたのは、E.H.シェパードの類稀なる素描力。


「プーとコブタが、狩りに出て…」、『クマのプーさん』第3章、
E.H.シェパード、ペン画、1926年、 クライブ&アリソン・ビーチャム・コレクション © The Shepard Trust



意外なことに、そのほとんどに、表情は描き込まれていませんでした。
しかし、どの挿絵ももれなく、ちゃんと可愛いのです。
しばらくして、その理由に、はたと気が付きました。
それは、仕草や動きの可愛らしさ。
サラサラっと描いているようなのに、
のっそりとした動き、コロンとした動き、ドテッとした動きなどが、
きちんと伝わってくるのです。
今まで数多くの素描作品を観てきましたが、
これほどまでに食い入るように鑑賞したのは、初めてかもしれません!
単に人気のキャラクターの原画だから、ではなく、
一つの芸術作品として観るべき価値のある素描でした。
クマのプーさんファンだけでなく、アートファンなら抑えておきたい展覧会です。
星星


ちなみに、展覧会では、
日本版のプーさんやロシア版のプーさんも紹介されていました。




ロシア版のプーさんは、クマというよりもタヌキです。
これらでは、絶対に世界的な人気キャラクターになっていなかったでしょう。
改めて、E.H.シェパードの非凡な才能を実感させられました。


展覧会を見終わった後には、
もう一つのお楽しみ、グッズコーナーが待ち受けています。





会場限定グッズは、なんと約200点!
マグカップにトートバッグに初版本をイメージしたノートに、はちみつに。
可愛らしいグッズの数々に、頬も財布の紐も緩むこと必至です。


 ┃会期:2019年2月9日(土)〜4月14日(日)
 ┃休館日:2月19日(火)、3月12日(火)
 ┃会場:Bunkamuraザ・ミュージアム
 ┃
https://wp2019.jp/




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企画展『工事中!』~立ち入り禁止!?重機の現場~

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この春、日本科学未来館で開催されているのは、
“『工事中!』~立ち入り禁止!?重機の現場~” という企画展です。





こちらは、街中でよく見かけていながらも、その内側で何が行われているのか、
意外と知られていない工事現場、と、そこで活躍する重機にスポットを当てた企画展。
東京オリンピックを来年に控え、
都内各所で工事が急ピッチで進められている今まさに観ておきたい展覧会です。


会場は、さながら工事現場のよう。




普段立ち入ることが出来ない工事現場に、
足を踏み入れたようで、思いがけずワクワクさせられました。
さらに、ワクワク感をアップさせるのが、重機の実物展示!
ブルドーザや油圧ショベルといったおなじみの重機もあれば、





四脚クローラ方式双腕型コンセプトマシン (日立建機) や、




ミニ・クローラクレーン (古河ユニック) といった近未来感がハンパない最新の重機も。




さらには、実際に操縦席に座ることができるものもありました。




一部を除き、基本的に展示室内は写真撮影OK。
大人の僕でさえ、テンションがあがりっぱなしでした。
これは絶対に子どもが楽しいヤツ!
しかも、ただ重機が並べられているだけでなく、
日本科学未来館らしく、工事現場に関する科学が楽しく学べるコーナーも用意されています。





楽しくて、かつ、お勉強にもなる。
今年の春休み、もしくはGWにどこに行こうかと、
「思案中!」 の世のお父さんお母さん、ココに決まりですよ。
星星


さてさて、今回展示されていた重機の中で、
個人的にもっともテンションが上がったのが、タグチ工業のガジラDSカッター。




かつて、フジテレビの番組 『ほこ×たて』 に、
「どんなものでも切断するカッター」 として何度も登場したあのカッターです。
実物を目にするのは初めて。
その大きさと迫力に、思わず後ずさりしてしまいました。
このカッターに挟まれたら、一溜まりもないことでしょう。
身がすくみました。


迫力と言えば、クローラクレーン (住友重機械建機クレーン) のフックも。




サラッと書いてある (?) 『350t』 の文字を、思わず二度見してしまいました。
350tって・・・。
一体どれだけの重さなのでしょうか。
『シティーハンター』 の槇村香が手にするハンマーでも、100tだというのに。


ちなみに、最新のものも含め、多くの重機が紹介されていましたが、
一番カッコ良かったのは、未来技術遺産にも認定された国産初の油圧ショベル ユンボY-35 (キャタピラー)




シルバーに光輝くボディに、一目惚れしてしまいました。
マイカーを持ちたい願望は、これまで一切なかったのですが。
このユンボなら所有したいです。
もし将来、美術館の駐車場に、
このユンボが停まっているのを見かけたら、僕のかもしれません (笑)


日本科学未来館でたっぷり重機を堪能した後は、
ほど近くにあるダイバーシティ東京プラザへ足を運ばれてみてはいかがでしょうか。




戦闘用の重機 (←?) が設置されていますよ。


 ┃会期:2019年2月8日(金)~5月19日(日)
 ┃会場:日本科学未来館
 ┃
https://kojichu2019.jp




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ヴェロニカを掘り下げることにした

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キリストが、処刑場であるゴルゴダの丘を登っていたときのこと。
十字架の重みに耐えかねて倒れたキリストに手を差し伸べ、
額の汗を拭くようにと、自身が身につけていたヴェールを差し出した女性がいました。
その名は、ヴェロニカ。




キリストは、そのヴェールで汗を拭き、彼女へ返します。
すると、次の瞬間、とんでもないことが起こりました。




なんと、そのヴェールにキリストの顔が写し取られたのです!

顔の皮脂汚れ、スゴっ!!

・・・・・・・・・というわけではなく。
これは、キリストが起こした数ある奇跡のうちの1つ。
その奇跡をアシストしたことで、ヴェロニカは聖人として認定されています。



さてさて、イマイチしっくりこない聖ヴェロニカの奇跡。
名だたる芸術家たちも、この妙なお題には、かなり苦戦したのでしょう。
美術界には、なんとも変な聖ヴェロニカの絵画がいっぱい存在しています。
本日は、それらをまとめてご紹介してみることにしました。


●シモン・ブーエによる聖ヴェロニカ




キリストの顔が、くっきりとヴェールに転写されています。
プリントゴッコの比ではありません。
あまりの異常事態に、聖ヴェロニカはあえて目を背けているようです。
「えっ?ちょっ・・・今の何?見間違いよね (汗)」



●マッティア・プレティによる聖ヴェロニカ




聖ヴェロニカ、大困惑。
天に向かって、何かを訴えかけているようです。
「あのー。すいません。ヴェールを元に戻して欲しいんですけど。
 え~~っ?無理なんですか?!いや、でも、これ、明日も使うんですよ」
困惑する聖ヴェロニカに、ヴェールのキリストも困惑顔です。



●とあるフィレンツェの画家による聖ヴェロニカ




「ちょ、マジでキモいんですけど!
 ヴェールに顔が映るとか、意味わかんないし。
 つーか、持ってるのも無理無理無理・・・」
ヴェールの持ち方が、完全に汚いモノを持つそれです。
エンガチョ感がハンパありません。



●ポール・ドラローシュによる聖ヴェロニカ




あぁ、もう本当に最悪・・・。
お気に入りのヴェールだったのに・・・。
どうして、あの時、ヴェール差し出しちゃったんだろう?
私のバカバカバカ!
とりあえず、寝よ。



●エル・グレコによる聖ヴェロニカ




店員 「あの良かったら、広げてみてくださいねー」
聖ヴェロニカ 「・・・・・あ、はぁ」
店員 「いい生地使ってますし。何より、中央のオジサンの柄が、イイ感じですよねー」
聖ヴェロニカ 「・・・・・そ、そうですか?」
店員 「マジ神ですよ!良かったら、ご試着されてみます?」
聖ヴェロニカ 「・・・・・・。(無いわぁ)」



●フランチェスコ・ダ・コティニョーラによる聖ヴェロニカ




聖ヴェロニカ 「ちょっと、何なのよアンタ!」
キリスト 「お前こそ何なんだよ!」
聖ヴェロニカ 「私のヴェールに顔を現わさないでくれる?」
キリスト 「俺だって好き好んで、こんなショボいヴェールに現れてるわけじゃねーし!」
聖ヴェロニカ 「ショボい?!何よその言い草!
       変なヘアバンドしている人に言われたくないです。ふん!」
最悪な出逢いから始まった2人のラブストーリー。乞うご期待。



●ロベルト・カンピンによる聖ヴェロニカ




ヴェールがスケスケという斬新なパターン。
きっと聖ヴェロニカからは、後頭部側が見えていることでしょう。
というか、汗を拭くのに、こんなスケスケのヴェールを手渡すってどうなのよ。



●デリック・ベイガートによる聖ヴェロニカ




ねぇねぇ、ちょっと見て見て!
この前、ゴルゴダの丘んところで、
キリストにヴェールを貸したら、こんなんなっちゃったのよ。
もう、ビックリしちゃうわよね~。
はいはい。そこのアナタ、1拝み500円ね。



●ロレンツォ・コスタによる聖ヴェロニカ




キリスト、薄っ!!

微妙な出現の仕方過ぎて、聖ヴェロニカも微妙な表情浮かべてます。
リアクション取りづらいですよね。うん。



●とある中世の装飾写本に描かれた聖ヴェロニカ




キリストの顔デカすぎるだろ!!

