■墨龍賦
作者:葉室麟
出版社:PHP研究所
発売日:2017/1/25
ページ数:284ページ
武士の家に生まれながらも寺に入れられ、
絵師になった友松だが、若き明智光秀の側近・斎藤内蔵助利三と出会い、友情を育んでいく。
そんな折、近江浅井家が織田信長に滅ぼされ、浅井家家臣の海北家も滅亡する。
そして本能寺の変――。
友松は、海北家再興を願いつつ、命を落とした友・内蔵助のために何ができるか、思い悩む。
迷いながらも自分が生きる道を模索し続け、晩年に答えを見出し、
建仁寺の「雲龍図」をはじめ、次々と名作を生み出していった海北友松。
狩野永徳、長谷川等伯に続き、桃山時代最後の巨匠となった男の起伏に富んだ人生を描く歴史長編。
(PHP研究所ホームページより)
「役所広司が主演した映画 『蜩ノ記』 の原作者と知られる葉室麟が、
記念すべき50作目の小説の主人公に選んだのは、戦国の時代を生きた絵師の海北友松。
なんでも、デビュー前から描きたかったとのこと。
一般的には知名度の低い絵師ですが、
この春、京都国立博物館で開催された大回顧展のおかげで、美術ファンの間では人気が急上昇。
『2017年上半期ブレイク絵師ランキング』 の1位は、海北友松で間違いないでしょう。
(そんなランキングがあれば)
ちなみに、僕も京博の大回顧展で、海北友松のファンになったうちの一人。
それゆえ、期待に胸を膨らませながら、この本を読み始めました。
海北友松って、どんな人物なのだろうか?
海北友松って、どんな画家人生を送ったのだろうか?
・・・・・その2時間後。
読み終えた僕は、静かに本を閉じました。
そして、心の中で、こう呟きました。
“いや、これじゃないよ・・・”
僕が読みたかったのは。
海北友松の生涯を描いた小説というよりは、
海北友松の視点を通して、本能寺の変の真相を描いた小説です。
主人公は、完全に本能寺の変でした。
もし、海北友松本人が、この小説を読んだなら、
「えっ、この本って俺の話じゃないの?」
と驚くはず。
本能寺の変よりも、衝撃的な裏切りです。
本能寺の変が描かれているということは、当然、織田信長や明智光秀が登場します。
また、実際に交流があったそうですが、
明智光秀の家臣である斎藤利三や、毛利氏に仕えた外交僧・安国寺恵瓊も登場。
さらには、豊臣秀吉や山中鹿之助、長宗我部元親、春日局、宮本武蔵など、
戦国時代の偉人たちが、オールスター感謝祭のような豪華さで次々と登場します。
ただ、それらの人物の登場シーンに、さほど必然性は感じられず。
“実はさぁ、こんなに有名人に知り合いがいるんだよね” と、
ただ言いたいだけのような感じがして、偉人が登場するたびに冷めていきました。
もちろん、戦国時代に最も幅を利かせていた狩野元信や狩野永徳も登場し、
《洛中洛外図》 や安土城の障壁画に関するエピソードも描かれてはいましたが。
絵師としてのエピソードは、3割弱程度。
サイドストーリーと化していました。
改めて考えると、そもそも主人公が海北友松である必然性すらないような気もしてきました。
たぶん、無名の (架空の) 絵師が主人公でも、成立したのでは?
武士でもない絵師でもない “どっちつかず” な立場というのが、物語のキーとなっていましたが。
小説自体も、武士の世界を描き切ったわけでも、
絵師の世界を描き切ったわけでもない、“どっちつかず” なものになっていました。
(星2つ)」
~小説に登場する名画~
《浜松図屏風》