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Channel: アートテラー・とに~の【ここにしかない美術室】
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クールベと海

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山梨県立文学館を訪れた後は、

芸術の森公園内にある山梨県立美術館へやってきました。

 

 

 

建物の外観に大きく貼り出されているのは・・・・・

 

 

 

ジャン=フランソワ・ミレーの肖像写真です。

「何でミレー??」 と思った方もいらっしゃるでしょうが。

実は、山梨県立美術館は、ミレーの作品を中心に、

日本屈指のバルビゾン派コレクションを有する美術館。

何を隠そう、世界に2点しか存在しないミレーの名画、《種をまく人》 も所蔵しています。

常設展示室では、《種をまく人》  を含むミレー作品の数々を鑑賞することができるのです。

 

 

さて、そんな山梨県立美術館で、この秋開催されているのが、

“クールベと海 ―フランス近代 自然へのまなざし―” という展覧会。

 

 

 

「私は天使を描けない。なぜなら見たことがないからだ!」

 

というパワーワードを放ち、生涯にわたって見たものをありのままの姿で描き続けた、

フランスを代表する写実画家ギュスターヴ・クールベ (1819~1877) を主役にした展覧会です。

しかも、今回の展覧会では特に、クールベが多く描いた海の絵に着目!

クールベが海を描いた絵画の数々を中心に、

他の西洋の画家たちによる海の絵画を含む約70点を紹介しています。

 

 

まず展覧会の冒頭で紹介されていたのは、

クールベ以前の画家が描いた海の絵の数々です。

 

(注:館内は写真撮影禁止です。特別な許可を得て撮影しています。)

 

 

意外にも、海を主役にした絵が描かれるようになったのは18世紀以降とのこと。

それまでは、聖書や神話画の一場面として、

もしくは、海戦の舞台として描かれることが多かったのだそうです。

19世紀になると、海洋国であるイギリスを中心に、

ピクチャレスク (=ざっくり言えば、絵になる風景) なものとして描かれるようになります。

 

と、当時の画家たちの多くが、海を崇高なものと捉えていた中で、

どうやら今回の主役クールベは、海に対して違う印象を抱いていたようで。

山に囲まれた地で生まれ育ったクールベは、

22歳にして初めて海を見た際に、両親への手紙にこんな感想を綴っていました。

 

「谷の住民には奇妙なものです」 

 

会場には、そんなクールベが描いた海の絵がズラリ!

 

 

 

日本各地の美術館から、さらに、フランスからも1点、

 

 

 

“海なし県” の山梨県に、クールベが描いた海の絵が大集結しています。

もしかしたら、今、山梨県内で一番、

海が感じられるスポットと言っても過言ではないかもしれません。

 

 

これまで何度となく、クールベの海の絵を目にする機会はありましたが。

何の変哲もない海の絵のようにしか感じられず、

“東映のオープニングっぽいなァ” くらいにしか思っていませんでした (笑)

しかし、改めて、「奇妙なもの」 というフィルターを通して観てみると・・・・・

 

 

 

なぜ、クールベが飽きることなく、波の絵を描き続けたのか。

その理由が少しだけわかった気がしました。

確かに、テレビやインターネットもない時代、

しかも、22歳まで海を見たことがなかったわけですから、

初めて目にする波の動きに、クールベは相当な衝撃を受けたはず!

その予想のつかない奇妙な動きを、なんとか絵画で再現できないものか。

画家としての創作意欲が掻き立てられたであろうことは、想像に難くありません。

 

ちなみに、クールベは試行錯誤の末、

波を写実的に表現するある画期的な方法を編み出したのだとか。

 

 

 

パレットナイフを用い、絵の具を分厚く盛り上げたり、

あるいは、削ったりすることで、波しぶきを表現したのです。

実は、クールベは、パレットナイフを絵画の制作に使った最初の画家と言われているのだそう。

美術史上、初めて個展を開いたことでもお馴染みのクールベ。

個展だけでなく、パレットナイフの画期的な使用法も発明していたのですね。

 

 

なお、会場には、クールベと対比する形で、

モネやシスレーといった同時代の画家が描いた海の絵も紹介されていました。

 

 

 

また、“海” 繋がりで、西洋美術の展覧会ではあまり目にしない船の模型も紹介されています。

 

 

 

さらに、こちらも “海” 繋がりの展示品。

 

 

 

海軍の制服か何かかと思いきや、

女性が肌を露出するのが一般的でなかった19世紀中頃の水着とのこと。

この水着にくわえて、さらに膝下を隠すべく、靴下も着用していたそうです。

濡れたら身体にベタベタ張り付き、不快だと思うのですが・・・・・。

19世紀中頃の海水浴は、いろいろと大変だったようです。

 

 

さてさて、展覧会では他にも、

クールベが描いた風景画や人物画も紹介されています。

 

 

 

そして、ラストに紹介されていたのは、動物が描かれたクールベの絵画の数々。

山梨県立美術館らしく、バルビゾン派の画家たちの作品とともに紹介されていました。

バルビゾン派の画家たちの絵に描かれているのが、

牛や羊といった農業や酪農に関わる動物であるのに対して。

 

 

 

クールベの絵に描かれていたのは・・・・・

 

 

 

猟犬や鹿といった狩猟に関わる動物ばかりでした。

実際に狩猟や釣りをよくしたというクールベ。

34歳の時には、雪の中での狩猟が禁止されていたのにも関わらず、

狩猟をしたために憲兵に捕まり、罰金を科せられたこともあるのだとか。

そんな狩猟バカ (?) だからこそ描けたリアルな狩猟画の数々。

画面からは張り詰めたような緊張感が伝わってきます。

 

 

クールベに馴染みのなかった人にはもちろん、

クールベをただの自信過剰な画家と思っていた人にこそ観て頂きたい展覧会。

星星

この展覧会をきっかけに、きっとクールベのイメージが変わるはずです。





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