完全なる巨人。奇行種でないことを祈るのみです。
というか、そもそもヴェールもデカすぎます。タオルケットか!



●ジェームズ・ティソによる聖ヴェロニカ




おいおいっ、それで遊ぶなよ!!

「体モノマネしまーす♪」 じゃねーよ!



さてさて、お気に入りの一枚はありましたか?
次にキリストの顔が現れるのは、貴方のヴェールかもしれません。




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アルヴァ・アアルト もうひとつの自然

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今年2019年は、日本とフィンランドが国交100周年を迎える節目の年。
それを記念して、現在、東京ステーションギャラリーにて、
開催されているのが、“アルヴァ・アアルト もうひとつの自然” という展覧会。




こちらは、個人住宅から公共建築まで数多くの建築を設計した、
フィンランドを代表する建築家&デザイナー、アルヴァ・アアルト (1898~1976) の大規模な回顧展です。


ネモ・プロフェタ号に乗るアアルト、1960年代 ⓒSchildt Foundation, photo: Göran Schildt


50年以上に及ぶアアルトの建築家人生の中で、
彼が関わった設計やプロジェクトは、国内外を含め、なんと約500以上!
その中から厳選されたアアルトの代表的な建築が、
貴重な模型やドローイング、写真などを通じて紹介されています。


(注:館内の写真撮影は、特別に許可を得ております)


日本における約20年ぶりのアアルトの個展だけあって、
かなり気合が入っており、実に見どころの多い展覧会となっていました。
その一つ目は、アアルトの初期の傑作 「パイミオのサナトリウム」 の一室の再現展示です。
サナトリウム、つまりは結核の療養所。
きっと隔離された閉鎖的な空間なのだろう・・・・・と思いきや。




むしろ開放的で、シンプルながらも、温かみのある素敵な空間でした。
オシャレなユースホステルと言われたら、そのまま信じてしまいそうです。
しかも、何より驚きなのは、
「パイミオのサナトリウム」 が建てられたのが、今から約85年も前という事実。
この室内にあるものすべてが、イ●アやニ●リに売っていても違和感はありません。
それくらいに現代的なセンスでした。


見どころ二つ目は、東京ステーションギャラリーの煉瓦壁の空間と、
アアルトがデザインしたさまざまな家具や照明器具とのコラボレーション。




アアルトのデザインの代名詞ともいうべき、
“有機的でゆるやかな曲線” が垂直の煉瓦壁と対比されることで、より際立っていました。
個人的に、アアルトがデザインしたプロダクトの中で、
もっとも感銘を受けたのが、三本足の 《スツール60》




L字型の無垢材の足3本を、
円形の座面の裏に直接ネジで留めただけのシンプル極まりないスツールに見えますが。
実は、らせん状の塔のように、スタックしていくことができます。
収納スペースに困らない、なんとも機能的なデザインです。

さてさて、展示品であるこれらのチェアを眺めていると、
やはり実際に座って、その座り心地を確かめてみたくなるもの。
そんな僕らの願いに応えてくれるべく、
展示室の出口の先にある休憩室が、展覧会に合わせて、アアルト仕様になっています。




これが、三つ目の見どころ。
思う存分、座り心地を試してみましょう。
「来た、見た、座った」 、そんなアアルト展です (←?)。


ちなみに、今回の展覧会の “もうひとつの主役” ともいえるのが、
ドイツ人写真家アルミン・リンケによるアアルト建築の撮り下ろし写真。
彼は、いわゆる建築写真家ではないので、
中にはパッと見、どんな建築の写真なのか、正直よくわからないものもあります (笑)


アルミン・リンケ撮影、ヴィープリ(ヴィーボルク)の図書館/Alvar Aalto, 1927-35 ⓒArmin Linke, 2014


しかし、大きくプリントアウトされた写真の前で、
しばらく佇んでいると、まるで建築内部にいるような感覚に!





気のせいではなく、フィンランドの風、
フィンランドの空気を感じることができました。

さらに、アルミン・リンケの写真には、こんな効果も。
壁一面に飾られた写真が、まるで窓のような役割を、
プロジェクターで投影された映像作品が、日差しのような役割を果たしていたことで・・・




東京ステーションギャラリーの展示室が、
いつになく開放的な印象となっていました。
気のせいではなく、フィンランドの光を感じることができました。
星星


ちなみに、今回出展されていた約300点の展示品の中で、
もっとも印象に残っているのが、《リクライニング・チェア39》 です。




一目見た瞬間、『HOT LIMIT』 が脳内で再生されました。




そこはかとなく、T.M.Revolution感。
波打つ姿は、まるで生足魅惑のマーメイドです。




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没後50年 藤田嗣治 本のしごと

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昨年、没後50周年を記念して、東京都美術館と京都国立近代美術館で、
国内外から過去最大規模で藤田嗣治の油彩画が集結した展覧会が開催されていましたが。
その同じタイミングで、西宮市大谷記念美術館を皮切りに、
4会場を巡回する、もう一つの大々的な藤田嗣治の展覧会が開催されていました。
その名も、“没後50年 藤田嗣治 本のしごと”
藤田が 「油彩画のしごと」 と同じくらいに、
その生涯で力を入れていた 「本のしごと」 を網羅する展覧会です。
“没後50年 藤田嗣治” とこちらの展覧会は、まさにコインの表と裏のようなもの。
2つの展覧会を観ることで初めて、
画家・藤田嗣治の全容が明らかになるといっても過言ではないのです。

さて、そんな “没後50年 藤田嗣治 本のしごと” の最終会場となるのが、東京富士美術館。


(注:館内の写真撮影は、特別に許可を得ております)


ルネサンスから印象派、20世紀までの西洋絵画に、
江戸絵画や浮世絵、刀剣など、日本美術も幅広くカバーしていることでお馴染みの美術館です。
実は、意外と知られていないのですが、
東京富士美術館は、日本最大規模の藤田嗣治の挿絵本コレクションも所蔵しています。
その数、なんと50冊。
これは、藤田の生涯を通じて、フランスで出版された挿絵本のほぼ全てに当たるのだとか。
挿絵本と聞いて、

「ふ~ん。ただの本か・・・」

と、食指が動かない方もいらっしゃるかもしれませんが。
いえいえ、本とはいっても、何千部何万部も刷られるような普通の本ではありません。
一般には流通しない、美術愛好家向けに制作された限定本です。
それらのほとんどは、機械ではなく手作業で製本されたもの。


(注:著作権者が “しごと” 熱心なため、藤田嗣治の絵の部分は、ケンミンショースタイルで伏せてあります)


紙の縁を注目してみると、手作業であることがよくわかりますね。
そのため、たくさん制作することはできず、
限定数が55部や30部といった超激レアな本も存在しています。

それらほぼすべてを網羅した富士美のコレクションにくわえて、
日本各地から、藤田嗣治の貴重な挿絵本が大集結した今回の展覧会。





1タイトルにつき、1冊あるだけでもスゴいことなのですが。
中には、2冊3冊集められたものもありました。
日本の昔話を題材にした 『日本昔噺』 にいたっては、なんと5冊も集結!




そのため、本の展覧会の鑑賞中に起こりがちな、
“表紙も中身もどっちも見たいんだよなァ” 問題は、ほぼ発生することはないでしょう。
モヤモヤすることなく、表紙も中身 (挿絵) もどっちも堪能することができるはず。
藤田嗣治の 「本のしごと」 を把握するには、これ以上ないであろう展覧会でした。
星星


また、本以外にも、藤田が最初の妻にフランスから送った手紙や、
藤田の盟友ともいうべきGHQの民政官フランク・シャーマンに送った手紙なども紹介されています。




55部限定や30部限定といった超激レアな本よりも、さらに超激レアな逸品。
たった一人のために藤田が描いた絵や文章を目の当たりにすることができます。
もちろん内容は完全プライベート。
藤田嗣治もまさかこれらの手紙が、
美術館で晒されることになろうとは、思ってもみなかったことでしょう。
人気者はつらいよ。


さてさて、本日2月22日は、猫の日。
最後に、猫にまつわる情報をご紹介いたしましょう。
今回の展覧会は、全4章で構成されていたのですが。




最後の4章に関しては、「藤田嗣治といえば猫!」 ということで、
本とは全く関係なく、藤田による猫の絵画や素描、いわば 「猫のしごと」 が紹介されていました。




右を見ても、左を見ても、前後を見ても猫。
猫好きには、たまらない空間でした。
オススメは、金屏風に描かれた猫。
猫の軽やかな一瞬の動きが写し取られています。
目に飛び込んできた瞬間、本物の猫が会場に紛れ込んでいるのかと、二度見してしまったほど。

“あっ・・・本物の猫じゃないんだ・・・”

猫好きには、ちょっと切なくなるトラップでした (←?)




