現在、ミュゼ浜口陽三・ヤマサコレクションでは、
冬の企画展として、“凹凸に降る” という展覧会が開催されています。
(注:館内の写真撮影は、特別に許可を得ております。)
こちらは、『凸凹 (おうとつ)』 をキーワードに、
浜口陽三のメゾチント作品と、現代作家の作品を合わせて紹介する展覧会です。
参加している現代作家は、全部で3名。
まず1人目は、国内外に活躍の場を広げる彫刻家の中谷ミチコさん。
中谷さんといえば、こちらのような壁に掛けるレリーフ作品でお馴染みです。
一見すると、普通のレリーフ作品のようですが、
近づいて見てみると、少し・・・いや、かなり不思議なことに気づかされます。
レリーフなので、立体は立体なのですが、
浮かび上がっているのではなく、沈み下がっている (?) のです。
中谷さんが手がけるレリーフ作品の制作方法は、実に独創的。
まずはじめに粘土で半立体像を作ります。
そして、それを石膏で型取りします。
ブロンズ彫刻の場合、その完成した石膏型にブロンズを流し込むわけですが。
(当然、最終的には、石膏型は無くなります)
中谷さんのレリーフ作品は、石膏型に透明、もしくは着色した樹脂を流し込みます。
そして、表面をフラットに仕上げて、作品は完成。
凸だった粘土製の半立体像が、凹のレリーフ作品に。
唯一無二の作風です。
樹脂で固められた彼女の作品を鑑賞していると、
まるで水面を覗き込んでいるかのような錯覚に陥ります。
もし、フッと息をしたなら、波紋が立ってしまうのでは?
作品からは、そんな繊細な印象を受けます。
今展では、そんな中谷さんの新作だけでなく、浜口陽三作品とのコラボや、
近年手がけているボックス型の作品も楽しむことができました。
さてさて、2人目の参加作家は、滝澤徹也さん。
美術家でもあり和紙職人でもある異色の人物です。
その作風は実に多岐にわたっていました。
例えば、《蜘蛛の巣-ジョウログモ-》 という作品。
こちらは、和紙を作る過程で出た灰汁を使ったインクを、
本物の蜘蛛の巣に塗り、それを自作の和紙で写し取ったという作品です。
まさか、虫を捕らえるつもりが、
巣ごとごっそり滝澤なる人間に取られてしまうとは。
この巣を作ったジョロウグモは、想像だにしていなかったことでしょう。
また例えば、こんな作品も。
ノーヒントでは、何が何だかよくわからないでしょうが。
左側に飾られているのは、それぞれ滝沢さんがガンジス川に入って制作した作品です。
上は、ガンジス川に和紙を入れ、その流れを写し取ろうとしたもの。
下は、ガンジス川の水で制作した和紙なのだそうです。
なお、右側に飾られている3点の作品は、フィヨルドで制作されたのだそう。
海岸で見つけた廃油のようなものを岸壁に塗りつけ、
その岩肌を和紙でガシガシと写し取ったものなのだとか。
どの作品も、制作スタイルがワイルド。
『クレイジージャーニー』 が終わってなかったら、いつか番組で取り上げられていたことでしょう。
そんな滝沢さんのワイルドな作風にも心を打たれましたが、同じくらいに、
ガンジス川やフィヨルドの大自然にも負けない和紙の強さにも心を打たれました。
3人目の参加作家は、小野耕石さん。
2015年にVOCA賞を受賞し、ここ近年は個展も数多く開催。
まさに、人気・実力ともにトップクラスの現代アーティストです。
小野さんといえば、手描きでドットの版を作り、
それをシルクスクリーンで数十~百回と摺り重ねる作品で知られています。
しかし、今展の主役は、そのスタイルの作品ではありません。
1階の展示室の中央に飾られていたのは、今から約15年前、
小野さんがミュゼ浜口陽三・ヤマサコレクションで美術館デビューを果たした際の作品。
その名も、《この本が知的要素のみで成り立った今それは美と芸の学術として成立しただ純粋に絵を描くことを失ったものである。》 です。
(↑B'zの 『愛のままにわがままに 僕は君だけを傷つけない』 よりも長い!)
