現在、三菱一号館美術館では、“レオナルド×ミケランジェロ展” が開催されています。
こちらは、ルネサンスの2大巨匠レオナルド・ダ・ヴィンチと、
ミケランジェロ・ブオナローティの素描を対比する日本初の展覧会です。
そう聞いて、
「なぁんだ、素描か・・・」
と思った方も少なくないはず。
素描の 「素」 は、素うどんの 「素」。
素っ気なくて、質素で、簡素なイメージを抱いていることでしょう。
しかし、特にルネサンス期には、
「〈自然〉を母として、〈素描〉を父とすると、
〈建築〉 〈彫刻〉 〈絵画〉の3姉妹がいる」
という関係が強調されており、素描はとても重要視されていました。
素描は、決して単なる下書きなのではありません。
素描とは、画家の思想や技量が最もダイレクトに素直に表れたもの。
素描の 「素」 は、素敵の 「素」、
素描の 「素」 は、素晴らしいの 「素」 なのです。
例えば、今回初来日を果たしたレオナルドの 《少女の頭部/<岩窟の聖母>の天使のための習作》 。
レオナルド・ダ・ヴィンチ 《少女の頭部/<岩窟の聖母>の天使のための習作》 1483-85年頃 トリノ王立図書館 ©Torino, Biblioteca Reale
こちらは、「最も美しい」 と称される素描です。
陰影をつけるために、細い線がシャッシャッと何本も引かれているのがわかります。
よく見ると、それらは左上から右下に引かれていますね。
これは、レオナルドが左利きだったゆえ。
ちなみに、左眼のまぶたや、両ほほ、ほうれい線、口元など、あちこちに白い部分が見て取れます。
これらは、鉛白でハイライトを表現したもの。
素描は、決して、雑に描かれたものではないのです。
続いては、ミケランジェロのもっとも知られた素描の一つ 《〈レダと白鳥〉の頭部のための習作》 。
ミケランジェロ・ブオナローティ 《<レダと白鳥>の頭部のための習作》 1530年頃 カーサ・ブオナローティ
©Associazione Culturale Metamorfosi and Fondazione Casa Buonarroti
ミケランジェロは、レオナルドとは違い、
交差するように線を何本も引くことで、立体感を表現しています。
モデルと考えられているのは、ミケランジェロの弟子。
男性です。
しかし、描きたいのは、レダ。女性です。
なので、左下には、まつげが長くなったver.が描かれています。
ミケランジェロの描いたレダの絵のモデルは、本当は男だった?!
素描からは、そんなことまでわかるのです。
ちなみに、さらに左下には、縮れ毛みたいなのが、2本ほど描かれています。
もしかしたら、試し書き?
素描からは、いろんなことがわかるのです。
さてさて、今回出展されていた数々の素描の中で、
個人的にお気に入りなのは、やはりレオナルドの 《大鎌を装備した戦車の二つの案》 でしょうか。
レオナルド・ダ・ヴィンチ 《大鎌を装備した戦車の二つの案》 1485年頃 トリノ王立図書館 ©Torino, Biblioteca Reale
こちらは、レオナルドが考案した戦闘用の馬車。
大鎌が取り付けられており、敵をバラバラに切り刻んで、
恐怖のどん底に叩きつけるという、なんとも恐ろしい兵器です。
(バラバラになった敵兵も描かれています)
ただ、実用性は相当なかったようで、
レオナルド自身も、嘲笑の対象になるかもしれないと述べています。
まぁ、確かに。
馬の目の前を、鎌がグルングルン周っているわけで。
本能的に馬が走らない気がしてならないです。
また、お気に入りと言えば、 《レダと白鳥》 も。
レオナルド本人のものは現存していないですが、
9点確認されているうちの模写の1点が特別に出展されていました。
レオナルド・ダ・ヴィンチに基づく 《レダと白鳥》 1505-10年頃 ウフィツィ美術館
©Firenze, Gallerie degli Uffizi, Gabinetto fotografico delle Gallerie degli Uffizi
想像していたよりも、白鳥が白鳥でなかったです。
むしろ、ブラックスワン。
レダに言い寄っているというよりも、
「保険なんて必要ない」 と迫っているように見えました。
ちなみに、ミケランジェロといえば、やはり彫刻。
素描もいいけど、彫刻も観たくなるのが人情です。
ご安心ください。
今回の展覧会には、ちゃんとミケランジェロの彫刻作品も展示されています。
ミケランジェロ・ブオナローティ 《河神》 1525年頃 カーサ・ブオナローティ
©Associazione Culturale Metamorfosi and Fondazione Casa Buonarroti
しかも!
ミケランジェロの未完作品で、17世紀の彫刻家の手で完成した2m越えの大作、
《十字架を持つキリスト(ジュスティニアーニのキリスト)》 が、7月11日より展示されるそうです!
もちろん日本初公開。
「じゃあ、7月11日以降に行くわ。」
となるでしょうが、心配いりません。
7月10日までに訪れた方には、もれなく彫刻鑑賞券が配られます。
素描をじっくり楽しむなら、逆に、今が狙い目です。
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レオナルド×ミケランジェロ展
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