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第22回岡本太郎現代芸術賞(TARO賞)

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岡本太郎の遺志を継ぎ、「時代を創造する者は誰か」 を問うための賞。
それが、岡本太郎現代芸術賞。通称TARO賞です。
その第22回目、平成最後となるTARO賞の入選作品が、
例によって、今年も川崎市岡本太郎美術館に一堂に会しています。

応募総数は、416作品。
厳正な審査を経て入選したのは、わずか25作品。
その中で、栄えあるグランプリ、岡本太郎賞に輝いたのは、
檜皮一彦さんによる 《hiwadorome: type ZERO spec3》 という作品です。
アゲアゲのミュージックに、無数のレーザーライト。
まるでクラブのような空間の中央に聳え立っていたのが、こちらの巨大なオブジェ。




近づいてよく観てみると、その正体は・・・・・




なんと車椅子を何台も積み上げたものでした。
実は、四肢に障害をもつ檜皮さん。
周囲の壁では、自身の身体を題材にした映像作品も紹介されていました。
障害を “個性” と捉え、ポジティブに制作された作品は、圧倒的なパワーに満ちています。
檜皮さんに手を差し伸べてあげよう、だなんておこがましい考えでした。
むしろ、檜皮さんがこの作品を通じて、人々に手を差し伸べているような気がします。
岡本太郎賞を受賞するのも納得の作品でした。
星


準グランプリに当たる岡本敏子賞を受賞したのは、
北海道生まれのアーティスト風間天心さんの 《Funetasia》 です。




祭壇の中央に飾ってあったのは、『平成』 の文字。




そう。こちらは、今年4月末にお別れとなる 『平成』 という元号の葬儀です。
しかも、ただ単に祭壇をしつらえただけでなく、
4月末には、供養箱に入れられた「手放したいもの」 とともに、「お焚き上げ」 するのだそう。




そういうていのパフォーマンスなのかと思いきや、
作者の風間天心さんはアーティストでもあり、禅宗の僧侶でもあります。
つまり、ガチの葬儀。
平成最後となる岡本太郎現代芸術賞に相応しい作品です。


また、特別賞は、武内カズノリさん、田島大介さん、國久真有さんの3名が受賞。
個人的には、國久真有さんの 《BPM》 という作品が特に気になりました。




ひたすら腕をグルグル回して描く。
名付けて、ストローク画法を、1、2ヶ月続けることで、作品は完成するのだそうです。
中央の部分が空白のままなのは、その部分には手が届かなかったから。
描くためには、なんとかして腕を伸ばすしかないのです。
ところで、手前に、あきらかに描きかけの作品がありますね。
なんでも、期間中毎日、國久さんは会場で制作を続けるのだそう。
生ストローク画法を目の当たりにするチャンスです。


さてさて、今回惜しくも受賞を逃した作品の中にも、印象的なものが数多くありました。
例えば、藤原史江さんの 《森羅万象》 という作品シリーズ。




黒い紙に白い絵の具、もしくはチョークで描いた作品なのかと思いきや。
実は、こちらは黒いサンドペーパーに、石を擦り付けて描いたもの。
絵の横に展示されているのは、




実際に制作に使われ、擦り減ってしまった石です。
なお、こちらの石は、山の石とのこと。
山の石を使って、山が描かれているわけです。
会場には、他にも川の石で描かれた川の絵と、枯れ枝で描かれた木の絵が展示されていました。
それぞれが、まさに身を粉にして、
かつて属していた光景をサンドペーパー状に定着させています。


続いて紹介したいのは、還暦を迎えたベテランアーティスト本堀雄二さん。
発表されていたのは、薬師三尊と十二神将をモチーフにした作品です。




木製でもなければ、金属製でもなし。
その素材の正体は・・・




なんと使用済みの段ボールです!
ありそうでなかった発想。そして、何よりも、完成度の高さ。
受賞してもおかしくない作品だと思うのですが、
強いて言うなら、タイトルのセンスがいま一つ・・・。
その名も、《捨てる紙あれば、拾う神あり》
完全に親父ギャグ。


入選作の中には、会場を飛び出していたものも。




井口雄介さんの 《Para-site-flame-work》 という作品です。
岡本太郎美術館という建築物そのものを巻き込む作品とのこと。
発想は面白いと思ったのですが、
インパクトに関して言えば、その後ろにある岡本太郎作品に負けていたような。
やはり太郎さんはスゴイ。


ちなみに。
入選者の名前が発表された段階から、
個人的に注目していたのが、革命アイドル暴走ちゃん。
昨年の岡本太郎賞を受賞したのが、さいあくななちゃんだったので、
「2年連続で、“〇〇ちゃん” が受賞したりして?」 と、ひそかに楽しみにしていました。
そんな革命アイドル暴走ちゃんが発表していたのは、《暴走の肉塊》 という作品。




名は体を表す、とは、まさにこのこと。
カオスな作品でした。。。
この空間にボー然としていると、
どこからともなく、地下アイドルみたいな恰好をした女性が現れました。

「作品を観てくれてありがとうございます♪
 あとで、ここで私たちのパフォーマンスがあるので、是非観に来てくださいね♪」

「・・・・・・・はぁ」

苦手とするノリに、困惑する僕。
さりげなく、その場を離れることにしました。
・・・・・・・が、その数十分後。
会場の別の場所で、再び地下アイドルみたいな女性とばったり遭遇。
《暴走の肉塊》 に戻るハメになりました。
で、パフォーマンスがスタート。




・・・・・・・・僕は何を見させられているんだろう??

と、次の瞬間、意外な展開が。
彼女たちが、いきなり衣装を脱ぎ捨てたではないですか!
その下に着ていたのは、〇〇〇〇 (←ネタバレを防ぐため伏字にしています)。
そう言えば、パフォーマンスの冒頭に、
「普段は劇団をやってます」 と、彼女たちは語っていましたが。
もしかしたら、ワハハ本舗の人たちなのかもしれません。

数分後、まさに暴走としか言いようのないパフォーマンスが終了。
それと同時に、メンバーの一人に完全にロックオン。
そして、僕のほうに走ってくるなり、
「今日は来てくれてありがとうございました♪」 と言って、これを手渡されました。




手書きのメッセージに、思わずキュン (←単純なヤツ!)。
パフォーマンスのノリには付いていけませんが、
革命アイドル暴走ちゃんを、応援していきたいと思います。




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ざんねんな仏涅槃図

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こんばんは。国宝ハンターのとに~です。
先日、ひとまずの目標である1000件を達成したので、
今後は、ゆるゆるとハンティング数を伸ばしていこうと思っている今日この頃です。
そんな僕が次に目をつけたのが、そう・・・・・

重要文化財。略して、重文です。

とは言っても、重文ハンターにはなりません!
なぜなら、2018年2月1日時点で、
日本全国にある重文の数は、なんと13232件
もしも、重文ハンターとなって、日本中の重文をハンティングしたなら、
すべての重文を見るまでに、来世あるいは、来来来世までかかってしまことでしょう。
考えただけで、気が遠くなります (笑)


さすがに13232件もあるならば、その中には、
「えっ?何でコレが重文なの??」 と、首を傾げたくなる重文もきっと存在しているはず!
そんな仮説のもと、日本全国のちょっと “ざんねん” な重文を探してみようというのが、今回の新企画。




その名も、『ざんねんなじゅうぶん事典』 です。


というわけで、まずやってきたのは、
国宝ハンターのホームグラウンドともいうべき、東京国立博物館。




国宝ハンター同様に、今回の企画も東京国立博物館からスタートです。
早速、 “ざんねん” な重文を探してみることに。
国宝ハンターのモードの時は、全く目に入ってこなかったですが、
意識してみると、トーハクの展示室のあちらこちらに重文が展示されていました。
それもそのはず、トーハクが現時点で所蔵する重文の数は、約650件。
さらに、寄託作品も合わせれば、その数はおそらく1000件を超えることでしょう。
そう、トーハクは、日本一重文に出合える博物館なのです。

しかし、なんとなく予想はしていましたが。
《紙本淡彩波涛図〈応挙筆/二曲屏風一双〉》 や、




《色絵梅月図茶壺〈仁清作/〉》 をはじめ、




その重文のほとんどが、素晴らしい美術品でした。
さすがは、国宝予備軍。
ちっとも “ざんねん” な感じはありません。


しかし、トーハク内をくまなく見回ってみると、
下半身しかない蔵王権現像 《奈良県大峯山頂遺跡出土品》 のうち) や、




名称がただの 『壺』 (登録名は、《壺形土器》) と、シンプルにもほどがある重文、




せっかくの高度な透かし彫りの技術が、
TSUTAYAのせいで、Tポイントのロゴマークにしか見えない 《金銅透彫飾履》 など、




なんか “ざんねん” な感じがする重文も、ちらほらと見つかりました。
うんうん。探せばあるものですね。


トーハクの数ある所蔵品の中でも、特に名品とされる・・・




こちらの 《青磁茶碗〈(馬蝗絆)/〉》 には、
ちょっと “ざんねん” なエピソードが、言い伝えられています。

この世にも美しい青磁を所持していた室町幕府8代将軍・足利義政。
しかし、ある時、茶碗の底のほうに、ひびを入れてしまいます。
ヘコむ義政。
そこで、これに代わる品を送って欲しいと、明国にお願いをしました。
すると、こんな素晴らしい名品は、今の時代の我々には作れないと、
まるでホッチキスで止めるように、ひび割れを鎹でパチンパチンと止め、送り返してきたのです。




・・・・・・・・・・・・・。

残念ながら、新品は送ってもらえなかったそう。
わりと雑な感じで返却されてきました。
なお、その鎹を見た義政は、
まるで大きな蝗 (イナゴ) のようであると、「馬蝗絆」 という銘を付けたとのこと。
何も虫に例えなくても。。。


