現在、ポーラ美術館で開催されているのは、
“Connections―海を越える憧れ、日本とフランスの150年” という展覧会です。
特に美術の世界において、
切っても切れない繋がり (=Connection) を持つ日本とフランス。
その2国の交流にスポットを当てた展覧会です。
展覧会は、全部で4章仕立て。
まず第1章でフィーチャーされているのは、
19世紀後半にフランスで盛り上がった 「ジャポニスム」 です。
こちらでは、「ジャポニスム」 に影響を受けたモネやゴッホといったフランスの芸術家と、
浮世絵を通じて彼らを大いに刺激した北斎や広重ら日本の芸術家の作品を合わせて展示。
かれこれ10年近く、ポーラ美術館を定期的に訪れていますが、
ポーラ美術館の展示室で、浮世絵を目にするのは初めてでした。
それだけに、なんとも新鮮な印象を受けました。
さらに、こちらの章では・・・・・
山口晃 《新東都名所 「芝の大塔」》 (制作:アダチ版画研究所) 2014年(平成26) 木版画 39.2×26.9 cm ミヅマアートギャラリー
©YAMAGUCHI Akira, Courtesy of Mizuma Art Gallery
山口晃さんの代名詞ともいうべき浮世絵風の作品や、
今最も国内外から注目を集める映像作家の一人、荒木悠さんの作品なども紹介。
日本とフランスの “Connection” だけでなく、
昔と今の “Connection” も紹介されています。
なるほど。だから、展覧会のタイトルが “Connections” と複数形なのですね。
続く第2章では、和田英作や岡田三郎助など、フランスに留学し、
本場で学んだことを日本に伝えた明治の洋画家たちがフィーチャーされています。
このコーナーで特に見逃せないのが、
黒田清輝の代表作の一つである 《野辺》 と、
その師ラファエル・コランの 《眠り》 の競演です。
このコランによる 《眠り》 という絵画の存在は、
《野辺》 のイメージソースとなった作品として、以前から知られていたそうなのですが。
実は、長いこと行方不明だったのだそうで、つい最近発見されたとのこと。
そんな永い眠りから覚めた 《眠り》 が初来日し、弟子の作品と共演を果たしています!
なお、一般公開されるのは、実に120年ぶりなのだそうです。
さて、よく似ている2つの絵画ですが、
比べてみると、いくつか違う点が見つかります。
ラファエル ・コラン 《眠り》 1892年 油彩/カンヴァス 65.6×93.0 cm 芸術家財団、パリ ©Fondation des Artistes / Raphaële Kriegel
黒田清輝 《野辺》 1907年(明治40) 油彩/カンヴァス 54.9×72.8 cm ポーラ美術館
モデルはそれぞれ西洋人と日本人。
《眠り》 の女性は目をつぶっているのに対し、
《野辺》 の女性の目は半開き、手にした花を見つめています。
また、《眠り》 の女性の腰元には毛皮が、
《野辺》 の女性の腰元には赤い布が置かれています。
それから、《眠り》 の女性は毛量が多すぎるような・・・。
解説によると、《眠り》 には、無防備で眠る女性を覗き見している感覚があるとのこと。
さらに、毛皮は触感的な刺激で官能性を高めるモチーフであるとのこと。
それに比べると、《野辺》 は日本人向けに、
官能性を薄めているというような指摘がありました。
しかし、でも、よく見ると、《野辺》 の赤い布は今にもズレ落ちそうです。
もし下半身まで描かれていたら、あらわになっているのは 《野辺》 のほう。
てことは、むしろエロいのは 《野辺》 なのでは??
黒田清輝とコランは、どっちがエロいのか。
結論としては、そんなことを2つの絵の前で、
真剣に考えていた僕が一番エロいのでしょう。
・・・・・・・・気を取り直しまして。
第3章で紹介されていたのは、
フランスの芸術家の影響を大きく受けた大正期の洋画家たちです。
特に影響が絶大だったのが、ゴッホ。
岸田劉生や萬鉄五郎、靉光をはじめ、
多くの洋画家がゴッホ熱に浮かされていたようです。
また、セザンヌにもろに影響を受けた画家も多くいた模様。
中でも特にこじらせていたのが、安井曾太郎です。
この 《中国風景》 という作品では、おそらくセザンヌを意識して、
あえて左下に描き残しの部分を設けたり、筆致を強調してみたり。
建物も微妙に傾いて描いています。
憧れのセザンヌみたいな絵が描きたい!
その直向きな姿勢に、愛らしさを感じずにはいられませんでした。
第4章で紹介されていたのは、フォーヴとシュールです。
1920年代から30年代にかけて、主に雑誌や書物を通じて、
当時のフランスの最新美術の情報が日本にもたらされました。
この頃になると、日本の洋画界も成熟しているため、
前の世代の洋画家たちのように、ただひたすら真似ようとするのではなく、
ちゃんと自分なりにアレンジするスマートさを持ち合わせていました。
洋画家界の第七世代といった感じでしょうか (←?)。
ちなみに。
展覧会のラストでは、藤田嗣治がフィーチャーされていました。
日本人でありながら、フランスでその生涯を終えた藤田。
まさに、この展覧会のエピローグを飾るに相応しい人物です。
なお、来年4月よりスタートするポーラ美術館の次回展は、
ポーラ美術館が所蔵する藤田作品を一挙公開する “フジター色彩への旅” とのこと。
エピローグにして、プロローグ。
次回展にも期待が高まります。