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Channel: アートテラー・とに~の【ここにしかない美術室】
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Book:24 『暗幕のゲルニカ』

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暗幕


■暗幕のゲルニカ

 作者:原田マハ
 出版社:新潮社
 発売日:2016/3/28
 ページ数:357ページ

反戦のシンボルにして20世紀を代表する絵画、ピカソの “ゲルニカ”。
国連本部のロビーに飾られていたこの名画のタペストリーが、2003年のある日、忽然と姿を消した…。
大戦前夜のパリと現代のNY、スペインが交錯する、華麗でスリリングな美術小説。
(「BOOK」データベースより)

「個人的には、原田マハさんの代表作 『楽園のカンヴァス』 よりも面白かったです。
《ゲルニカ》 を巡る物語にグイグイ引きこまれました。

小説の構成は、『楽園のカンヴァス』 と同じ。
20世紀パートと21世紀パート。
それぞれのパートが交互に描かれながら、物語が進んでいきます。

20世紀パートのほうの主役は、ピカソではなく、
シュルレアリスムの写真家にして、ピカソの愛人であったドラ・マール。
《ゲルニカ》 の制作過程を写真に収めた人物です。

同じ芸術家でもあり、恋人でもあり。
そんなドラ・マールの複雑な立場から描かれたピカソ像が、この小説に深みを与えていました。
もし、ただの愛人 (?) のマリー・テレーズが主役だったら、もっとポップな小説だったかも。

ちなみに、ドラ・マールは 《泣く女》 のモデルとしても知られています。
勝ち気でサバサバしたタイプの女性なのに、「なぜ泣いてるの?」 と常々疑問だったのですが。
この小説を読むと、いろいろと納得。
確かに、《泣く女》 ですね。


一方、21世紀パートの主役は、
9.11のテロ事件で愛する夫を亡くしてしまったMoMAのキュレーター・八神瑤子。
21世紀パートの核となるのは、彼女が企画した 「ピカソの戦争」 という展覧会です。
その目玉として、何としても 《ゲルニカ》 をMoMAに呼びたい彼女。
しかし、《ゲルニカ》 は貸出不可、
というか所蔵しているソフィア王妃芸術センターから動かすことすら不可の作品です。
果たして、《ゲルニカ》 はMoMAにやってくるのか?!

いやぁ、フィクションとは分かっているけど、ハラハラドキドキしました。
でも、たぶん、このくだりでハラハラドキドキしたのは、アートテラーだから。
美術に関心がない人には、貸出うんぬんは、そこまで興味を惹かれない話かもしれません (笑)

さてさて、21世紀パートは基本的にフィクション。
個人的には、《ゲルニカ》 の貸し借りのくだりは、そういうものだと割り切って楽しみましたが。
物語の佳境で、八神瑤子を襲った最大のピンチに関しては、
さすがに、「映画かよ!それも、B級映画かよ!」 とツッコみたくなりました。
あぁ、あのくだりさえ無かったら。。。

いや、もう一つ無くてもよかったのが、八神瑤子のセレブっぷり。
スペインとアメリカを何往復も飛び回るわ。
夫からは、結婚指輪の代わりにとピカソの鳩の絵を貰うわ。
スペインの大富豪から謎の招待を受けるわ。リッツカールトンのスイートに泊まるわ。

効率的な仕事ぶり。充実した私生活。キャリアウーマンか (笑)!

なんというか、全く共感できる気がしない主人公でした。

ちなみに。
21世紀パートの中で、イラク空爆の前夜、アメリカ国務長官が国連で記者会見を行った際、
普段掲げられている 《ゲルニカ》 のタペストリーが暗幕で隠されていたというエピソードが登場します。
これもフィクションなのかと思ったら、どうやらこれは実際にあった出来事とのこと。
知りませんでした。

実はこのエピソードが、この小説の重要なカギとなっています。
この実際にあったエピソードを、物語にこう絡めてきましたか。
原田マハさんのストリーテラーぶりが、いかんなく発揮されていました。
スター スター スター スター ほし(星4つ)」


~小説に登場する名画~

《ゲルニカ》

ゲルニカ

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