さてさて、いくつかあった “ざんねん” な重文の中で、
今回僕が、『ざんねんなじゅうぶん事典』 に是非記載したいと思ったのは、
奈良県の新薬師寺に伝わる 《絹本著色仏涅槃図》 です。
仏涅槃図とは、釈迦の入滅の場面を描いたもの。
一般的な仏涅槃図では、釈迦の周囲で、
多くの弟子たちや菩薩、そして、さまざまな動物たちが、その死を嘆き悲しんでいます。

英一蝶《涅槃図》
(参考:英一蝶 《涅槃図》 メトロポリタン美術館所蔵)



しかし、新薬師寺の 《絹本著色仏涅槃図》 は・・・




描かれている弟子や菩薩が、わずか14人ほど。
動物も虎、獅子、孔雀、羊、猿と、たった5種類しか登場していません。
列席者、少なっ!
なんとも寂しいお別れの会です。

しかも。




よく見ると、釈迦が半目を開けています。
「えっ?死んだの?」「いや、死んでないよね」
「だって、目、開いてんじゃん」「何だよ、ウソだったのかよ!」
そんな弟子たちのヒソヒソ声が聞こえてくるようです。


『新薬師寺の 《絹本著色仏涅槃図》 は、
 お釈迦様の死を悲しんでいる人や動物が少ない』





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PHENOMENON:RGB

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ラフォーレ原宿の6階にあるミュージアム、
ラフォーレミュージアム原宿 (←ラフォーレ原宿ミュージアムではなく!)。
そちらで現在開催されているのは、“PHENOMENON:RGB” という展覧会です。




こちらは、RGB・・・つまり、Red、Green、Blue、
「光の三原色」 をテーマにした原宿らしいカラフルな展覧会。
紹介されているのは、アートやファッション、グラフィックなど、
多彩な分野で活躍する国内外9名の気鋭のアーティストの作品です。
最先端アートに触れられて、しかも、無料。
ラフォーレ原宿のすぐ裏にある太田記念美術館と、
あえて併せて訪れてみるのもいいかもしれないですね。
星


メインとなるのは、3名のアーティストによる新作大型インスタレーション。
まず1つ目は、グラフィックを軸に国内外で活躍しているアーティスト、
YOSHIROTTENさんによる 《SIGNAL RGB》 という映像インスタレーション作品です。




40枚のディスプレイモニターそれぞれに、
記号のようなアイコンのような不思議なグラフィック映像が映し出されています。
これらの映像には、特に具体的な内容があるわけではなく、
YOSHIROTTENさん曰く、映像を 「信号」 として発信しているとのこと。
テレビやパソコン、スマホと、
今やすっかり現代人の生活に欠かせないものとなったディスプレイモニターは、
僕らに何か注意を促す、時に警告を放つ信号機やサインのような役割も果たしているとのことです。
なるほど。そういう捉え方もあるのですね。




ということで、しばらく作品を眺めてみましたが、
僕は、特にこれといったシグナルを受信できなかったです。
ただ、どこかロシア・アヴァンギャルドっぽくて、単純に見ていて飽きない作品ではありました。
なんとなくレトロを感じる作品です。


続いては、シドニーを拠点に活動するジョナサン・ザワダによる 《コモンズの豊穣》




何の変哲もないテントが、縦に3つ並んでいます。
真ん中のテントを覗いてみると・・・




そこには、ゲームを楽しむ人が。
着ているのは、クロマキー合成用のトレーナーだそうです。
一番上のテントも同様にも人がおり、やはりその目の前にはテレビゲームの画面がありました。
と、この2つのテント内の様子は、リアルタイムで録画されているそうで、
その録画された映像と、スクリーンに向かう視聴者の映像などが構成されたものが、
一番下のテントのモニターに映し出されるという作品です。




現実の世界とバーチャルの世界がリミックスされているため、
観れば観るほど、考えれば考えるほど、「現実?バーチャル??」 と頭の中が混乱していきます。
なので、余計なことを考えないのが、ベター。
すると、不思議なトリップ感が味わえますよ。


ちなみに。
作品の背後にある壁に映し出されていたのは、別のアーティストの作品。
2面を使った巨大なスクリーンには、
6名のアーティストによる映像作品が、ループで投影されています。




最後に紹介するのは、アートディレクター河野未彩さんの 《RGB_Ambience》 という作品。
写真や映像、インスタレーションなど9点で構成された作品です。




特に印象的だったのが、「RGB_light」。




このUFO型の不思議なライトで、
さまざまな物体を照らし出すと・・・あら不思議!




影は、黒ではなく、RGB3色となるのです。




エ・・・エモい! (←使ってみたかった)

光が美しい作品は、これまでいろいろと目にしたことはありますが。
影に美しさを感じる作品に出会ったという記憶はありません。
おそらく、この作品が初体験でしょう。

RGB_lightが素晴らしいのは、どんなものの影も美しくしてしまうところ。
うねうねした棒の影も、ほらこの通り!




モニター裏のごちゃごちゃした配線の影だって、ほらこの通りです!




むしろ、ごちゃごちゃしているほうが、アーティスティックなくらいです。
配線にお困りの方、家の照明をRGB_lightに変えてみてはいかがでしょうか?





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ル・コルビュジエ 絵画から建築へ―ピュリスムの時代

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国立西洋美術館の本館は、「ル・コルビュジエの建築作品―近代建築運動への顕著な貢献」として、
2016年に、日本国内では20番目、都内では初となるユネスコ世界文化遺産に登録されました。




そんな国立西洋美術館は、今年でめでたく開館60周年を迎えます。
それを記念して、現在開催されているのが・・・・


パリ、ジャコブ通りの自宅におけるル・コルビュジエと 《多数のオブジェのある静物》(部分) 1923年 
パリ、ル・コルビュジエ財団 ©FLC/ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2018 B0365



国立西洋美術館の本館の生みの親ル・コルビュジエを主役に据えた展覧会。
“ル・コルビュジエ 絵画から建築へ―ピュリスムの時代” です。




会場となるのは、企画展示室ではなく、もちろん本館。
普段は、常設展が行われている本館展示室を全面的に使って開催されています。
いつもはロダンの彫刻が数点設置されている19世紀ホールも・・・


(注:館内の写真撮影は、特別に許可を得ております。なお、1階19世紀ホールは撮影可です)


すっかり、ル・コルビュジエ展モードにシフトチェンジされていました。
ちなみに、20世紀を代表するスター建築家ゆえに、
これまで日本でも数多くのル・コルビュジエ展が開催されてきましたが。
ル・コルビュジエが設計した空間で、
大々的なル・コルビュジエ展が開催される機会は、そうそうありません。
実は、世界的に見ても、激レアな展覧会なのです。

また、珍しいといえば、今回のル・コルビュジエ展は、
彼の建築には、それほどスポットが当てられていません。
ル・コルビュジエ展なのに。




模型や写真、図面などは展示されてはいましたが、
展覧会全体の出品数の半数くらいにとどまる程度でした。
どうやらオーソドックスなル・コルビュジエの展覧会ではないようです。

(建築の代わりに) 焦点が当てられていた。
何が?
ー絵画が。



そう。今回のル・コルビュジエ展の大きな見どころは、ル・コルビュジエの絵画。
建築展というよりも、絵画展の要素が強い展覧会なのです。

実は、建築家としてブレイクを果たす前、若き頃のル・コルビュジエは、
本名のシャルル=エドゥアール・ジャンヌレ名義で、ピュリスムの画家としても活動していました。
今回の展覧会では、そんなル・コルビュジエ・・・もとい、
シャルル=エドゥアール・ジャンヌレの絵画作品が数多く紹介されています。


シャルル=エドゥアール・ジャンヌレ(ル・コルビュジエ) 《多数のオブジェのある静物》 1923年 
油彩、カンヴァス 114×146cm パリ、ル・コルビュジエ財団 ©FLC/ADAGP, Paris & JASPAR, Tokyo, 2018 B0365



ル・コルビュジエファン、建築ファンの目には、新鮮に映ること請け合い。
建築に興味があまり持てなかった絵画ファンにとっても、抵抗なく楽しめる展覧会です。

また、ピュリスム (純粋主義) に大きな影響を与えた、
フアン・グリスやフェルナン・レジェらキュビスムの作家の作品も併せて紹介されていました。
(大人の都合で画像は掲載できませんが、キュビスムを代表するブラックやピカソの作品も紹介されています)




ピュリスムとキュビスム。
どちらも、瓶やバイオリンといった立体のモチーフを、ペタンと平面的に描いています。
2つの主義には、そう大差がないような印象を受けますが、
よくよく見比べてみると、ちゃんと違いがあることに気が付きます。
モチーフを解体したり、変形させたり、展開させたり、
その結果、描かれたモチーフが何かわからなくなってしまうこともあるキュビスム。
それに対して、ピュリスムは、時にやや強引な描き方はあるものの、
モチーフが何かわかるように描き、それらを組み合わせて画面を構成しています。
さらに、全体的に抑えめな色遣いのキュビスムに対し、
ピュリスムは、パステルカラーを基調とし、華やかでポップな色遣いなのも大きな特徴です。




