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Channel: アートテラー・とに~の【ここにしかない美術室】
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相模を描いた浮世絵と狂歌摺物

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現在、藤沢市藤澤浮世絵館では、

“相模を描いた浮世絵と狂歌摺物” が開催中です。

もしかしたら、このタイトルを見て、

「相撲を描いた浮世絵」 と空目してしまった方も、いらっしゃるかもしれませんが。

“相撲” ではなく、“相模”。

“相模” をテーマに、相模国の3つの市がタッグを組んだ展覧会です。

星

 

展覧会でまず紹介されていたのは、

秦野市が所蔵する浮世絵コレクション。

実は、このコレクションは、同市出身の実業家、大津圓子氏によって寄贈されたもの。

その数、なんと約1900点!

質、量ともに充実したこの浮世絵コレクションは、

普段は、「はだの浮世絵ギャラリー」 という施設で常設展示されているそうです。

そんな秦野市の浮世絵コレクションは、

これまでまとまった形で、秦野市以外で展示される機会は無かったそうですが。

今展では、選りすぐり名品の数々がドドーンと大公開されています。

しかも、入場料無料で!

 

(注:展示中の一部の作品は写真撮影可能です。撮影禁止の作品に関しては、特別な許可を得て撮影しています。)

 

 

このコーナーでは、喜多川歌麿や歌川広重といった、

 

 

 

浮世絵界のビッグネームの名品を、時代順に紹介。

江戸の初期から明治期まで、

浮世絵の歴史が一望できるようになっています。

中でも個人的に印象に残ったのが、こちらの一枚。

 

 

 

鳥居清貞・寿雙々忠清の 《歌舞伎十八番 暫 九世市川團十郎の鎌倉権五郎景政》

明治28年に発行された作品です。

パッと見はシンプルに思えるかもしれませんが。

是非、作品にギリギリまで近づいて、

市川團十郎ばりに 「にらみ」 を効かせて、隅々までご注目くださいませ。

 

 

 

全面にビッシリと施された空摺り!

キラリと光る雲母摺り!

そして、髪の毛の細かい描写!

技のデパートともいうべき一枚です。

 

 

続いてのコーナーでは、伊勢原市が所蔵する、

大山詣りに関連する浮世絵の数々が紹介されています。

 

 

 

伊勢詣りよりも気軽に行けることから、

江戸庶民の間で人気だったという大山詣り。

そのピーク時には、年間20万もの人が、伊勢原にある大山を訪れたのだとか。

さて、この大山詣りには、こんな独特な風習があります。

 

 

 

大山詣りの前に、良弁滝で身を清めている男性たちの手元にご注目ください。

 

 

 

何やら巨大な刀のようなものを持っている人が、ちらほらいますね。

その昔、源頼朝は打倒平家で挙兵する際に、

大山にある大山阿夫利神社に太刀を奉納したそうです。

それにあやかり、江戸の庶民たちも、

大山阿夫利神社に木刀を収め始めるようになったのだそう。

あいつの木刀よりは、大きいものを。

そんな江戸っ子の見栄がエスカレートしていき、徐々に木刀は巨大化。

 

 

 

大山阿夫利神社の公式HPによると、

最大6メートルの巨大な木刀が奉納されたこともあるそうです。

なお、この巨大な木刀は、大山の近くで手に入れるわけではありません。

江戸でこしらえ、それを担いで参拝しにいくのだそうです。

 

 

 

また、隅田川を描いた浮世絵の一部をよ~く見てみると・・・・・

 

 

 

そこには、巨大な木刀を持った輩の姿が!

 

 

 

なんでも、大山詣りをする前に、

隅田川で水垢離するのが習わしだったのだそう。

両国から大山まで、巨大な木刀を担いでいく。

実にパンクな野郎どもです。

 

 

大山詣りに続いて紹介されていたのが、江の島詣り。

大山詣りと違い、女性も参詣することができたことから、

江の島は、江戸庶民にとって大山以上に人気の観光スポットだったとのこと。

それゆえ、江の島を描いた浮世絵は数多く描かれているそうで、

会場では、藤澤浮世絵館が所蔵する “江の島浮世絵コレクション” が紹介されています。

 

 

 

江の島を舞台にした数々の浮世絵の中で、特に気になったのは、

一嶺斎 (歌川) 芳雪が描いた 《相州江之島詣春の賑》 なる一枚です。

 

 

 

女性のもとに群がる裸の子どもたち。

『フランダースの犬』 の最後の場面に登場する天使的なものかと思いきや。

そうではなく、現実の子どもたちなのだそうです。

当時、江の島詣りをする際に、海や浜に喜捨する風習があったそう。

その投げられた銭を、地元の子どもたちが拾っていたようです。

さらに、海で採った貝などを、買ってくれとねだる子どもたちもいたとのこと。

何そのスラム街みたいなシステムは?!

 

 

さてさて、展覧会のラストには、

藤沢と関わりの深い狂歌摺物をフィーチャーしたコーナーも。

 

 

 

採算を取ることが前提の一般的な売り物の浮世絵とは違い、

摺物 (すりもの) とは、富裕層がプライベートで作らせたもの。
それゆえ、彫りにも摺りにも、贅が凝らされているのが特徴です。
さて、狂歌摺物とは、狂歌師が自分の狂歌を入れて作らせた摺物。

実は、江戸時代には空前の狂歌ブームがあったそうで、

日本全国に住む狂歌師が、選者のもとに自信のある狂歌を投稿していたそうです。

江戸時代にも、ハガキ職人的な人はいたのですね。

 

そして、面白い狂歌は採用され、このようにまとめられていたそうです。

 

 

 

江戸時代にも、『ジャンプ放送局』 みたいなのがあったのですね。

 

 

ちなみに。

狂歌に関しては無学ゆえ、面白さが今一つピンとこなかったので、

担当された学芸員さんに、どの狂歌が面白いのかを尋ねてみました。

すると・・・・・・・

 

 

 

「展示で紹介されてる狂歌の大半は面白くないですよ (笑)」 と一言。

ただ、狂歌の出来がイマイチでも、

摺物の彫りや刷りの技術は、ピカイチです。

 

 

 

摺物そのものが素晴らしかったからこそ、

面白くない狂歌でも、捨てられることなく、こうして現在まで残っていたのですね。

良かった良かった。

 

 



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