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Channel: アートテラー・とに~の【ここにしかない美術室】
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浜口陽三と国際メゾチント展

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現在、ミュゼ浜口陽三ヤマサコレクションでは、
“浜口陽三と国際メゾチント展 TIME OF THE MEZZOTINT 星より遠い色” が開催されています。
こちらは、現代のメゾチント作家たちによる国際メゾチント展の一環として開催された展覧会です。
国際メゾチント展は、これまでにラトビア、ポーランド、中国と世界各国を巡回しているそうですが。
ここ日本会場では特別に、現代のメゾチント作家たちの作品とともに、
カラーメゾチントのパイオニアである浜口陽三の作品も紹介されています。


さてさて、この記事をお読みくださっている方の大半が、

「メゾチントって何?ただのモノクロの版画じゃないの?」

と思っていらっしゃることでしょう。
確かに、モノクロの版画ではありますが、ただのモノクロの版画ではありません。
途方もなく時間と労力のかかる技法で作られるモノクロの版画なのです。

では、具体的に、どのような技法なのでしょうか。
説明を聞くよりも、実際に体験してみるに越したことはありません。
というわけで、今回の会場には、このような一角が特別に設けられてました。

会場  会場
(注:館内の写真撮影は、特別に許可を頂いております)


一応、メゾチントの技法について、簡単に説明しますと。
まず、銅版に・・・

SN-メゾチント原版製作機用ベルソー/ゆめ画材

¥価格不明
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ベルソー (または、ロッカー) と呼ばれる櫛のような刃がついた器具で、版全体に無数の刻みを入れます。
無数に刻まれた線にインクが溜まることで、黒地が出来上がります。
(ツルツルの銅版の状態では、インクは乗りません)
黒地が出来たら、スクレーパーやバーニッシャーという金属のヘラやコテで、図柄を描いていくのです。
つまり、メゾチントの黒は、ただインクがベタ塗されているのではなく、
実に気の遠くなるような細かい作業を経て、ようやく生み出された黒色というわけです。

机の上には、美術館のスタッフさんが頑張ったというメゾチント作品がサンプルで置かれていましたが。

サンプル


やはり黒地は、プロのメゾチント作家の作品と比べると、う~ん。
味はありますが、深みは無い気がします。

ちなみに、こちらがプロ (=浜口陽三) の銅版です。

銅版  銅版


刻み込まれた線のきめ細やかさが、ハンパではありません。
そして、この銅版から生まれた作品が、こちらの 《ざくろとぶどう》 です。

ざくろとぶどう


画像でも、十分に黒色の深さが伝わるのではないでしょうか。
しかし、実物の黒色は、こんなものではありません。
もっともっと深い色合いです。
深すぎて、哲学性を感じるほど。
作品の黒色を見つめていると、いつの間にやら、自分自身も見つめてしまっている。
そんな哲学性を感じる黒色です。


《ざくろとぶどう》 は、シンプルなメゾチント作品ですが。
浜口陽三が生み出したカラーメゾチントは、黒だけなく、黄、赤、青の4版を重ねることで制作する技術。
単純計算して、4倍手間ひまがかかっています。

カラー


でも、その分、作品の素晴らしさは4倍増しています。
同じ黒地でも、カラーメゾチントの場合は、黄と赤と青を含んだ黒なのです。
黒色の味わいは、さらに深いことになっています。

青いガラス


1階の展覧会場には、 《ざくろとぶどう》 を筆頭に、浜口陽三の傑作が勢ぞろい。
そして、地下1階の展覧会場に降りると、現代のメゾチント作家たちの作品が待ち受けていました。
それも、ガラスケースに入っていないむき出しの状態で。
技法は同じメゾチントでも、表現はさまざま。

浜西勝則さんのメゾチント作品は、やはり 「和」 を感じさせるものがあり、

浜西 勝則


オランダ生まれのアド・ステインマンのメゾチント作品は、
どことなくオランダデザインを彷彿とさせるものがありました。

オランダ


今回紹介されていた現代のメゾチント作家の中で印象的だった作家は、グンタース・シェティンシュです。

グンタース・シェティンシュ


どこか映画 『マトリックス』 を連想させるデジタル版エッシャーといった印象。
特に 《CharactersXIII/∞-A》 という作品がお気に入りになりました。

Characters XIII / ∞ - A


独自の世界観があって、図案も好きなのですが。
やはりメゾチント作品だけあって、画面上部の黒色に惹かれました。
実にスタイリッシュでシャープな黒色です。


また、クリストファー・ノヴィツキの作品も印象的でした。
同じメゾチント、同じ黒でも、独特な温かみがあるのが特徴です。
柔らかな黒といった印象でした。

メゾチント


僕が作品から受けた黒色の印象は、おそらく画像ではあまり伝わらなかったかもしれません。
それくらいに肉眼で観ないと伝わらない繊細な風合いなのです。
とりわけ浜口陽三のカラーメゾチント作品の黒は、
先述したように4色が重なり合って生まれている黒なので、赤や青といった色味も感じられました。
メゾチント作品は、平面作品ではなく、平面に見える立体作品であることを実感した展覧会。





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