鑑賞していて、純粋に楽しかったのは、ピュリスム。
この展覧会を機に、ピュリスムブームが起こるかもしれません。


ちなみに。
今回出展されていたシャルル=エドゥアール・ジャンヌレの作品の中で、
もっとも印象に残っているのは、31歳の時にパリで初めて描いたという油彩画です。




砂漠のような場所に、ポツンと一軒家。
のちの建築家ル・コルビュジエを彷彿とさせるモダニズムの白い住宅建築が建っています。
・・・・・・・・・と、信じて疑わなかったのですが。
キャプションを思わず二度見!
そこには、《暖炉》 というタイトルが書かれていました。
どうやら左下に描かれているのは、マントルピースの一部とのこと。
暖炉の上に本やら何やらが置かれている情景を切り取って描いた作品だったようです。
ル・コルビュジエに、まんまとひっかけられました (←?)。


さてさて、今回の展覧会には、もう一人の主人公ともいうべき人物がいます。
その名は、ル・コルビュジエとともに、
ピュリスム運動を主張したフランスの画家アメデ・オザンファン (1886~1966)
ル・コルビュジエとともに建築に関する雑誌や書籍を発刊したり、
若き日のル・コルビュジエが、そのアトリエ兼自宅を設計していたり。
ル・コルビュジエとオザンファンは、まさに盟友ともいうべき関係でした。
初期のオザンファンの作品は、ル・コルビュジエの作品と瓜二つ。
どっちがどっちの作品か、キャプションをいちいち確認しないと区別がつかないほどです。

そんな2人の仲には、徐々にすれ違いが・・・。
最終的には、修復不可能な亀裂が走ることとなります。
そして、お互いは、別々の道を歩むことに。
ル・コルビュジエは、建築家の道へ、
オザンファンはピュリスムを推し進め、次なるステージへと進みました。
またまた、大人の都合で画像は掲載できませんが、
オザンファンが到達した新たな作風は、軽妙かつ洒脱で、どこかエスプリの効いた作風。
純粋に素敵な絵画でした。

さて、ル・コルビュジエとオザンファンの仲は、修復されることはなかったそうですが。




長い時を経て、遠く日本の地で、2人の作品が、
ル・コルビュジエの設計した建物の中で仲良く紹介されているだなんて!
ピュアな友情物語を勝手に妄想して、なんか泣けてきました。




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ラリック・エレガンス 宝飾とガラスのモダニティ

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現在、練馬区立美術館で開催されているのは、
"ラリック・エレガンス 宝飾とガラスのモダニティ" という展覧会。


(注:館内の写真撮影は、特別に許可を得ております)


フランスを代表するジュエリー作家にして、
ガラス工芸家でもあったルネ・ラリックの初期から晩年までの作品を紹介する展覧会です。




出展作品は、実に約230点!
これらはすべて、オフィスコーヒーなどでお馴染みのユニマットグループが所蔵するものです。
普段は公開されていないというユニマットのラリックコレクション。
それらが、都内でまとめて公開される初めての機会です!
星星


さてさて、ラリックコレクションといえば、
ラリックの名を冠する箱根ラリック美術館にも、素晴らしいラリックコレクションがあります。
同じラリックコレクションなので、
なんとなく似たようなラインナップだろうと思っていたのですが。
コレクターが変われば、コレクションの内容は変わるもの。
箱根ラリック美術館とは、また違った印象のラリック作品を楽しむことが出来ました。
どっちかどうだと、具体的には形容しがたいのですが。
強いて言うならば、箱根ラリック美術館のラリック作品は全体的に、パキッと男性的な印象、
それに対して、ユニマットのほうは曲線美が際立つ作品が多く、どこか女性的な印象を受けました。

例えば、こちらの 《蝶》 という花瓶。




ボディの部分には、花があしらわれ、
その花の周りを蝶が飛びまわるユニークかつ優雅なデザインです。

また、例えば、こちらの 《オラン》 という花瓶。




ボテッと咲き誇るダリアの内側から、オレンジや青い光が放たれています。
中に照明が組み込まれているのかといえば、さにあらず。
見る角度や照明の当て方によって、
オレンジや青に色を美しく変化させるオパルセントの特性を最大限に引き出した作品です。


この他にも、ラリックの独自の感性が光る美しい作品が多々あったのですが。





時には、感性が暴走するのでしょうか、
「ちょっとやり過ぎなのでは?」 という作品も、少なからずありました。
個人的には、そっちの作風のが好みです。
「いいぞもっとやれ」 という感じでした。

例えば、ガラス工芸家に転向したばかりの頃の 《バッタ》 という花瓶。




バッタ、大きすぎ。
そして、多すぎ。
花を生けたところで、バッタに食い尽くされてしまいそう。
女性にプレゼントしたら、悲鳴をあげられることでしょう。


また、こちらも初期の作品。




一見すると、普通に美しいデカンタ瓶ですが、
そのタイトルを見ると、《シレーヌとカエル》 とありました。
えっ?カエル?どこに??




・・・・・うわぁ。
目が完全にイッちゃってます。
しかも、口からドバドバ何か出ています。
デカンタだけに、酒に酔って (以下、自粛)。


ちなみに、こちらのカーマスコットも、やりすぎな印象は否めませんでした。




デザインされているのは、《5頭の馬》 です。
1頭で十分な気がしますが、2頭でも3頭でもなく5頭。
このカーマスコットを装着したなら、
フェラーリの5倍速く走れるようになるのかもしれません。


そうそう、カーマスコットといえば、
今年2019年の干支である 《イノシシ》 をデザインしたものもありました。




直進で突っ走るイメージがあるだけに、
カーマスコットには、不向きなような気が・・・。
カーブを曲がれず、事故ってしまいそうな予感がプンプンします。


最後に、今回一番印象に残った作品 《モンモランシー》 をご紹介。




全体にボコボコしたものが付いている謎極まりない花瓶です。
一体、何を現わしているのでしょうか?
ホヤ??
もしくは、『北斗の拳』 の悪役が腕にハメてるヤツにしか見えません。




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ヨハネへの道~1週目~

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お笑い (ツインツイン) 時代の相方が手掛けた大会形式のダイエットアプリ 【FITFES】 に参戦し、
35日間かけて、カラヴァッジョの 《洗礼者聖ヨハネ》 のような身体を目指すガチンコチャレンジ企画。
それが・・・




初日 (2月25日)。
相方の会社があるシェアオフィスへとやってきました。
まずは、ビフォー、つまり現時点の身体の写真を撮ることに。

「どこで撮影するの?」

「う~ん。寒いけど、屋上にしよっか。見晴らしイイし」

「いやいやいや。寒いのもイヤだし。
 しかも、見晴らしイイってことは、周りからも見られるじゃん。絶対イヤだわ!」

そんな僕の必死な抵抗もむなしく、屋上で撮影することとなりました。




アートテラーを始めて、早10年以上。
裸の姿を人様に晒す日が来ようとは。。。
羞恥心の極みですが、これも長年コンビを組んだ相方の頼みのため。
文字通り、一肌脱ごうではないですか!




我ながら、どこに出しても恥ずかしい身体です。
確かに、これでは絵のモデルのオファーが来ることは無いでしょう。
ちなみに、初日の時点での体重と体脂肪は、以下の通り。




果たして、35日後に、この数値がどこまで変化しているのでしょうか。
どうぞお楽しみに。

「・・・・・あのさ、もう服着ていい?
 下を歩いている人からも丸見えで、相当恥ずかしいんだよね」

「せっかくだから、アレも撮ろう」

「アレって?」

「ライザップのCMのビフォーみたいなヤツ。お腹の肉を摘まんで、うなだれてる感じの」

他社のじゃねーか!


(↑でも、結局しぶしぶ付き合った)


さて、お次は、企画の期間中にこなすトレーニングを教えてもらうことに。
【FITFES】 ではトレーニングの動画が配信されるそうですが、
本日は、特別に、宮島トレーナー直々に指導してもらえることとなりました。




はじめに教わるのは、胸筋を鍛えるための腕立て伏せです。




10年近く腕立て伏せをしていないことを告げると、
まずは、膝がついた状態での腕立て伏せでやってみましょうとのこと。




骨盤の位置を上げる。腹筋に力をこめる。
肩甲骨の間に指が1本入るようなイメージ。
正しいフォームを意識しながらこなすと、
膝が付いているとはいえ、かなりハードでした。




宮島トレーナー曰く、ゆっくり時間をかけるよりも、
回数は少なめでもいいので、早く何度もこなすことが重要とのこと。

「じゃあ、もう15回やってみましょうか」

「えっ?また?!」






もう限界です。。。
腕がプルップルしています。
すると、宮島トレーナーから信じられない一言が。

「じゃあ、最後にもう25回やりましょう」

「はっ?!」


(↑後半は、宮島トレーナーによって、ただただ壊れた人形のように揺さぶられているだけ)


続いて教わるのは、下半身の筋肉を特に鍛えるためのスクワット。
椅子を使ったチェアスクワットに挑戦です。




美術館巡りや国宝ハンターで、普段から歩き回っているため、足腰には自信があります。
なので、チェアスクワットは余裕でクリア。




そこで、チェアを使わないノーマルなスクワットを教えてもらいました。




姿勢を意識しながらやると、やはりハードですね。
でも、キツければキツいほど、ヨハネのような身体に近づくわけです。
35日間、頑張ってこなそうと思います。


そして、いよいよ今回の肝となるべきトレーニングが、宮島トレーナーから告げられました。
その名も、HIIT。

「HIIT?」

「HIITとは、High Intensity Interval Trainingの略です。
 このトレーニングのスゴいところは、たった4分間で、
 とに~さんが日課にしている30分のジョギングよりも、大きい効果が得られるところなのです」

