本来はこの春に、森アーツセンターギャラリーで開催される予定だった展覧会、
“おいしい浮世絵展 ～北斎 広重 国芳たちが描いた江戸の味わい～” が会期をズラし、開催される運びとなりました。
こちらは、「江戸の食」 を切り口とした、まさに目にもおいしい浮世絵展です。
寿司に、うなぎに、そばに、てんぷらに、豆腐に、
(注:館内は写真撮影禁止です。特別な許可を得て撮影しています。）
江戸の庶民が愛したさまざまなグルメが登場する浮世絵が続々登場！
さらに、浮世絵だけでなく、江戸グルメを再現した写真 （レシピ付き） も多数紹介されています。
観れば観るほど、生唾が湧く。
空腹時にはかなり危険な展覧会です。
江戸時代と現代と、でそこまで食文化に違いはないような気がしていましたが。
改めて見比べてみると、いろいろと違いがありました。
例えば、お寿司。
歌川国芳 《縞揃女辨慶 （松の鮨）》 味の素食の文化センター蔵、通期
見た目は現代とそこまで違いはないものの、盛り付け方が、かなりアヴァンギャルドです。
青魚の寿司の上に玉子の寿司を乗せて、その上に海老の寿司をオン。
彦摩呂でなくとも、思わず 「寿司のピラミッドや～」 が口をついて出ることでしょう。
また例えば、うなぎ。
歌川国芳 《春の虹蜺》 個人蔵、通期
もしかしたら、皆が皆こうして食べていたわけではないのかもしれませんが。
少なくとも、この女性は、だいぶワイルドなスタイルでうなぎを食そうとしています。
両端にそれぞれ1本ずつ串が通っているだけなので、
相当器用に食べないと、デロンと身が落ちてしまいそうです。
タレが着物についたら、かなり悲惨なことになると思うのですが・・・。
ちなみに、江戸時代、搾油の技術が向上したことから、食用にも油が使えるようになったのだとか。
そうして誕生したのが、天ぷらなのだそうです。
月岡芳年 《風俗三十二相 むまさう 嘉永年間女郎之風俗》 味の素食の文化センター蔵、通期
※会場で展示する作品は、展示期間により所蔵元が異なります。（7/15～8/13）味の素食の文化センター蔵 （8/15～9/13）浦上満氏蔵
なお、今でこそお芋の天ぷらとかナスの天ぷらという言い方をしますが。
江戸時代は、「天ぷら＝魚介」 だったとのこと。
野菜を揚げたものは、精進揚げ、野菜揚げと呼ばれて、区別されていたのだそうです。
ちなみに、どうでもいいですが、天ぷらを食べている浮世絵の女性は確実に胸焼けしていますね。
「むまそう（＝うまそう）」 とタイトルにはありますが、完全に天ぷらから目を背けています。
さて、味の濃いものをたくさん目にしたなら、
やはり、お口直しにさっぱりとしたものを目にしたいところですよね。
ご安心くださいませ。
会場では、江戸のスイーツも紹介されていました。
歌川国芳 《名酒揃 志ら玉》 江戸ガラス館蔵 通期
女性が水の張られた鉢から掬っているのは、白玉。
白玉という名ではありますが、
当時は、赤い斑点があるものもポピュラーだったそうです。
白玉というとぜんざいのイメージが強かったですが、
むしろ江戸時代は、白玉は夏だからこそ食べるものだったのだとか。
冷やし中華がまだなかった江戸時代、江戸っ子は白玉で夏の到来を感じていたのですね。
ちなみに。
展覧会のラストのテーマは、「東海道五十三次」。
五十三次を描いた浮世絵とともに、それぞれの名物が紹介されています。
府中の安倍川餅に、鞠子のとろろ汁に、桑名の焼き蛤に。
観れば観るほど、生唾が湧くと当時に、
Go To Travelしたい欲がふつふつと湧いてきます。
が、今はこういう状況です。
東京の皆様、浮世絵を観て、Go To Travelした気分になりましょう。
最後に。
個人的になんか気になってしまった展示品をご紹介。
江戸で豊かな食文化が花開いた要因として、
会場では、醤油が普及したことが紹介されていました。
こちらは、幕末に発行された 《関東醤油番付》。
その中には、今なお続くヤマサやキッコーマンが登場しています。
そんな 《関東醤油番付》 の向かいに展示されていたのが、2つの瓶。
長崎の出島からオランダへと輸出される醤油の入れ物として使われていた瓶だそうです。
その名も、《コンプラ瓶》。
江戸時代にも、「コンプラ」 という言葉が使われていたことに新鮮な驚きがありました。
とはいえ、コンプライアンスの略というわけでなく、
コンプラとはポルトガル語で、『仲買人』 の意なのだそうです。
江戸時代における 「コンプラ的にNG」 は、
「仲介人的にNG」 という意味ですので、お間違えの無いように （←？）
┃会期：2020年7月15日（水）～9月13日（日）
┃会場：森アーツセンターギャラリー
┃注：観覧には専用予約サイトのみで購入可能な 「日時指定入館券」 が必要となります
┃https://oishii-ukiyoe.jp/
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