■喜多川歌麿女絵草紙
作者:藤沢周平
出版社:文藝春秋
発売日:2012/7/10 (新装版)
ページ数:268ページ
江戸の町の人びとや風景を生き生きと描いた浮世絵師には、素性が知れていない人が多い。
生涯美人絵を描き、「歌まくら」「ねがひの糸口」といった、
枕絵の名作を残した喜多川歌麿は、好色漢の代名詞とされているが、
実は愛妻家の意外な一面もあった。著者独自の手法と構成で人間・歌麿を描き出した傑作長編。
(「BOOK」データベースより)
「葛飾北斎や歌川国芳に並ぶほどにメジャーな浮世絵師ながら、
改めて、考えてみると、意外なほどに人物像が思い浮かばない喜多川歌麿。
そんな歌麿を主役にした小説があるだなんて、
しかも、あの藤沢周平の手による小説だなんて。
それは興味深い!
ということで、早速手に入れて読んでみました。
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結論から言えば、なんともフワッとした小説でした。
裏表紙のあらすじには、『実は愛妻家の一面もあった。』 とありますが。
その愛妻は本編には登場しません。
愛妻はすでに亡くなっていました。
愛妻とのエピソードは特に描かれず、
代わりに物語の全編を通じて、描かれているのは、弟子である千代との微妙な関係。
・・・・・・・・どこが愛妻家なのか?
他にも、歌麿は、モデルとなる女性の本質を描こうと入れ込むあまり、
恋焦がれたり、女性の恋人に嫉妬したり、果てはその仲を引き裂いたり。
・・・・・・・・どこがどう、愛妻家なのか?。
ちなみに、個人的にモヤモヤしたのは、ラストシーンです。
なんかもういろいろ唐突。
それまで本編にまったく登場しなかった女性が登場しますし。
それまでハードボイルド小説の主人公みたいなキャラだった歌麿が、
最後の最後で急にキャラ変し、官能小説の登場人物みたいになりますし。
結局のところ、この小説を読んだせいで、
歌麿の人物像が、さらにイメージしづらくなった気がします (笑)
とはいえ、歌麿の浮世絵師としての苦悩の細やかな描写は、さすが藤沢周平といったところ。
自らの才能が衰えていることを密かに自覚する歌麿。
そこに登場するのが、写楽の役者絵です。
役者を美化することなく描いた写楽の斬新な画風に、
嫌悪感を抱きつつも、その強烈な個性は認めざるを得ない。
芸術家としての歌麿の心理描写は真に迫るものがありました。
さらに、歌麿に追い打ちをかけるのが、彼を取り立てた蔦屋重三郎からの一言。
天下の歌麿にこんなことを言うのは大変失礼ながらも、
若い時から付き合いのある自分しか指摘できないだろうと、蔦屋は意を決してこう言い放ちます。
「顔が同じなんですよ。どの女も」
えっ?やっぱりそうなの??
歌麿の浮世絵を観るたびに、薄々そう感じていましたが。
顔が同じに見えるのは自分が現代人だからゆえ。
江戸時代の人は、ちゃんと浮世絵の顔を見分けられているものだとばかり。
当時の人も、みんな同じ顔に感じていたのかもしれませんね。
あだち充の漫画に登場するキャラが、みんな同じ顔に感じられるように。
ちなみに。
この小説には、歌麿のモデルとなるさまざまな女性が登場しますが。
どの女性ももれなく、幸が薄かったです。
僕の脳内では、どの女性モデルも木村多江が演じていました。
(星2つ)」
~小説に登場する名画~
《当時三美人》