「何ですと?!そんな夢のようなトレーニングがあるのですか!!」

「具体的には、20秒休まず激しい運動を続けたら、10秒休憩して、
 また20秒激しい運動をする・・・の繰り返しで、それを8セット、つまり4分やるだけです」

「どんな運動をすればいいんですか?」

「疲れるのであれば何でもいいです。ダッシュでも激しい筋トレでも。
 今日はとりあえずマウンテンクライマー (床に手をついて走るような動き) と、
 インスペースラン (肘と膝をつけたり離したりするような動き) を交互に行ってみましょう」

それぞれの動きを覚えたところで、HIITを実践してみることに。
4分間チャレンジのゴングが鳴りました。




時間が短いから、何とかなるだろうと、軽く考えていたのですが。
前半2分経過した時点で、体力ゲージは0。
後半の2分は、もはや記憶がありません。




チーン。
完全に死んでいます。
同じカラヴァッジョが描いた洗礼者ヨハネの絵でも、
《洗礼者ヨハネの首を持つサロメ》 のほうの顔になってしまいました。




と、そんな瀕死の状態の僕のもとに近づいてくる宮島トレーナー。
で、おもむろに腕を持ち上げ・・・


(↑疲れすぎているため、なされるがまま)


「この姿勢から肘を骨盤につける意識で、身体を起こしましょう」 とかなんとか言い始めました。




「・・・・・(えっ?はっ?)」

「これは腹斜筋を鍛えるトレーニングです。
 ヨハネのような腹筋を目指すには、絶対に必要なトレーニングなんです」

いやいや、だからと言って、何も今やらなくてもムカムカ
普段は温厚な宮島トレーナーがサタンに見えました。




ヨハネへの道は遠い―。




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横浜船渠 ドック物語

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横浜みなとみらい21地区にある横浜美術館には、何十回と訪れているのに。
同じ横浜みなとみらい21内にある横浜みなと博物館は、これまで一度も訪れたことがありませんでした。




こちらは、日本初にして日本最大規模の港、横浜港をテーマにした博物館で、
「横浜みなと博物館」 という名で再出港して、今年でちょうど10年目を迎えます。
ちなみに、リニューアル前の名称は、横浜マリタイムミュージアム。
開館は、1989年とのことなので、今年でちょうど開館30年目を迎えました。
実は意外と歴史のあるミュージアムです。
昨年には、同館内に、柳原良平アートミュージアムもオープン!




サントリーウイスキーのキャラクター、
アンクルトリスのデザインで知られるイラストレーター柳原良平の作品が常設されています。
アンクルトリスが登場するポスターや原画はもちろんのこと、




生涯、船を愛したという柳原良平による船をモチーフにした油彩画などを観ることができます。




グッズも充実しているので、ノスタルジックな気分を味わいたい方には、特にオススメですよ。
さて、そんな横浜みなと博物館の見どころの一つといえば、
太平洋の白鳥と言われた帆船日本丸 (重要文化財) の船内見学。




・・・・・・・・・・・・が。
残念なことに、3月末頃 (予定) まで、大規模な修繕工事が行われおり、
現在は、内部が見学できないだけでなく、外観もほとんどよくわからない状況となっています。

「だったら、修繕工事が終わってから行くことにしよう」

そう思われた方も多いことでしょうが、いやいや、逆に、今こそが大チャンス!
今しか見れない貴重な光景を目にすることが出来るのです。




帆船日本丸の修繕工事に合わせて、
約20年ぶりに、第一号ドックの水をぜんぶ抜く、ドライアップされています。
つまり、約20年ぶりに第一号ドックが、その姿を現しているのです。

ちなみに、こちらの第一号ドックは、
係留されている帆船日本丸と同様に、重要文化財に指定されている貴重なドック。
明治31年に竣工された明治期を代表的するドックの一つです。
建設当時でも最大規模を誇っていましたが、
大正7年に増幅され、長さ約204m、幅約39m、深さ約11mとなったのだとか。
水が張られていた時には、全く気付きませんでしたが、こんなにも巨大な建造物だったのですね。




さてさて、第一号ドックの全貌が明らかになっていることにちなんで、
現在、横浜みなと博物館では、“横浜船渠 ドック物語” という企画展が開催されています。




第一号ドックをはじめ、長きにわたって横浜港を支えたドックを、
建設した人や会社に関する資料、かつての写真などを交えて紹介した展覧会です。

“第一号ドックがあるならば、第二号ドックもあるのかな?”

その疑問に対する答えも、会場にありました。
もちろん第二号ドックもあったようです。
そして、その第二号ドックは今、復元され、
横浜ランドマークタワーの足元にあるイベントスペースとして活用されていました。
実は、何度かここを訪れたことがありましたが、
まさか、そんな歴史のある場所だったとは、想像だにしませんでした。
確かに、名前は、ドックヤードガーデン。
その名に、『ドック』 とありますね。




しかも、注意深く見渡してみると、
ちゃんと 『NO.2 DOCK』 の文字もありました。




なお、展覧会で紹介されていた昭和40年代の写真をよく見てみると・・・


海側から見た三菱重工業横浜造船所横浜工場 1972(昭和47)年 三菱重工業株式会社横浜製作所蔵


かつては、第三号ドックも存在していたことがわかります。




第三号ドックは、すでに埋め立てられているそうですが、
位置関係からするに、ちょうど横浜美術館の敷地内にあたりそうです。
知らず知らず、第三号ドックの跡地の上を歩いていたのかもしれません。

横浜みなとみらい21は、新しく作られた人工的な街かと思っていましたが。
実は、地区のあちこちに、歴史の痕跡が残っていたのですね。
『ブラタモリ』 のような気分を味わえる展覧会でした。(BGM 井上陽水『瞬き』)
星


余談ですが。
横浜みなと博物館の常設展会場に、
ハマことばの数々を紹介するコーナーがありました。
「メリケン」 や 「ハイカラ」 、「半ドン」 など、横浜発祥の言葉はいろいろあるようです。
「ちゃぶ台」 も、その一つ。
そう言われてみれば、「ちゃぶ台」 の 『ちゃぶ』 って何でしょう?
今まで疑問に思わず、ボーっと生きてきてしまいました。
正解は、「チョップハウス (=安い食堂)」 の 『チョップ』 が訛ったものとのことです。
念のため、帰宅後、 Googleで調べてみましたが、
ほとんどのサイトで、ちゃぶ台の語源として、中国説が紹介されていました。
果たして、本当に 「チョップハウス」 でいいのか。
信じるか信じないかはあなた次第です。




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太陽の芸術 ー岡本太郎のパブリックアートー

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現在、南青山の岡本太郎記念館で開催されているのは、
“太陽の芸術 ー岡本太郎のパブリックアートー” という展覧会。




こちらは、岡本太郎が制作したパブリックアートに焦点を当てた展覧会です。
・・・・・あれっ?
岡本太郎のパブリックアートといえば、
昨年、川崎市岡本太郎美術館で、同じ内容の展覧会が開催されていたはず。

"ハッ!もしや、その企画をパクったのでは?!"

と、「疑念は爆発だ!」 状態だったのですが。
どうやらその展覧会を担当した学芸員、
川崎市岡本太郎美術館の大杉浩司さんが、今回のゲストキュレーターとのこと。
本人公認であるならば、何よりです。

さて、なんかホッとしたところで、企画展示室へ。
こちらでは、そごう横浜の屋上にある 《太陽》 や、




昨年5月に、それまであった伊豆高原から、
高崎市に移設されたことで話題になった 《太陽の鐘》




そして、太郎さんの代表作、いや日本を代表するパブリックアート 《太陽の塔》 など、




日本各地にある太郎さんのパブリックアートの模型や原画の数々が展示されていました。




しかし、これでも太郎さんの全パブリックアートのほんの一部。
今確認されているだけでも、日本全国70ヵ所140点と、
べらぼうな数のパブリックアートが存在しているそうです。
なので、模型や原画で紹介しきれなかったものは、壁一面を使って写真で紹介されていました。
(それでも、全部では無いようですが・・・)




今回紹介されていた中で、一番のお気に入りは、
兵庫県のホテル・シーショアにあるという 《繚乱》 です。
こちら側から見ると、
「ここから先は立ち入り禁止!」 とでも言っていそうなつれない感じですが。




反対側に回ってみると・・・




「やぁやぁ、よくいらっしゃいましたね♪」 と、まるで態度が一変したかのよう。
ツンデレな奴です。


ちなみに、紹介されていた作品の中には、今は現存していないものも。
例えば、こちらの作品。




1956年、築地に竣工した松竹会館を飾っていたモザイクタイル壁画の原画です。
1999年に老朽化のため、建物が解体されてしまったため、作品も無くなってしまったのだそう。
完全なる抽象画かと思いきや、
若い男女が陽光のもとで踊りながら、青春を謳歌しているさまを表現しているのだとか。
タイトルもズバリ、《青春》 です。
なお、松竹会館は、銀座松竹スクエアに生まれ変わりましたが、壁画の姿はないとのこと。
失われた 「青春」 は取り戻せないのですね。


