アートテラー・とに~が、自らが信じる説を持ち寄り検証していく新企画。
突然ですが、皆様、芸術家のあだ名と聞いて、何を思い浮かべますか?
例えば、ゴッホ。
彼には、「炎の人」 というあだ名があります。
また、《オレンジとリンゴ》 などで知られるセザンヌには、
「近代絵画の父」 というあだ名があります。
他にも、レオナルド・ダ・ヴィンチには、 「万能の天才」 というあだ名が、
ルーベンスには、 「王の画家にして画家の王」 という中二病みたいなあだ名があります。
今回は、そんな芸術家のあだ名に関する説をもってきました。
検証開始。
まずは、Googleで、「芸術家 魔術師」 と検索してみます。
すると、早速、「光と影の魔術師」 として、
レンブラントがヒット。
続いて、「色の魔術師」 として、
『はらぺこあおむし』 のエリック・カールがヒット。
さらに、「幻視芸術の魔術師」 ジャン・コクトーに、
「火薬の魔術師」 蔡國強、「黒の魔術師」 マネと立て続けにヒットしました。
ためしに、「手品師」 や 「錬金術師」 など、他の 「○○師」 で調べてみるも、ヒットせず。
もはや 「魔術師」 の独占企業状態。
その後も調査を続けると、芸術界には、
有名どころから、そうでもない芸術家まで、実に多くの魔術師がいることが判明。
「光の魔術師」 フェルメール
「光の魔術師」 モネ
「光の魔術師」 インゴ・マウラー
「光の魔術師」 小林清親
「光の魔術師」 エミール・ガレ
「光の魔術師」 ジェームズ・タレル
「光の魔術師」 ジョー・マクナリー
「光と色彩の魔術師」 ベラスケス
「光と色の魔術師」 ターナー
「色彩の魔術師」 ドラクロワ
「色彩の魔術師」 デュフィ
「色彩の魔術師」 マティス
「色彩の魔術師」 ミロ
「色彩の魔術師」 三岸節子
「色彩の魔術師」 シャガール
「色彩の魔術師」 ルオー
「色彩の魔術師」 ピサロ
「色彩の魔術師」 伊藤若冲
「色彩の魔術師」 緑川洋一
「色彩の魔術師」 鈴木青々
「色彩の魔術師」 ワイルドスミス
「色の魔術師」 ティントレット
「色の魔術師」 ルノワール
「色の魔術師」 レオ・レオニ
「色の魔術師」 ジミー大西
「色の魔術師」 西村計雄
「色の魔術師」 ソニア・ドローネー
「イタリア・ファエンツァが育んだ色の魔術師」 グェッリーノ・トラモンティ
「カラーインクの魔術師」 永田萌
「視覚の魔術師」 エッシャー
「イメージの魔術師」 エロール・ル・カイン
「イメージの魔術師」 マグリット
「線の魔術師」 ベン・シャーン
「線描の魔術師」 多賀新
「アートの魔術師」 ブルーノ・ムナーリ
「デザインの魔術師」 レーモンド・ローウィ
「造形と映像の魔術師」 ヤン・シュヴァンクマイエル
「空間作りの魔術師」 フランク・ロイド・ライト
「空間の魔術師」 村野藤吾
「鉄の魔術師」 エッフェル
「靴の魔術師」 ヤン・ヤンセン
「世紀末の魔術師」 クノップフ
「水と石の魔術師」 小川治兵衞
マティス、デュフィからジミー大西まで。
色の魔術師がこれほどまでに存在していることが、もはや何かの魔術なのではないだろうか。
「視覚の魔術師」 や 「イメージの魔術師」 は、それはもう普通の魔術師ではないのか。
予想以上に、芸術界には 「魔術師」 が氾濫しているようです。
では、一体いつ頃から、芸術界に 「魔術師」 が誕生したのか。
ネットや美術書でリサーチを続けるも、これといった回答は得られず。
そこで、知り合いの学芸員さんたちに協力を仰ぐことに。
「光の魔術師」 エミール・ガレ に関して、
エミール・ガレの展覧会を担当した学芸員に伺うと・・・
「ガレ関連の論文とかざっくり見た感じでは、
「魔術師」 というのは無かったような気がします。」
とのこと。
さらに、
光と色彩の魔術師たち~印象派の足跡をたどって~ ポーラ美術館 印象派名作選 [DVD]/Victor Entertainment,Inc.(V)(D)
というDVDを発売しているポーラ美術館の東海林学芸員からは、
「色彩の魔術師」 デュフィに関して有力な情報が寄せられました。
「改めて調べてみたのですが、1970年代くらいからしか出てこない表現でした。」
デュフィが亡くなったのは、1953年。
ということは、生前に 「色彩の魔術師」 と言われていたわけではないようです。
それどころか、本国フランスでは、「色彩の魔術師」 という表現は、あまり使われていない様子。
もしかしたら、これは、とんでもない事実を掘り起こしてしまったのでは。。。
これ以上、業界のために掘り下げないほうがいい気もしてきましたが。
2012年に埼玉県立近代美術館で開催された・・・
“ベン・シャーン展 線の魔術師” を担当した学芸員さんに、
魔術師というタイトルに関して、本当のところを伺ってみることに。
それに対して、このような回答を頂きました。
「「魔術師」 は確かに多すぎるぐらい多いです。
きっと便利な言葉なのだと思います。
天性の才能を持っているアーティストのことを、「天才」 と言ってしまうと直接的で強すぎる。
「魔術師」 はそれをちょっとミステリアスにふわっと伝えられるので、美術展のタイトルと相性がいいのでは。
よく考えると人をだますような悪いイメージもある言葉なのに不思議ですね。
便利な言葉ですが、頼りすぎてもいけないなと思いました。
ちなみに、ちょうど同じ時期に、
“クロスメディア・アーティスト” という副題の別のベン・シャーン展が国内を巡回していたので、
そちらと区別する意味もあって、彼の特徴である震える線に注目した副題をつけました。」
「つまり、ベン・シャーンが生前にアメリカで、
「線の魔術師」 と呼ばれていたわけではないのですね?」
「あくまで当館でつけたサブタイトルになります。」
「魔術師」 というあだ名は、日本で特に流行っているようだった。
ただ、残念ながら、これといった理由はわからなかった。
それこそが、魔術。
(答えにくい質問に真摯に回答くださった埼玉県立近代美術館の皆様、本当にありがとうございました)
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