■遊戯神通 伊藤若冲
作者:河治和香
出版社:小学館
発売日:2016/9/1
ページ数:285ページ
あなたの知らない若冲をお見せしましょう。
若冲没後百年を経た明治37年、
セントルイス万博に突如 〈若冲の間〉 というパビリオンが出現する。
この時 〈Jakuchu〉 の名を世界に広めたのは誰だったのか?
京の図案家神坂雪佳は、若冲の末裔という芸者から、
〈若冲の妹〉 と呼ばれた美しい女性の話を聞く。
宝暦13 (1763) 年、京都錦の青物問屋 〈枡源〉 に、一人の少女がやってきた。
主の若冲が飼う鶏や、珍しい鳥、美しい毒草などの世話をするために。その名は美以。
体からは不思議な芳香が漂っていた。
若冲はその匂いに、かつての異国の女の面影を重ね合わながらも美以を自分の弟に与えてしまう。
若冲を慕う美以は、以後 〈若冲の妹〉 として思いを秘めたまま生きていくことになる。
『動植綵絵』 の完成間際に錦市場を揺るがす事件が起こり、その弟が謎の死を遂げる。
彼は本当は若冲の何だったのだろうか。
さらに天明の大火による被災……だが、若冲が本来の絵師として蘇生するのはそれからだ。
そして、いつも傍らには 〈妹〉 の姿があった。
心の中の 〈奇〉 を描かずにはいられなかった絵師、若冲。
時空を超え魅了し続けるその素顔と秘密に、江戸と明治の二つの時代軸で迫った渾身の書き下ろし小説。
(出版社からのコメント)
「若冲を題材にした小説といえば、
昨年、このブログでも紹介した澤田瞳子さんの 『若冲』 が、めっぽう面白かったので。
それには及ばないだろうと、やや高を括っていました。
・・・が!!
正面から描いた金魚の絵でおなじみ (?) の神坂雪佳をストーリーテラーにするという設定や、
明治37年に、川島織物がセントルイス万国博覧会に、
和風モデルルームとして 「若冲の間」 を出展し好評を得たエピソードを絡ませるなど、
澤田瞳子さんの 『若冲』 とは、また全然違ったアプローチで、
タイプの全く違う若冲小説として、とても興味深く読み進めました。
見どころは何と言っても、若冲のキャラクター設定です。
ミステリアスな部分もありつつ、人間臭い部分もありつつ。
《動植綵絵》 を寄進した理由と、その後しばらく絵を描かなかった理由は、
この小説で描かれていることが真実なのかもと、ストンと落ちるものがありました。
そういう意味では、フィクションを読んでいるというよりも、
ノンフィクションを読んでいるかのような、妙なリアリティを終始感じていました。
それだけ登場人物たちに説得力があるのでしょう。
神坂雪佳以外にも、関西財界の重鎮・藤田傳三郎や、
“風来山人” こと平賀源内、明治の装丁家・橋口五葉、
はては、帝国ホテルの設計で知られる天才建築家フランク・ロイド・ライトまで登場します。
意外な人物の登場に、美術や歴史が好きな人なら、「オォッ!」 となるはず。
そうでない人なら、「フーン。」 でしょう (笑)
今年は若冲展があったので、若冲関連本も多く出版され、いろいろ目を通したつもりでいましたが。
若冲の印章がユニコーン製 (本当は、イッカク) であることや、
若冲が手掛けた金刀比羅宮の書院は、かつては沢山のツバメが描かれていたことなど、
この小説を通じて、初めて知る事実も多く、非常に勉強になりました。
京都の石峰寺と椿山荘の庭園にある 《羅漢像》 についても勉強になりました。
読んで良かったです。
ただ一つだけ文句をつけるとするならば・・・。
若冲展の前に発売して欲しかったです。
(星4つ)」
~小説に登場する名画~
《乗興舟》