フィルムにまずインクを塗り、乾いたらペリペリと剥がします。
(海苔の作り方に近いものがあるような)
その作業をひたすら繰り返し、何百、何千ものインクを重ねたのが、こちらの作品です。
形は広辞苑をモチーフにしているとのこと。
当然、実際の広辞苑は紙とインクで出来ています。
しかし、こちらの 《この本が~》 は、すべてがインク。
インクの塊です。
つまり、広辞苑における知識の部分100%というわけなのです。
さて、《この本が~》 が発表されてから約15年、
地下1階の展示室では、小野さんによる最新作がお披露目されていました。
その名も、《絵を描く事を失ってなお表現が固定観念からの通過を語るかぎり
版と支持体からの自立を経ても重力からの恩恵と制限から解放されることはない》 です。
版を重ねること、なんと7206枚!
重さは、約80キロ!
完成までに2年かかったという超大作です。
《絵を描く事を~》 も、《この本が~》 と同じく本をモチーフにしているそうですが。
形は、より抽象的になっていました。
そして、黒一色だった 《この本が~》 と違い、色の層が重ねられているのも特徴的です。
物体としては、インクの塊でしかないのですが。
まるでモノリスのような、偉い人の墓石のような、
もしくは、とても大切なことが刻み込まれた石碑のような、絶対的な存在感がありました。
今やアメリカでは売り上げの3分の1近くを電子書籍が占めているのだそう。
そう遠くない未来、インクで刷るという行為は無くなってしまうかもしれません。
そんな現状に対し、《絵を描く事を~》 は、「インク舐めんな!」 と主張しているかのようでした。
《絵を描く事を~》 は、まず間違いなく現時点での小野さんの最高傑作です。
観るべし!
1位を目指して、ランキングに挑戦中。
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冬の企画展として、“凹凸に降る” という展覧会が開催されています。
(注:館内の写真撮影は、特別に許可を得ております。)
こちらは、『凸凹 (おうとつ)』 をキーワードに、
浜口陽三のメゾチント作品と、現代作家の作品を合わせて紹介する展覧会です。
参加している現代作家は、全部で3名。
まず1人目は、国内外に活躍の場を広げる彫刻家の中谷ミチコさん。
中谷さんといえば、こちらのような壁に掛けるレリーフ作品でお馴染みです。
一見すると、普通のレリーフ作品のようですが、
近づいて見てみると、少し・・・いや、かなり不思議なことに気づかされます。
レリーフなので、立体は立体なのですが、
浮かび上がっているのではなく、沈み下がっている (?) のです。
中谷さんが手がけるレリーフ作品の制作方法は、実に独創的。
まずはじめに粘土で半立体像を作ります。
そして、それを石膏で型取りします。
ブロンズ彫刻の場合、その完成した石膏型にブロンズを流し込むわけですが。
(当然、最終的には、石膏型は無くなります)
中谷さんのレリーフ作品は、石膏型に透明、もしくは着色した樹脂を流し込みます。
そして、表面をフラットに仕上げて、作品は完成。
凸だった粘土製の半立体像が、凹のレリーフ作品に。
唯一無二の作風です。
樹脂で固められた彼女の作品を鑑賞していると、
まるで水面を覗き込んでいるかのような錯覚に陥ります。
もし、フッと息をしたなら、波紋が立ってしまうのでは?
