“蕭白ショック!!” のショックから、ひと段落ついた千葉市美術館。
現在、開催中の美術展のタイトルは、
“浮世絵師 溪斎英泉” と、いたってシンプルです。
・・・でも (?) 。
ポスターは、攻めの姿勢。
かなりショッキングなカラーリングです。
このポスターからは、ちょっと想像がつきませんが、こちらは浮世絵展。
千葉市美術館のコレクションを中心に、選りすぐりの溪斎英泉作品が紹介されています。
さてさて、浮世絵好きの方ならば、ご存じでしょうが、
浮世絵にそこまで興味がない方にとっては、耳馴染みがないであろう溪斎英泉。
まずは、簡単に、彼のことをご紹介いたしましょう。
溪斎英泉 (1791~1848) は、幕末期に活躍した浮世絵師で、
浮世絵における風景画というジャンルの確立に、大きな貢献をした絵師の一人として知られています。
が、何と言っても、溪斎英泉と云えば、美人画。
つり上がった目。
鼻筋が通った面長の顔。
そして、下あごを、チョンと突き出す仕草。
溪斎英泉は、それまでの正統派美人とは異なる婀娜っぽい美人像で、人気を博しました。
現在の女性芸能人に例えると、天海祐希風美人と云ったところでしょうか。
その独自の女性像から、退廃的と評される溪斎英泉ですが。
実際の彼自身も、正統派 (?) な人物ではなかったそうで、かなり自由奔放だったようです。
ある時、羽織姿に下駄履きという、ふらっとした格好で出かけたら、
何を思ったか、そのまま、舟に乗って木更津まで行ってしまったことがあったのだとか。
(例えるなら、近所のコンビニに行く格好で出かけて、そのまま海外に行っちゃったような感じです)
また、仕事を放棄することも、往々にしてあり、
手掛けていた浮世絵シリーズを、途中降板してしまうこともあったそうな。
そんな人物ながらも、自分で自分のことを、
『かかる放蕩無頼の人といへども 更に人 是を不悪 (にくめず)』
と、述べているから、始末に負えません (笑)
しかし、そんな人物でも、浮世絵師としての腕は、確か。
今回のポスターに使われている 《雲龍打掛の花魁》 は、
19世紀にフランスで発行された 『パリ・イリュストレ』 の表紙を飾っただけでなく、
ゴッホの代表作の一つである 《タンギー爺さんの肖像》 の右下にも、バッチリ描かれています。
(注: 《タンギー爺さんの肖像》 は展示されていません)
実は、世界が認めた日本人浮世絵師。
現在の日本では知名度が低いですが、当時は、世界的な人物だったのですね。
さて、そんな溪斎英泉の作品が、
今回の浮世絵展には、《雲龍打掛の花魁》 を筆頭に、何と約350点も集結!
質・量ともに最高レベルを誇る、空前絶後の溪斎英泉展です。
あまりにもボリューミーで、メガ溪斎英泉展と言ったところ。
胸やけ必至です (笑)
是非、皆様もお腹いっぱい溪斎英泉を堪能してみては?
約350点の全部を紹介していると、キリが無いにもほどがあるので。
厳選に厳選を重ねて、強く印象に残った作品をご紹介いたしましょう。
まずは、風景画というジャンルの基礎を築きながら、
「あれっ、意外と、風景画は上手くないよね (笑) ?」 な 《五十三 木曾街道 鵜沼ノ駅 従犬山遠望》
絶対に、こんなスレンダーな城はないっ!!
続いて、 『~そう』 な女性たち12人を描いた 《今様美人十二景》 シリーズ。
例えば、こちらは、 『おてんばそう』 な女性といった具合。
で、僕が、思わずツッコんでしまったのが、そのシリーズのとある一枚。
『うれしそう』 とのこと・・・・・・・いや、テンション低いっしょ!
感情がゼロっしょ!
他にも、様々なシリーズものがありましたが、
一番ドキドキしたのが、こちらの 《舟中の男女》 をはじめとする、 “あぶな絵” シリーズ。
“あぶな絵” は、その名から、何となく想像が想像がついたでしょうが。
男女のあぶない一幕が描かれるシリーズです。
もう間もなくR-18指定なシーンに突入しますよ…と云ったヒヤヒヤ感に満ちています (笑)
《納涼の男女》 は、 《舟中の男女》 よりも、もうちょっと際どい。
《炬燵の男女》 は、もはやギリギリアウトな感じでした。
よって、画像は自粛しますw
さらには、こんなシリーズも。
《契情道中双録 なるみ 見立よしはら五十三つゐ 丸海老屋内 江川》
《契情道中双録 草津 見立よしはら五十三対 佐野松屋内 名々越》
《契情道中双録 府中 見立よしはら五十三対 尾張屋内 園浜》
こちらは、吉原の人気の遊女たちを、
東海道五十三次の宿場に見立てたという、よくわからないシリーズです (笑)
今回の溪斎英泉では、シリーズ全作品が、奇跡の完全コンプリート。
たくさんの遊女たちが、一同に並んで展示している様は、圧巻も圧巻。
ただ、観賞している途中に、ハッと気づいてしまったことが。
「これって、今で言ったら、キャバ嬢の写真が並んでいる状態ではないのか?!」
真剣に観賞すればするほど、
どの娘を指名しようかと選んでるように見えて、滑稽です。
と、ここまで、おかしな作品ばかりを紹介してきましたが、
中には、もちろん純粋に、ステキだなぁと思う作品も。
溪斎英泉は、ベルリンから輸入された藍色、
通称 『ベロ藍』 を、浮世絵に積極的に導入した浮世絵師の一人。
今回の美術展では、そんな英泉のベロ藍作品特集もありました。
その中でも、特に、鮮やかな藍色に驚かされたのが、 《仮宅の遊女》 という作品。
ベロ藍を積極的に導入した…というか、もはや、ベロ藍そのものです (笑)
ただ、この力強いまでの藍色には、魅了させられるものがありました。
ある程度、藍色に見慣れた現代の僕ですら、魅了されたのですから、
この色を、まだ知らなかった当時の江戸っ子たちのカルチャーショックは、相当なものだったのでしょう。
こちらの 《江戸の松名木尽 押上 妙見の松》 も必見。
「浮世絵の美人画って、皆、同じ顔じゃん!」
とは、よく耳にする浮世絵あるある (←?)
溪斎英泉の描く美人画も、ほとんど同じ顔です。
美人は3日で飽きる、と言いますが、美人画は3枚で飽きます。
が、注目すべきは、その衣装。
溪斎英泉の描く衣装は、どれも奇抜で斬新で、バリエーションも様々。
その中でも、特に印象的だったのが、上で紹介した1枚。
何と、雪の結晶の柄になっています!
江戸時代で、雪の結晶とは、斬新も斬新。
最後は、 《新吉原年中行事 五月 端午 軒の菖蒲 若那屋内 花衣》 でお別れいたしましょう。
なかなか他の浮世絵ではお目にかかれないポージングに、ご注目。
何ともやる気ないですね (笑)
今も昔も、五月になると、五月病にかかる人が現れるようです。
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浮世絵師 溪斎英泉
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