さてさて、今回の展覧会は、企画展示室だけでなく、
アトリエや応接室を含めた館内全てが、その会場となっていました。
と言っても、新たに何かを設置しているわけではなく。




常設されていた作品の近くに、キャプションが添えられているのです。
"岡本太郎記念館ですっかり見慣れたあの作品って、実はパブリックアートだったんだ?!"
そんな新鮮な驚きがある展覧会でした。
星


ちなみに、岡本太郎記念館の見どころの一つ、
カオスな庭に設置されているものの多くも、なんとパブリックアートの原型なのだそう。





この庭に来れば、実物よりは小さいサイズなものの、
日本各地の太郎さんのパブリックアートが、まとめて楽しめるのですね。
この庭園は、太郎さんのパブリックアート版東武ワールドスクウェアといえましょう (←?)。


最後に。
これまで何度も岡本太郎記念館を訪れているのですが、
つい最近、裏手に太郎さんがデザインした門があると知ったので、確認してみることに。




あっ、確かにありました!
しかも、ご丁寧に 『TARO OKAMOTO』 の文字まで。




いや、でも、この門のデザインに、あのカオスな庭に・・・。
名乗らずとも、誰の家かわかると思いますよ。




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平山郁夫 仏教伝来の軌跡

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かねてより一度は訪れたかった滋賀県の佐川美術館。
先日、ようやく念願かなって、訪問してまいりました。

モノトーンの建物と青空との対比!
そして、敷地の大部分が水盤となっており、建物はまるで水に浮かんでいるかのよう!

本やネットで何度も目にして恋焦がれたあの光景が、ついに目の前に・・・・・のはずが。




天気はあいにくの雨。
空も水盤も建物も全体的に同じトーン。
カラーで撮影しているはずなのに、モノクロ写真のようにしかなりません。




ただ、まぁ、これはこれで、
"趣があって逆に貴重な機会なんじゃないか?" と、自分に言い聞かせることにしました。




さてさて、こちらの佐川美術館は、
あの佐川男子でお馴染みの佐川急便が、創業40周年記念事業の一環として開館した美術館。
1998年にスタートし、昨年2018年にめでたく20周年を迎えました (←おめでとうございます!)
佐川急便のカラーと言えば、ブルー。
ならば、美術館の外観のどこかにブルーがあったほうが、
「より佐川急便をイメージしやすくなるのでは?」 と、老婆心ながら思ってしまったのですが。
佐川美術館が位置しているのは、琵琶湖畔、それも、比叡山を望む最高のロケーション。
周囲の景観を損なわないように、あえてモノトーンにしたのだそうです。
また、高さを押えて、巨大な平屋建てで造られたのも同じ理由から、とのこと。

その話を聞いた上で、
佐川美術館のほど近くに建っていた巨大なカラフルなビルを見ると・・・




“なんだかなー” という気持ちになりました。
少しは、佐川美術館の姿勢を見習ってほしいものです。


ではでは、早速本館の中へ。
こちらには大きく3つの展示室があります。
1つは、特別展を開催する特別展示室 (僕が訪れた日は、お休み中でした)。
2つ目は、佐藤忠良館。
佐川美術館が所蔵する日本彫刻界の巨匠・佐藤忠良コレクションを、
年に数回ほどテーマに沿って展示替えしながら、公開する展示室です。



(注:館内の写真撮影は、特別に許可を得ております)


ちなみに、こちらの佐藤忠良館に展示してあるブロンズ像は、
一部のものを除き、なんと手で触ってオッケーとなっていました!




目だけでなく、手でも、佐藤忠良作品を楽しむことができます。
もちろん、360度どこを触ってもいいそうなのですが、
さすがに人前で女性の裸婦像をお触りする勇気はなく、台座を撫でるくらいに留めました (笑)




次訪れる際は、他のお客さんがいないタイミングを見計らってみます (←ん?)。


そして、3つ目の展示室は、平山郁夫館。




言わずと知れた日本画界の巨匠・平山郁夫の作品を公開する展示室です。
佐川美術館が所蔵する平山郁夫作品は、実に320余点。
日本最大級の平山郁夫コレクションを誇っています。

こちらで、現在開催されているのは、“平山郁夫 仏教伝来の軌跡” というテーマ展。
シルクロードの風景を描いた作品や、
玄奘三蔵にまつわる作品、日本の寺院を描いた作品などが紹介されています。
原爆による後遺症から、救いの道を仏教に求めたという平山郁夫。
その生涯をかけて玄奘三蔵のシルクロードの旅を、実際に追体験したのだそうです。
展示室では、そんな平山郁夫の取材マップが紹介されていました。




その移動距離たるや!
猿岩石の比ではありません。
日本画壇の重鎮というイメージが強かったのですが、こんなにもアクティヴな人物だったのですね。

現地に足を運んでスケッチしているだけに、絵には説得力があります。
温度や湿度、匂いや風などが伝わってくるようでした。




砂漠を描いた絵の前では、喉がカラカラになりそうでしたし、
高山を描いた絵の前では、空気が薄く感じられ、意識が遠のきそうに。
平山郁夫が追体験したというシルクロードの旅を、作品を通じて追体験できる展覧会でした。
星星


ちなみに、琵琶湖を挟んで反対側にある比叡山延暦寺を、
平山郁夫が取材した作品群をまとめて紹介する一室では・・・




なんと4年ぶりに、佐川美術館が所蔵する国宝の梵鐘が特別公開されています。




平山郁夫の比叡山延暦寺の作品と何の関係もない気がしましたが、
実はもともと、こちらの梵鐘は、比叡山延暦寺の西塔宝幢院の鐘として、鋳造されたものとのこと。
ちゃんと関係があったのですね。
なお、特徴的なのは、そのシルエット。
いわゆる釣り鐘型をしておらず、スリムなシルエットをしています。
スキニー梵鐘。




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吉左衞門X WOLS

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昨日に引き続き、本日も佐川美術館の話題を。
(注:まとめて1本の記事にする予定でしたが、内容があまりにも濃かったので、2本に分けました)

昨日お伝えたとおり、佐川美術館の本館には、佐藤忠良館と平山郁夫館があります。
お二方とも佐川美術館開館当時はご存命、
つまり、当時の彫刻界のトップと日本画界のトップと、
美術界のツートップのコレクションが観られる美術館というわけです。

そんな佐川美術館が開館から数年後、
佐川急便50周年記念事業の一環として、新たに別館が開設されることが決まりました。
白羽の矢が立てられたのは、現代工芸界のトップで陶芸家の十五代 樂吉左衞門氏。
樂茶碗の創始者・長次郎から約450年にわたって、
一子相伝で継承され続けてきた樂家、その現代の当主です。

佐川美術館の別館で、自分の作品が常に展示される。
その申し出に対し、樂吉左衞門氏が出した条件が一つありました。
それは、別館の建物や付属する茶室を、自らが設計創案・監修すること。

構想3年。施工2年。
満を持して2007年にオープンしたのが、こちらの樂吉左衞門館です。




まるで、水盤に茶室がぽっかりと浮いているよう。
入り口は反対側でしょうか?




あっ、どうやらこちらからは、中に入れないようですね。
樂吉左衞門館に行くには、本館を通って行かねばならないようです。





・・・・・・・と言って、本館に来てはみたものの。
あれっ?ちょっと待ってください。。。
明らかに本館と別館が繋がっていません (汗)

「まさか、あの水盤の下を潜り抜けていくってわけじゃないよね。アハハ・・・」

その "まさか" でした。




地下へと続く階段を降りていくと、
そこには巨大な展示空間が広がっていたのです。
あの水盤の地下に、こんな秘密基地のような建物が埋まっていただなんて。
完全に、サンダーバードの世界です。


(注:館内の写真撮影は、特別に許可を得ております)


ちなみに、この空間の天井の一部には、ガラスが嵌められており、
水面を通して日光が差し込み、壁一面を照らす仕掛けになっているのだそう。
僕が訪れた日は、あいにくの雨でしたが、
もし晴れていれば、水面の揺らめきが、まるでスクリーンのように壁一面に投影されるのだとか。
さぞかし幻想的な光景なのでしょうねぇ (次は絶対晴れてるときに来よう!)。


ではでは、地上から見えていた茶室へと向かいましょう。
もちろん地下、水中の下を通って移動します。




まず通されたのは、待合い場所である寄付です。




水面下にある上に、外壁はコンクリート打ちっぱなし。
普通に考えたら、圧迫感がありそうなものですが。
まったく、そんな印象はなし。
むしろ温もりを感じる空間でした。
おそらく、その居心地の良さの一端を担っているのが、床の木材。




不思議な温かみのある木材です。
その正体は、実際に使用されていたオーストラリアの鉄道の枕木。
長年、風雪と列車の重みに耐えたことで、独特の風格や味わいが産まれているのでしょう。


続いて案内頂いたのは、腰掛待合。
茶席の前に、亭主の迎え付けを待つ場所です。
そこに腰掛けると、目の前にとんでもない光景が飛び込んできました!