作品からは、そんな繊細な印象を受けます。
今展では、そんな中谷さんの新作だけでなく、浜口陽三作品とのコラボや、
近年手がけているボックス型の作品も楽しむことができました。
さてさて、2人目の参加作家は、滝澤徹也さん。
美術家でもあり和紙職人でもある異色の人物です。
その作風は実に多岐にわたっていました。
例えば、《蜘蛛の巣-ジョウログモ-》 という作品。
こちらは、和紙を作る過程で出た灰汁を使ったインクを、
本物の蜘蛛の巣に塗り、それを自作の和紙で写し取ったという作品です。
まさか、虫を捕らえるつもりが、
巣ごとごっそり滝澤なる人間に取られてしまうとは。
この巣を作ったジョロウグモは、想像だにしていなかったことでしょう。
また例えば、こんな作品も。
ノーヒントでは、何が何だかよくわからないでしょうが。
左側に飾られているのは、それぞれ滝沢さんがガンジス川に入って制作した作品です。
上は、ガンジス川に和紙を入れ、その流れを写し取ろうとしたもの。
下は、ガンジス川の水で制作した和紙なのだそうです。
なお、右側に飾られている3点の作品は、フィヨルドで制作されたのだそう。
海岸で見つけた廃油のようなものを岸壁に塗りつけ、
その岩肌を和紙でガシガシと写し取ったものなのだとか。
どの作品も、制作スタイルがワイルド。
『クレイジージャーニー』 が終わってなかったら、いつか番組で取り上げられていたことでしょう。
そんな滝沢さんのワイルドな作風にも心を打たれましたが、同じくらいに、
ガンジス川やフィヨルドの大自然にも負けない和紙の強さにも心を打たれました。
3人目の参加作家は、小野耕石さん。
2015年にVOCA賞を受賞し、ここ近年は個展も数多く開催。
まさに、人気・実力ともにトップクラスの現代アーティストです。
小野さんといえば、手描きでドットの版を作り、
それをシルクスクリーンで数十~百回と摺り重ねる作品で知られています。
しかし、今展の主役は、そのスタイルの作品ではありません。
1階の展示室の中央に飾られていたのは、今から約15年前、
小野さんがミュゼ浜口陽三・ヤマサコレクションで美術館デビューを果たした際の作品。
その名も、《この本が知的要素のみで成り立った今それは美と芸の学術として成立しただ純粋に絵を描くことを失ったものである。》 です。
(↑B'zの 『愛のままにわがままに 僕は君だけを傷つけない』 よりも長い!)
フィルムにまずインクを塗り、乾いたらペリペリと剥がします。
(海苔の作り方に近いものがあるような)
その作業をひたすら繰り返し、何百、何千ものインクを重ねたのが、こちらの作品です。
形は広辞苑をモチーフにしているとのこと。
当然、実際の広辞苑は紙とインクで出来ています。
しかし、こちらの 《この本が~》 は、すべてがインク。
インクの塊です。
つまり、広辞苑における知識の部分100%というわけなのです。
さて、《この本が~》 が発表されてから約15年、
地下1階の展示室では、小野さんによる最新作がお披露目されていました。
その名も、《絵を描く事を失ってなお表現が固定観念からの通過を語るかぎり
版と支持体からの自立を経ても重力からの恩恵と制限から解放されることはない》 です。
版を重ねること、なんと7206枚!
重さは、約80キロ!
完成までに2年かかったという超大作です。
《絵を描く事を~》 も、《この本が~》 と同じく本をモチーフにしているそうですが。
形は、より抽象的になっていました。
そして、黒一色だった 《この本が~》 と違い、色の層が重ねられているのも特徴的です。
物体としては、インクの塊でしかないのですが。
まるでモノリスのような、偉い人の墓石のような、
もしくは、とても大切なことが刻み込まれた石碑のような、絶対的な存在感がありました。
今やアメリカでは売り上げの3分の1近くを電子書籍が占めているのだそう。
そう遠くない未来、インクで刷るという行為は無くなってしまうかもしれません。
そんな現状に対し、《絵を描く事を~》 は、「インク舐めんな!」 と主張しているかのようでした。
《絵を描く事を~》 は、まず間違いなく現時点での小野さんの最高傑作です。
観るべし!
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