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Channel: アートテラー・とに~の【ここにしかない美術室】
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岸田劉生展 ―写実から、写意へ―

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先日は、ひろしま美術館に行ってきました。




漢字ではなく、ひらがなの “ひろしま”。
似たような名前の広島県立美術館は、公立の美術館ですが、
ひろしま美術館は、創業100周年を迎えた広島銀行がそれを記念して設立した私立美術館です。
ちなみに、ひろしま美術館の創立に尽力したのは、
のちに頭取にまで上り詰めるも、当時はまだ一介の銀行員でしかなかった井藤勲雄。
自身も被爆者でもあった彼が、広島市民を勇気づけるべく、
「広島に美術館を」 を合言葉に設立したのが、ひろしま美術館なのです。


そんなひろしま美術館を真上から見ると、ご覧の通り↓




美術館の中央にある丸いドーム型の本館は原爆ドームを、
本館を取り巻く回廊部分は厳島神社の回廊を、それぞれイメージしているのだとか。
なるほど。広島の2大世界遺産が同時に味わえる美術館建築なのですね。


さて、まずは本館に入ってみましょう。




建物の中央にいたのは、
「ペンパイナッポーアッポーペン」 的なポーズを取る一人の女性。
近代ヨーロッパを代表する彫刻家マイヨールの 《ヴィーナス》 という作品です。




その彼女を囲むように、全部で4つの展示室がありました。
それぞれの部屋に展示されていたのは、
国内外で高い評価を得るフランス近代美術コレクション。




ミレー、ロダン、ルノワール、セザンヌ、シャガール、ピカソ…etc
西洋美術のオールスターが勢ぞろい。
赤ヘル打線に引けを取らないくらいの最強打線です。
しかも、本館の内部は全面的に写真撮影OK!
なんて素敵な美術館なのでしょう。
広島県民ではないですが、思わず広島銀行に口座を開設したくなりました (←?)。


セーヌ河を描いたモネの連作のうちの一つ、《セーヌ河の朝》 も、




ルドンのパステル画 《ペガサス、岩上の馬》 も印象的でしたが。




やはり何といっても一番印象に残ったのは、
ひろしま美術館コレクションのマスターピースともいうべき作品、
ゴッホが亡くなる2週間前以内に描かれたとされる 《ドービニーの庭》 でしょう。




木々や草原だけでなく、空や建物まで、
全体的に緑色のトーンでまとめられているのが、印象深かったです。
しかし、よく見ると、一か所だけ不自然に茶色くなっている箇所が。




ここは一体??
実は、この絵と全く同じ構図の作品が、
スイスのバーゼル市立美術館にもあります。


フィンセント・ファン・ゴッホ 《ドービニーの庭》 1890年 バーゼル市立美術館蔵


2つの 《ドービニーの庭》 を見比べてみましょう。
バーゼル市立美術館ver.のほうには、その箇所に黒猫が描かれていますね。
ひろしま美術館ver.のほうにも、もともとは黒猫が描かれていたのだそうです。
しかし、ゴッホの死後、その黒猫は、
彼の友人でもあった画家シェフネッケルによって塗り潰されてしまったのだとか。

・・・・・・・・・・シェフネッケルめ、余計なこと、しやがって!

というわけで、絵から消えてしまった黒猫ですが、
ひろしま美術館の公式HPを隅々まで眺めてみると、出会えるかもしれませんよ。


ちなみに、現在、ひろしま美術館では特別展として、
“岸田劉生展 ―写実から、写意へ―” が開催されています。




こちらは、麗子像でお馴染みの洋画家・岸田劉生に焦点を当てた展覧会です。
先日まで東京ステーションギャラリーにて、
大々的な岸田劉生展が開催されていましたが、それとは別物の展覧会。
ひろしま美術館と深い関わりのある笠間日動美術館の所蔵品を中心に、
絵画や版画、装丁画など約170点の作品で、初期から晩年までの画風の変遷をたどるものです。
若い頃は、デューラーやヤン・ファン・エイクの影響を受け、写実的な絵を描いていた劉生ですが。


岸田劉生 《支那服を着た妹照子像》 1921年 ひろしま美術館蔵


晩年に近づくにつれ、対象をリアルに描写する “写実” 的な作風から、
対象の本質を “写意” 的に表現する東洋的・日本的なスタイルへとシフト。


岸田劉生 《りんご》 笠間日動美術館


後半生の作品群は、麗子像を描いていた時の面影は全くありませんでした。
こんなにもガラッと画風が変わっていたのですね。
面影がないといえば、劉生自身も。
若い頃は、それなりにシュッとしていた劉生ですが・・・・・


岸田劉生 《自画像》 1913年 笠間日動美術館蔵 (注:展示期間は、12月8日~2020年1月13日)


後半生は、完全にメタボ体型になっていました。


岸田劉生 《画人無為》 1926年 笠間日動美術館


体型が緩んだから、作風が緩んだのか。
はたまた、作風が緩んだから、体型が緩んだのか。
なんとも気になるところです。

なお、同じ広島県内にあるウッドワン美術館が所蔵する、
《毛糸肩掛せる麗子肖像》 も、11月9日~12月8日の期間限定で出展されています。


岸田劉生 《毛糸肩掛せる麗子肖像》 1920年 ウッドワン美術館蔵 (注:展示期間は、11月9日~12月8日)


よく見ると、右手の中指に指輪を嵌めていました。
それも、なかなか高価そうな。
さすがの貫禄。麗子プロ。
芦田愛菜よりも大人びていました。
星星


そうそう、余談ですが。
ひろしま美術館のミュージアムショップでは、
僕の 『ようこそ! 西洋絵画の流れがラクラク頭に入る美術館へ』 が何冊も販売されていました。
なんて素敵な美術館なのでしょう。
やはり広島銀行に口座を開設すべきでしょうね。




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