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Channel: アートテラー・とに~の【ここにしかない美術室】
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ギュスターヴ・モロー展 ― サロメと宿命の女たち ―

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今年4月1日。
パナソニック 汐留ミュージアムの名称が、
パナソニック汐留美術館へと変更になりました。
そんな新たなスタートを切ったパナソニック汐留美術館で、
現在開催されているのが、"ギュスターヴ・モロー展 ― サロメと宿命の女たち ―" という展覧会。


(注:館内の写真撮影は、特別に許可を得ております)


パナソニック汐留美術館と最も関わりの深い画家ジョルジュ・ルオー、
その最愛の師であり、象徴主義を代表する巨匠ギュスターヴ・モローにスポットを当てた展覧会です。
今展に出展されているのは、すべてパリのギュスターヴ・モロー美術館の所蔵品。
まとまった形で来日するのは、実に14年ぶりとのことです。
(ちなみに、ギュスターヴ・モロー美術館は、世界初の個人美術館。初代館長を務めたのは、ジョルジュ・ルオー)
展覧会のテーマは、ずばり 「モローが描いた女性」。
冒頭に飾れている 《24歳の自画像》 以外は、すべて女性にまつわる作品です。


《24歳の自画像》 1850年 ギュスターヴ・モロー美術館蔵
Photo©RMN-Grand Palais / René-Gabriel Ojéda / distributed by AMF



一口に女性と言っても、そのタイプはさまざま。
母や恋人といった身近な女性もいれば、
神話や聖書に登場する女性や、歴史に名を残す女性も登場します。
「あなたはどの女性がタイプ?」
恋愛シミュレーションゲームを彷彿とさせるものがありますが、
気を付けなければならないのは (?)、登場する女性の多くが、ファム・ファタルだということ。
ファム・ファタルとは、男性を破滅へと導く宿命の女。
タイプとして選んでしまった場合、とんでもない未来が待ち受けていることでしょう。

展覧会場には、そんなファム・ファタルが大集結したコーナーも。




右を見ても、悪女。
左を見ても、悪女。
全員悪女。
まるで、『アウトレイジ』 のような展示空間です。

ちなみに。
その中で特に恐怖を感じた悪女 (悪魔?) は、セイレーン。


《セイレーン》 ギュスターヴ・モロー美術館蔵
Photo©RMN-Grand Palais / Philipp Bernard / distributed by AMF



美しい歌声で船乗りを引き寄せ、
その命を奪うギリシャ神話に登場する海の魔物です。
見た目は美しいですが、よく見れば、下半身はウミヘビのような姿をしています。
さらに、よく見れば、その尾っぽに男性が巻き付けられているではないですか!
おそらく、こと切れています。
何が怖いって、巻き付けている当の本人が、夕陽を見て黄昏ていること。
どういう心情だよ。

それ以上に恐怖を感じたのが、画面右の 《死せるオルフェウス》 という一枚。




この絵には直接、女性は描かれていません。
描かれているのは、ギリシャ神話に登場する竪琴の名手オルフェウス。
その首なし死体です。
犯人は、バッコスの巫女たち。
殺害動機は、オルフェウスを誘惑するも、
妻を亡くし、女性嫌いとなった彼が見向きもしなかったから、という身勝手なもの。
殺される時、きっとオルフェウスは思ったことでしょう。
だから、「女性が嫌いなんだ!」 と。


ところで、あまたの悪女の中で、
特にモローがお気に入りだったのが、サロメという女性。
展覧会には、サロメを特集したコーナーがあり、
下絵や習作も併せて、約30点のサロメをモチーフとした絵が紹介されていました。




サロメは、新約聖書に登場する人物。
ヘロデ王の後妻となったサロメの母親は、
再婚に異を唱えた洗礼者ヨハネに対し、処刑の機会を狙っていました。
そんなある日、ヘロデ王は後妻の連れ子であるサロメに、宴席で舞を披露するよう要求します。
そのご褒美に、何でも好きなものを与えると約束。
それを聞いた母親は、「ヨハネの首が欲しいと言え」 と、サロメをそそのかしました。
その結果、哀れ、洗礼者ヨハネは斬首されてしまうのです。
サロメよりも、間違いなく、母親のほうが悪女。
いわゆる毒親です。

今回の展覧会の目玉作品の一つで、
モローの代表作の一つでもある 《出現》 も、そんなサロメをモチーフにした一枚。


《出現》  1876年頃 ギュスターヴ・ モロ一美術館蔵
©️RMN-Grand Palais / René-Gabriel Ojéda / distributed by AMF
 


三代目 J Soul Brothersの “R.Y.U.S.E.I.” ばりに、
もしくは、「犯人はお前だ!」 とセリフを放つ名探偵コナンばりに、ポーズを決めるサロメ。
その指先に浮かぶのは、ヨハネの首です。
なんとも恨めしそうな顔をしています。
「お前のせいで・・・」 と、サロメの前に出現したのでしょうが、
サロメは怖がるどころか、むしろ敵意剥き出しの表情を浮かべています。
完全なる逆ギレ。


さてさて、ここまでで紹介した悪女は、ほんの一部です。
会場では、他にもたくさんのモローが描いた魅惑的な女性と出逢えます。




男女限らず、あなたにとってのファム・ファタル、宿命の女がいるかも。
出会いの春にオススメの展覧会です。
星星


最後に、ある意味で印象的だった1枚をご紹介。
それは、エウロペを描いた作品です。
エウロペとは、とある国の王女。
その美しさに一目惚れしたゼウスは、白い牡牛に変身し、エウロペに近づきます。
エウロペが何気なく牛の背にまたがると、白い牛 (実はゼウス) は暴走開始。
海を渡り、はるか遠くのクレタ島まで彼女を連れ去っていったのです。
かくして、エウロペが海を渡ったその広大な地域は、
彼女の名前にちなんで、ヨーロッパと呼ばれるようになったのだとか。
・・・・・と、そんなエウロペのエピソードを描いた絵画は、美術史上に数多くありますが。


《エウロペの誘拐》 1868年 ギュスターヴ・モロー美術館蔵
Photo©RMN-Grand Palais / René-Gabriel Ojéda / distributed by AMF



モローの描いた牛は、なぜか、顔だけゼウス。
観れば観るほど、不気味です。
エウロペも、若干引き気味。
シレーッとした目で見てやんの。




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