■東京、はじまる
作者:門井慶喜
出版社:文藝春秋
発売日:2020/2/24
ページ数:423ページ
この男がいなければ、今日の東京の風景は、なかったかもしれない。
日本銀行、東京駅、国会議事堂……経済、交通、
そして、民主政治という近代国家を象徴する建物を次々と設計した明治の建築家・辰野金吾。
理想の首都 「東京」 を作り上げようとする辰野はまさに維新期ならではの超人だった。
しかし、超人であるがゆえの破天荒さは周囲を振り回し……。
下級武士から身を立てるべく学問に励み、洋行して列強諸国と日本の差に焦り、
恩師ジョサイア・コンドルを蹴落としてでも日本人建築家による首都作りを目指した男の一代記は、
今日の風景が生まれるに至った 「東京のはじまり」 の物語でもあった。
(文藝春秋BOOKS HPより)
「かれこれ12年近く、みんなの大東東京建築ツアーを主催しているので、
建築や建築家については、ある程度知っているつもりになっていましたが。
日本銀行の地下にはとんでもない仕掛けがあること。
かつて東京駅は南口が入口専用で北口が出口専用だったため、利用者に不評だったこと。
辰野金吾と高橋是清の間に深い関わりがあったこと。
辰野金吾の娘婿が、ビタミンB1を発見した化学者・鈴木梅太郎であったこと。
・・・・・などなど、知らなかったエピソードが続々登場。
そもそも東京駅が誕生したきっかけすら知りませんでした。
まず何より、作者の門井さんのリサーチ力に感服するばかりです。
個人的に一番印象に残っているのは、
日本銀行に使われている石は、北木島産ということ。
あれ?北木島って、どこかで聞いたことがあるような。。。
と思ったら、千鳥の大悟さんの出身地でした。
そういえば、大悟さんのお父さんは石を拾う仕事をされていたはず。
なるほど。繋がるものですね。
ちなみに、北木島産の石が使われているのは、工費や加工の関係で1階のみ。
2、3階には、神奈川県湯河原産の石が使われているそうです。
今度、日本銀行の前を通る時に、チェックしてみようと思います。
また、魅力的な登場人物が多いのも、この本の特徴です。
辰野金吾は、バイタリティーの塊のような人物として描かれているため、
主人公でありながらもクセとエグ味がややあり、好き嫌いが分かれるとは思いますが。
そんな辰野の若い頃からの友である曽禰達蔵は、かなり魅力的な人物として描かれています。
(曽禰達蔵・・・慶応義塾大学図書館や明治屋京橋ビルを設計した建築家)
この本を通じて、曽禰ファンは確実に増えることでしょう。
また、弟子の辰野からオワコン扱いされるも、
最後まで優しく見守り続ける師匠のジョサイア・コンドルも魅力的に描かれていました。
今度、三菱一号館美術館を訪れる際は、もっとコンドルの建築に目を向けようと思います。
反対に、この本を通じてイメージダウンが免れないのが、妻木頼黄。
(妻木頼黄・・・旧横浜正金銀行本店、現在の神奈川県立歴史博物館や日本橋を設計した建築家)
何かと辰野金吾に絡んでくるウザキャラとして描かれていました。
少しくらい見せ場があるかと思いきや、特にいいところなく出番が終了。
実際に、ウザキャラだったのかもしれませんが、さすがに同情してしまいました。
ちなみに。
これも知らなかったのですが、辰野金吾ははスペイン風邪で亡くなっていたのですね。
今のコロナ禍を連想させるものがあり、ゾッとするものがありました。
もし、スペイン風邪の流行がなかったら、
他にも辰野金吾による名建築は生まれていたのかもしれません。
(星4つ)」
~小説に登場する名建築~
《東京駅》