現在、原美術館で開催されているのは、
“光―呼吸 時をすくう5人” という展覧会。
(注:館内の写真撮影は、特別に許可を頂いております)
長年の癌との闘病生活の末、昨年逝去した佐藤雅晴さんや、
台北を拠点に国内外で活躍するリー・キットら、5人のアーティストによる展覧会です。
アニメーション、インスタレーション、写真と、
ジャンルはそれぞれ異なりますが、どこか作風に通ずるものがある5人。
あえて言葉にするのであれば、
「何気ない日常を、控えめにスッと掬い取るような」 作風とでもいいましょうか。
決して派手さはないのですが、作品と向き合うと、心の奥底に心地よい風が吹くような。
そんなじわじわくるタイプの作風です。
今回の展覧会で、ひときわ目を引いたのは、城戸保さんの作品群です。
城戸さんは、『突然の無意味』 と本人が表現する、
何気ない日常風景の中で本来の役割や用途からズレた 「もの」 を作品化するアーティスト。
光―呼吸 時をすくう5人 展示風景画像 撮影:城戸保
意味が無いようで、実はあるようで、やっぱり無いようで。
だからといって、「無意味=無価値」 というわけではありません。
無意味だけれどもかけがえのない。
無意味かもしれないけれども愛おしい。
そんな光景の数々が写真に収められています。
また、今展には、写真家の今井智己さんによる、
東日本大震災をテーマにした 《Semicircle Law》 シリーズも出展されていました。
光―呼吸 時をすくう5人 展示風景画像 撮影:今井智己
こちらは、福島第一原発から30km圏内にある数か所の山頂から、
原発建屋の方向にカメラを真っ直ぐに向けて風景を撮影した写真シリーズ。
建屋の姿が見えている写真もありますが、
山や手前の木々に隠れてしまい、姿が全く見えないものもあります。
なお、写真はすべて、展示室の壁ではなく、仮設壁に展示されています。
実は、この壁の直線上に、福島第一原発があるのだとか。
ちなみに、よくよく見てみると、床板の方向もほぼ壁の向きと一致しています。
この展示のために床板を張り替えたのかと思いきや、
学芸員さん曰く、「床板はもとからこの向きで、本当にたまたまだった」 とのこと。
あまりの偶然に、思わず鳥肌が立ちました。
さてさて、実は、この展覧会をもって、
原美術館は群馬県へと拠点を移します。
つまり、この見慣れた建物は、今回で見納め!
当初の予定であれば、この建物でのラストとなる展覧会は、
原美術館コレクションを一挙公開するような展覧会だったそうですが。
コロナの影響で、本来、夏に開催される予定だった今展が、
品川の原美術館でのフィナーレを飾る展覧会となったのです。
正直なところ、やはり最後の展覧会は、
『笑っていいとも!』 のグランドフィナーレのように、
メンバーが一堂に会すお祭りのような内容であって欲しいと思っていたのですが。
今展を観て、特に制作された佐藤時啓さんの新作を観て、
“むしろこの展覧会がラストで良かったかも” という気持ちになりました、
佐藤時啓さんは、スローシャッター (長時間露光) による写真作品で知られるアーティスト。
長時間露光の撮影中に、佐藤さん本人が手鏡やペンライトを持ち、
カメラに向かって光を当てては移動し・・・を繰り返し、写真に無数の光を定着させるのです。
(佐藤さん自身は絶えず動いているので、写真には写りません)
今回の新作は、現在の原美術館の建物を舞台に撮影されたもの。
光―呼吸 時をすくう5人 展示風景画像 撮影:今井智己
現在の原美術館の建物が休館したところで、
きっとこんな感じで、光や記憶は建物に残り続けていくのだろう。
そういった希望のようなものが持てる作品群でした。
さらに、佐藤さんの新作の中には、今後、
「原美術館ARC」 と生まれ変わるハラ ミュージアム アークで撮影されたものもあります。
光―呼吸 時をすくう5人 展示風景画像 撮影:今井智己
無数の光がキラキラと輝くハラ ミュージアム アーク。
その新たなスタートに、希望の星がきらめいているかのようでした。
確かに、現在の建物での展覧会が観られなくなるのは、寂しいですが。
原美術館は決して最終回を迎えるわけでなく、放送時間を変えてお引越しするようなもの。
リスタートを切る原美術館に、期待感の高まる展覧会です。
ちなみに。
僕が訪れたのは9月のとある平日でしたが、
この日の時点で、事前予約制のチケットが当日分は完売だったようです。
すでに土日で完売している日もあるとのこと。
会期は、来年1月11日まであるとはいえ、
現在の建物での展覧会を観収めておきたい方は、早めの予約をオススメいたします!
余談ですが。
美術館の庭にある気のふもとに、巨大なキノコが生えていました。
原美術館に何度も通っていますが、こんなキノコを観るのは初めて!
キノコたちもラスト展覧会を盛り上げようとしているのかもしれません。