巨大な円筒状のスペース。
まるで水盤の一部が、すぽっと円筒状に抜き取られてしまったようです。

「まさか、本当に円筒状に抜き取ったわけじゃないよね。アハハ・・・」

その "まさか" でした (本日2回目)。




先ほどの写真でチラッと見えていた、
あの部分がごそっと空洞となっているのです。
そして、いよいよメインである茶室の小間 「盤陀庵(ばんだあん)」 と、




薄茶がいただける大広間 「俯仰軒(ふぎょうけん)」 を案内してもらいました。




どちらの空間も、茶室としての伝統的な佇まいと、
現代のマテリアル (アクリルやガラスなど) とが、見事に融合しています。
ただ、それらの樂吉左衞門氏の創意工夫やこだわりすべてを、
ひとつひとつご紹介していたら、紙面がいくらあっても足りません。
ということで、しぶしぶ割愛。
これはもう実際に訪れて、体感して頂くということで。

茶室見学は別料金がかかりますが、絶対に訪れるべし。
行かねば後悔するレベルです。
茶室とは渋くて地味な空間、と思っていましたが、
主人が創意工夫を凝らして、客人へのサプライズを提供する空間だったのですね!
最大限に ‟樂” しませて頂きました。


ちなみに、樂吉左衞門館の展示室では、
現在、”吉左衞門X WOLS” という展覧会が開催中です。




"吉左衞門X" とは、樂氏が関わる何らかの事象Xと、
樂吉左衞門作品との関係式を解き明かす展覧会シリーズとのこと。
その第9弾となる今回は、ドイツ生まれで、
主にフランスで活動した孤高の画家ヴォルス (1913~1951) とのコラボ展です。
会場では、ヴォルスの油彩画や水彩画、銅版画と、
新作を含む樂吉左衞門による茶碗21点とが併せて展示されていました。





樂吉左衞門作品とヴォルス。
まったく想像だにしない組み合わせでしたが・・・




意外なほどにマッチしていました。
それもそのはず。
ヴォルスの作品、人生観に深く共鳴しているという吉左衞門氏。
会場内のヴォルスの版画作品は、なんと吉左衞門氏ご本人が所蔵しているものなのだそうです。





また、今回出展されている新作の 《白土焼貫茶碗》 や、




《焼貫黒樂茶碗》 には、




ヴォルスのイメージが投影されているのだとか。
確かに、そう言われてみれば、ヴォルスの作品と通じるところがあります。
ヴォルスの作品と向き合った時に生じる細胞がザワザワゾワゾワしてくるような感覚。
初めて出会うはずなのにデジャブを感じ、心の奥底が引っ掛かられるような感覚。
それらの感覚に近いものを、樂吉左衞門作品でも覚えました。

あと、個人的に、ヴォルスの作品からは、どこか "破れかぶれ" な印象を受けるのですが。
こちらの 《白土焼貫茶碗》 にいたっては、




一部に穴が開いていました。茶碗なのに。
まさに、"破れかぶれ"。
実にヴォルス的な作品でした。


樂吉左衞門館の建物自体がチャレンジングなものでしたが。
ヴォルスに着想を得た樂吉左衞門氏の新作も、チャレンジング。
そして、何より出会うはずの無かった2人 (?) を競演させた展覧会も、チャレンジングでした。
星星
これほど刺激的な体験が出来るとは。
滋賀県まで足を運んだ甲斐がありました。
(注:本館と別館それぞれの展覧会を2ツ星としましたが、佐川美術館全体とすれば3ツ星です!)


結局、最後まで空は晴れなかったですが、心は晴れ渡りました。




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第百七十二話国宝ハンター、話しかけられる!

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前回までのあらすじ~

日本全国にある国宝をハンティングする国宝ハンター。
企画開始から、7年半。
ついに1000件達成しました!
キリのいい数なので、これを機会に企画もゴールにしようと、ひそかに思っていたところ、
1000件目に訪れた沖縄の 《玉稜》 が、あまりにも神聖な場所で、一切はしゃぐ気になれず。
フィナーレを祝うタイミングを完全に逃してしまいました。

“俺は国宝ハンターを卒業できない。これが俺の矜持だ!”
そんなわけで、1001件目以降もよろしくお願いいたします。


いつも何かしらのプチトラブルに見舞われる国宝ハンター。
今回のプチトラブルは、早くも行きの夜行バスの車中で発生いたしました。
バスに乗り込み、自分の席に座り、
スマホの充電器用のコンセントの差込口を探していると、

「コンセントは、そこにさすんだよ」

と、隣の席のオッサンが教えてくれました。

「あ、ここですね。ありがとうございます!」

この一言に気をよくしたのでしょうか。
何かのスイッチが入ってしまったオッサン。
アドバイスが止まらなくなりました。

「シートベルトはなぁ、こうやって装着するんだよ」
「リクライニングはなぁ、このレバーで倒すんだよ。この角度が一番快適だぞ」
「こうやって足を伸ばすと楽だぞ。あと、靴を脱いどいたほうがいいな」
「2時間に1回くらいのペースで休憩が入るから、その時にトイレに行っといたほうがいいぞ」

まるで牢名主のごとく、ここでのしきたりを伝授してくれます。
とはいえ、こちらも国宝ハンターで何度となく高速バスに乗っているわけで。
「大丈夫です!知ってますから!」 と言って、シャットアウトしたかったのでしたが、
「はぁ・・・そうなんですね・・・へぇ・・・ふーん・・・なるほど・・・そうでしたか」 と、
とりあえず合わせてあげることにしました。

その後、高速バスでのアドバイスから、オッサンの身の上話へ。
ほとんど左から右へと受け流していましたが、
頻出キーワード 「7段の大きな棚に金属をしまっていく仕事」 だけは記憶にこびりついています。
いや、どんな仕事だよ。
話がまだまだ止まりそうにないので、意を決して、

「いろいろ教えて頂きありがとうございました。そろそろ寝ますね。おやすみなさい」

と言って、強制終了させました。
さすがに睡眠中に起こされることはなかったですが、
サービスエリアでの休憩のたびに何かと話しかけてくるオッサン。
そして、3回目の休憩の時には、

「お前、トイレに行かなくていいのか?」

と、話しかけてきました。

「(いきなり起こされ、若干機嫌が悪い)あぁ、大丈夫です。2回目の時にも行ったんで」

「いや、絶対行っておいたほうがいいぞ」

「さっきから2時間しか経ってないんで、大丈夫です」

「そんなことはない。行ってきなさい」

お前に俺の何がわかるムカムカ

・・・・・とキレるのも面倒なので、しぶしぶトイレに行きました。
もちろん何も出ませんでしたけど。


そんなプチ地獄から始まった今回の国宝ハンターの旅 (←前フリが長い!)。
まずは、念願の佐川美術館へ。




こちらでは、一昨日の記事でもちらっと触れましたが、
紀年銘が入ったものとしては、国内で6番目に古い 《梵鐘》 (ジャンル:工芸品) をゲットしました。


続いて、今回の旅の最大の目的である甲西駅へ。




3か月ぶりに、湖南市へとやってきました。
湖南市といえば、そう、善水寺までの道のりのハードさに心が折れ、無念のリタイアをした地。
第百六十七話より)
そのリベンジを果たさずには、国宝ハンターは終われません。




さぁ、レンタサイクルを調達し、いざ出発です!

と、そのタイミングで、観光案内所の方に話しかけられました。

「ところで、これからどこに行くんですか?」
「あぁ、善水寺です」
「なら、この道をまっすぐ行って、あそこで曲がるといいですよ」
「えっ?でも、Googleマップだと、
 こっちのが近いルート (前回のハードな道) になってますけど・・・」
「それは車で行く近道ですね。自転車なら、断然こっちのルートのほうが楽ですよ」

観光案内所の方のアドバイスに従ったところ・・・




だいぶ快適でした。
さすが観光案内所の方。
ていうか、前回のあの長く険しい道は何だったのでしょうか?

というわけで、すんなりと善水寺に到着。
リベンジはあっさり達成できてしまいました。




かつて桓武天皇の病気を治したという善き水が、今なお境内から絶えず湧き出ているお寺。
だから、善水寺。




国宝に指定されているのは、その善き水ではなく、
こちらの 《善水寺本堂》(ジャンル:建造物) です。




本堂の中も参拝できるとのことなので、
内部を見学していると、どこからともなくご住職さんが出現。
そして、おもむろに語り始めました。

「今日は遠いところをお越しくださいましてありがとうございました。
 簡単ではございますが、皆さまに善水寺のご案内をさせて頂きます」

“皆さま?!どう見ても、僕しかいないのに??”

そして、マンツーマンのガイドが始まりました。

「はぁ・・・そうなんですね・・・へぇ・・・ふーん・・・なるほど・・・そうでしたか」

今回は、やたらと話しかけられる旅でした。


余談ですが。
滋賀県と言えば、飛び出し坊や発祥の地、県内各地でその姿を目にしてきましたが、
善水寺近くのエリアは、飛び出し坊やが、何ともフリーダムなことになっていました。




ドラ●もんやスーパーマ●オといったキャラクターの姿になっていたのです!
さらに、おそらく昨年、新バージョンを制作したのでしょう。
エリア内のいたる所に・・・




ひょっこりはんがいました。




・・・・・・・ただ、ひょっこりはんでは、
ひょっこり顔を出すだけで、道路には飛び出さないと思いますよ。


今現在の国宝ハンティング数 1002/1116




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