Quantcast
Channel: アートテラー・とに~の【ここにしかない美術室】
Viewing all articles
Browse latest Browse all 5005

浮世絵師 溪斎英泉

$
0
0

“蕭白ショック!!” のショックから、ひと段落ついた千葉市美術館。
現在、開催中の美術展のタイトルは、
“浮世絵師 溪斎英泉” と、いたってシンプルです。

・・・でも (?) 。
ポスターは、攻めの姿勢。
かなりショッキングなカラーリングです。

アートテラー・とに~の【ここにしかない美術室】-浮世絵師 溪斎英泉


このポスターからは、ちょっと想像がつきませんが、こちらは浮世絵展。
千葉市美術館のコレクションを中心に、選りすぐりの溪斎英泉作品が紹介されています。

さてさて、浮世絵好きの方ならば、ご存じでしょうが、
浮世絵にそこまで興味がない方にとっては、耳馴染みがないであろう溪斎英泉。
まずは、簡単に、彼のことをご紹介いたしましょう。

溪斎英泉 (1791~1848) は、幕末期に活躍した浮世絵師で、
浮世絵における風景画というジャンルの確立に、大きな貢献をした絵師の一人として知られています。
が、何と言っても、溪斎英泉と云えば、美人画。

アートテラー・とに~の【ここにしかない美術室】-茶屋にまつやくそくの手


つり上がった目。
鼻筋が通った面長の顔。
そして、下あごを、チョンと突き出す仕草。
溪斎英泉は、それまでの正統派美人とは異なる婀娜っぽい美人像で、人気を博しました。
現在の女性芸能人に例えると、天海祐希風美人と云ったところでしょうか。

その独自の女性像から、退廃的と評される溪斎英泉ですが。
実際の彼自身も、正統派 (?) な人物ではなかったそうで、かなり自由奔放だったようです。
ある時、羽織姿に下駄履きという、ふらっとした格好で出かけたら、
何を思ったか、そのまま、舟に乗って木更津まで行ってしまったことがあったのだとか。
(例えるなら、近所のコンビニに行く格好で出かけて、そのまま海外に行っちゃったような感じです)
また、仕事を放棄することも、往々にしてあり、
手掛けていた浮世絵シリーズを、途中降板してしまうこともあったそうな。
そんな人物ながらも、自分で自分のことを、

『かかる放蕩無頼の人といへども 更に人 是を不悪 (にくめず)』

と、述べているから、始末に負えません (笑)


しかし、そんな人物でも、浮世絵師としての腕は、確か。
今回のポスターに使われている 《雲龍打掛の花魁》 は、

アートテラー・とに~の【ここにしかない美術室】-雲龍打掛の花魁


19世紀にフランスで発行された 『パリ・イリュストレ』 の表紙を飾っただけでなく、
ゴッホの代表作の一つである 《タンギー爺さんの肖像》 の右下にも、バッチリ描かれています。

アートテラー・とに~の【ここにしかない美術室】-タンギー爺さんの肖像
(注: 《タンギー爺さんの肖像》 は展示されていません)


実は、世界が認めた日本人浮世絵師。
現在の日本では知名度が低いですが、当時は、世界的な人物だったのですね。


さて、そんな溪斎英泉の作品が、
今回の浮世絵展には、《雲龍打掛の花魁》 を筆頭に、何と約350点も集結!
質・量ともに最高レベルを誇る、空前絶後の溪斎英泉展です。
あまりにもボリューミーで、メガ溪斎英泉展と言ったところ。
胸やけ必至です (笑)
星星
是非、皆様もお腹いっぱい溪斎英泉を堪能してみては?


約350点の全部を紹介していると、キリが無いにもほどがあるので。
厳選に厳選を重ねて、強く印象に残った作品をご紹介いたしましょう。

まずは、風景画というジャンルの基礎を築きながら、
「あれっ、意外と、風景画は上手くないよね (笑) ?」 な 《五十三 木曾街道 鵜沼ノ駅 従犬山遠望》

アートテラー・とに~の【ここにしかない美術室】-木曾街道 鵜沼ノ駅 犬山より遠望


絶対に、こんなスレンダーな城はないっ!!


続いて、 『~そう』 な女性たち12人を描いた 《今様美人十二景》 シリーズ。
例えば、こちらは、 『おてんばそう』 な女性といった具合。

アートテラー・とに~の【ここにしかない美術室】-今様美人拾二景 おてんばそう


で、僕が、思わずツッコんでしまったのが、そのシリーズのとある一枚。

アートテラー・とに~の【ここにしかない美術室】-今様美人拾二景 うれしそう


『うれしそう』 とのこと・・・・・・・いや、テンション低いっしょ!
感情がゼロっしょ!


