教科書や切手でお馴染みの 《鮭》 や、
重要文化財の 《花魁》 をはじめ、
“近代洋画の父” 高橋由一の代表作が一堂に会する美術展が、
東京藝術大学大学美術館にて、開催されています。
6月24日まで。
・・・・・・ただ。
《鮭》 も、 《花魁》 も、
これまでに、何度も目にしたことがあるんですよねぇ ( ̄∇ ̄+)
そして、きっと、これからも、目にする機会はあると思うんですよねぇ( ̄∇ ̄+)
そんな理由から、行こうかどうか、相当に悩んでいたのですが。
ポスターに散りばめられた遊び心に、ほだされて (?) 、足を運んでみました。
(『画』 という漢字に、『由一』 の文字が!)
そんなわけで、気持ち半分で訪れた美術展だったのですが、
美術展を観終わっての率直な感想は、ただ一言。
「来て良かった!!」
見逃していたら、一生後悔していたと思います。
日本の美術ファンとして、見逃してはならない美術展だと思います。
入場して、エレベーターで3階に上がって観賞して、
その後、エレベーターで地下1階に降りて観賞して、
帰りは、またエレベーターで2階に上がって出口を通って、階段で1階に降りる。
その不可思議で面倒な導線にさえ目をつむれば、完璧な美術展だったと思います (笑)
3つ星。
あと、もう一つだけ付け加えるならば、
結構リアルな 《鮭》 のフィギュアストラップ (650円) に、
鮭ではなくリンゴ味の飴が入った鮭缶キャンディ (500円) をはじめ、
《鮭》 推しにもほどがあるグッズ展開にも、目をつむります (笑)
(高橋由一作品で総選挙をやったら、ぶっちぎりで、 《鮭》 がセンターを取るのでしょうwww)
ではでは、具体的に、美術展のどこに、感激したのか。
そのポイントをご紹介してまいりましょう。
まず、一つは、これまでに観たことのない高橋由一作品に、数多く出合えたこと。
絵画のジャンルの幅広さに、ただただ驚かされました。
由一を名乗る以前の墨絵作品も、新鮮でしたが。
他には、幽霊画 (《幽冥無実之図》) を描いていたり、
岩倉具視や大久保利通などの明治の著名人の肖像を描いていたり、
ターナーやフリードリヒを彷彿とさせるロマン派のような風景画を描いていたり、
その一方で、重厚感溢れる静物画を描いていたり。
改めて、並べて観てみても、
とても一人の人物の手によるものとは思えません。
さて、由一が、これほどまでに、
いろいろなジャンルにチャレンジしたのは、大きな理由があります。
飽きっぽい性格で、長続きしなかったから・・・ではありません。
それは、日本に洋画を根付かせることが、自分の使命であると強く思っていたため。
そのため、洋画の画法で、これまでの日本画の全ジャンルにチャレンジしたのです。
さらに、由一の洋画普及大作戦は、これだけにとどまりません!
画塾を開いたり、毎月休まず展覧会を催したり、日本初の美術雑誌を刊行したり、
グッゲンハイム美術館のような美術館建設を構想したり (残念ながら実現はせず) 。
まさに全人生を投げ打って、洋画の普及活動に徹した由一。
アートテラーとして、その生きざまには、非常に心打たれるものがありました。
しかし、そんな由一の奮闘もむなしく、
由一の後半生には、国粋主義が高まり、洋画に逆風が吹き荒れます。
それでも、めげない由一は、
“洋画家に今できること” を考え、そして、東北に活路を見出しました。
東北地方全般にわたる大規模な道路開拓工事の計画を知った由一は、
この全記録を絵として残すべきだと、県令である三島通庸に進言し、その大役を務めるのです。
それが、こちらの 《三島県令道路改修記念画帖》
美術展のラストでは、この 《三島県令道路改修記念画帖》 が、
総計128図のうちの大半が、ドーンとまとめて紹介されていました。
正直なところ、同じような絵が並ぶので、退屈なのですが (笑)
あえて、退屈を承知で、この絵をラストに展示していることに、
今回の高橋由一展の本気ぶりを感じました。
本気ぶりを感じたと云えば、 《鮭》 の展示に関しても。
ただの壁ではなく、柱をイメージしたセットに展示されていたのです!
描かれているモチーフが、新巻鮭ということもあり、
“柱に掛けて観賞するスタイルだったのでは?” とされる、この 《鮭》 の絵。
だからと言って、これまで、本当に柱に掛けてある美術展はありませんでした。
しかし、今回は、それを検証するために (?) 、特製のセットを作ってしまうという凝りよう。
で、実際に、観てみた感想としては、確かに、柱に掛けた方が、より映える気がしました。
これまでに何度も、この絵自体は、観ていましたが、
今回の演出のおかげで、より感動的に、より新鮮に観賞することが出来ました。
また、今回の高橋由一展では、この 《鮭》 の両脇に、
山形美術館の 《鮭》 と、
笠間日動美術館の 《鮭図》 が、
並べて、展示されていました。
3つの鮭の絵が並ぶのは、本邦初とのことです。
3つの鮭の絵が並んだ姿は、何故か、神々しくもあり、
釈迦如来と、その脇侍の文殊菩薩と普賢菩薩かのようにも思えてきました。
これは、すなわち、釈迦三尊像ならぬシャケ三尊像・・・お後が宜しいようで (笑)
<巡回情報>
京都国立美術館 9月7日(金)~10月21日(日)
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近代洋画の開拓者 高橋由一展
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