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Channel: アートテラー・とに~の【ここにしかない美術室】
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新井卓 Bright was the Morning―ある明るい朝に

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現在、横浜市民ギャラリーあざみ野の1階では、
“新井卓 Bright was the Morning―ある明るい朝に” という展覧会が開催中。
現在もっとも注目を受けている写真家の一人・新井卓さんの待望の個展です。

新井


新井さんといえば、『写真界の芥川賞』 と呼び声が高い木村伊兵衛写真賞を受賞したばかり。
そう言えば、昨年も、横浜市民ギャラリーあざみ野では、
木村伊兵衛写真賞を受賞したばかりのタイミングで石川竜一さんの個展が開催されていましたっけ。

ということを、担当学芸員のAさんの前でポロッと口にしたら、

「アホ。2人とも展覧会の準備をしてる最中に、
 木村伊兵衛写真賞を受賞してんねん。目を付けたのは、俺のほうが先や!」


とツッコまれてしまいました。
別にその話はブログで書かなくてもいいかなぁとは思ったのですが。
担当学芸員のAさんの名誉のために、記しておきます。
決して、毎回、木村伊兵衛写真賞を受賞者の人気に乗っかっているわけではないようです。


さてさて、この記事を読んでくださっている方の中には、
「写真なんてどれも同じに見えるじゃん」 という方も、いらっしゃるでしょうが。
ご安心ください。
新井さんの写真作品は、他の写真家の作品と同じに見える心配 (?) は全くありません。

新井
《2014年3月23日,比治山公園より西北西に見かけの高度570mの太陽,広島》
「EXPOSED IN A HUNDRED SUNS/百の太陽に灼かれて」シリーズより/2014/ダゲレオタイプ/19.3×25.2cm



実は、新井さんの不思議な風合いの写真は、
ダゲレオタイプ (銀板写真) という世界最古の写真技術を使って制作されています。

“ダゲレオタイプ?ステレオタイプ??”

という方のために、ダげレオタイプについて簡単に説明する必要がありますね。
と思ったら、ちょうど横浜市民ギャラリーあざみ野の2階では、
“平成28年度横浜市所蔵カメラ・写真コレクション展 「写真―時間の位相」” が開催中。
こちらの展覧会の会場に、

ダげレオ


当時のダゲレオタイプで撮影された写真と、

ダゲレオ


そのカメラが展示されていました。

ダゲレオ


まずは、銀板を用意し、よ~く磨きます。
それに化学薬品を反応させて、感光化できるようにして、
それをカメラの焦点位置に置いて、長い間、露光させます。
つまり、今のカメラのように、シャッターを押したら、はい撮れた、というわけでなく。
像が結ぶまで、何分何十分と待つ必要があります。
銀板に像が結ばれたら、再び化学薬品を用いて、そこに定着させます。
銀板そのものが写真になるので、複製は不可、焼き増し不可。
そう、ダゲレオタイプは1点モノの写真なのです。

ちなみに、露光中に動いてしまうと、像は結びません。
なので、当時、モデルさんは首を支える棒に固定されていたようです。

首


ダゲレオタイプ、なんと面倒な撮影方法なのでしょう。。。
スマホでカシャッと写真を撮るのが当たり前になってしまった僕らには考えられないほどです。

そんなダゲレオタイプの手法を選択した時点で、新井さんは只者ではないですが。
実は、ダゲレオタイプのカメラは、面倒がゆえに、
とっくに生産は中止され、今現在、市販されていないのだとか。

新井


カメラも自身で制作しているのだそうです。
ますます只者ではありません。。。

そんな影の苦労が多分にあるにも関わらず、
新井さんの写真そのものからは、全くといっていいほど苦労が伝わってきません。イイ意味で。

作品


繊細で詩的、儚げな印象すらあります。
銀板に像が定着しているため、作品を覗き込むと自分の姿が映り込んでしまうのもポイント。

自分


被写体と向き合うと同時に、自分とも向き合うことになります。
こんなにも内省的になる鑑賞体験は初めてでした。


また、作品そのものも素敵だったのですが、展示方法も演出が凝っていて、実に素敵。

末木


鑑賞者がいないと、作品の上に設置されたライトはオフの状態なのですが。

オフ


鑑賞者が近づくと、センサーが反応して、ホワッとライトが点灯します。

オン


照明がつくことで、像もホワッと浮かび上がるのです。
ス・テ・キ。
情景が心に直接染み入るような感覚になりました。


日記のように何気ない日常を映した写真もありましたが。

日記
日記


新作を含めて、広島や長崎、3.11をテーマにした写真も多くありました。

原爆


決して風化させてはいけない情景だからこそ、
ダゲレオタイプ写真独特のやや風化したような風合いが、逆にマッチしていたような気がします。
星星
1本の良質のドキュメンタリー映画を見たような充足感がありました。
無料なので、是非! (無料じゃなくても、是非!)




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