他にも、様々なシリーズものがありましたが、
一番ドキドキしたのが、こちらの 《舟中の男女》 をはじめとする、 “あぶな絵” シリーズ。

アートテラー・とに~の【ここにしかない美術室】-舟中の男女


“あぶな絵” は、その名から、何となく想像が想像がついたでしょうが。
男女のあぶない一幕が描かれるシリーズです。
もう間もなくR-18指定なシーンに突入しますよ…と云ったヒヤヒヤ感に満ちています (笑)
《納涼の男女》 は、 《舟中の男女》 よりも、もうちょっと際どい。

アートテラー・とに~の【ここにしかない美術室】-納涼の男女


《炬燵の男女》 は、もはやギリギリアウトな感じでした。
よって、画像は自粛しますw


さらには、こんなシリーズも。

《契情道中双録 なるみ 見立よしはら五十三つゐ 丸海老屋内 江川》

アートテラー・とに~の【ここにしかない美術室】-丸海老屋内 江川


《契情道中双録 草津 見立よしはら五十三対 佐野松屋内 名々越》

アートテラー・とに~の【ここにしかない美術室】-佐野松屋内 名々越


《契情道中双録 府中 見立よしはら五十三対 尾張屋内 園浜》

アートテラー・とに~の【ここにしかない美術室】-尾張屋内 園浜


こちらは、吉原の人気の遊女たちを、
東海道五十三次の宿場に見立てたという、よくわからないシリーズです (笑)
今回の溪斎英泉では、シリーズ全作品が、奇跡の完全コンプリート。
たくさんの遊女たちが、一同に並んで展示している様は、圧巻も圧巻。
ただ、観賞している途中に、ハッと気づいてしまったことが。

「これって、今で言ったら、キャバ嬢の写真が並んでいる状態ではないのか?!」

真剣に観賞すればするほど、
どの娘を指名しようかと選んでるように見えて、滑稽です。


と、ここまで、おかしな作品ばかりを紹介してきましたが、
中には、もちろん純粋に、ステキだなぁと思う作品も。

溪斎英泉は、ベルリンから輸入された藍色、
通称 『ベロ藍』 を、浮世絵に積極的に導入した浮世絵師の一人。
今回の美術展では、そんな英泉のベロ藍作品特集もありました。
その中でも、特に、鮮やかな藍色に驚かされたのが、 《仮宅の遊女》 という作品。

アートテラー・とに~の【ここにしかない美術室】-仮宅の遊女


ベロ藍を積極的に導入した…というか、もはや、ベロ藍そのものです (笑)
ただ、この力強いまでの藍色には、魅了させられるものがありました。
ある程度、藍色に見慣れた現代の僕ですら、魅了されたのですから、
この色を、まだ知らなかった当時の江戸っ子たちのカルチャーショックは、相当なものだったのでしょう。


こちらの 《江戸の松名木尽 押上 妙見の松》 も必見。

アートテラー・とに~の【ここにしかない美術室】-江戸の松名木尽 押上 妙見の松


「浮世絵の美人画って、皆、同じ顔じゃん!」

とは、よく耳にする浮世絵あるある (←?)
溪斎英泉の描く美人画も、ほとんど同じ顔です。
美人は3日で飽きる、と言いますが、美人画は3枚で飽きます。
が、注目すべきは、その衣装。
溪斎英泉の描く衣装は、どれも奇抜で斬新で、バリエーションも様々。
その中でも、特に印象的だったのが、上で紹介した1枚。
何と、雪の結晶の柄になっています!
江戸時代で、雪の結晶とは、斬新も斬新。



最後は、 《新吉原年中行事 五月 端午 軒の菖蒲 若那屋内 花衣》 でお別れいたしましょう。
なかなか他の浮世絵ではお目にかかれないポージングに、ご注目。

アートテラー・とに~の【ここにしかない美術室】-五月端午 軒の菖蒲 若那屋内 花衣


何ともやる気ないですね (笑)
今も昔も、五月になると、五月病にかかる人が現れるようです。




美術ブログのランキングにご協力をお願いします。(ここは一つ、やる気を見せてください)
Blogランキングへ   にほんブログ村 美術ブログへ


Viewing all articles
Browse latest Browse all 5005

Trending Articles