現在、すみだ北斎美術館では、
“GIGA・MANGA 江戸戯画から近代漫画へ” が開催中です。
(注:館内の写真撮影は、特別に許可を得ております。)
今やすっかり世界の共通語となった 『漫画 (=MANGA)』。
そのルーツとされる江戸時代の 『戯画 (=GIGA)』 を起点に、
江戸、明治、大正、昭和と、戯画から漫画への変遷を辿る展覧会です。
展覧会は全3章仕立て。
まず第1章で紹介されていたのは、江戸中期以降の戯画浮世絵の数々。
すみだ北斎美術館の展覧会には珍しく、
広重や国芳といった北斎以外の浮世絵師の作品も多く展示されています。
写真左) 歌川国芳 《人をばかにした人だ》 写真右) 歌川国芳 《浮世よしづ久志》
京都精華大学国際マンガ研究センター/京都国際マンガミュージアム蔵
それらの中には、広重の弟子である歌川広景の唯一の代表作で、
広重の 《名所江戸百景》 のパロディ版 《江戸名所道戯尽》 シリーズも。
写真左) 歌川広景 《江戸名所道戯尽 二 両国の夕立》 写真右) 歌川広景 《江戸名所道戯尽 二十八 妻恋ごみ坂の景》
京都精華大学国際マンガ研究センター/京都国際マンガミュージアム蔵
このシリーズにたびたび登場するのが、おならネタです。
もしくは、ズッコケる人。
笑いのクオリティは、やや低めです (笑)
ウィットのウの字もありません。
しかし、小学生男子ウケは確実。
江戸時代の戯画浮世絵は、
『コロコロコミック』、あるいは 『浦安鉄筋家族』 の源流といえましょう。
源流といえば、こんな作品も。
歌川芳藤 《心夢吉凶鏡》 京都精華大学国際マンガ研究センター/京都国際マンガミュージアム蔵
歌川芳藤による 《心夢吉凶鏡》 という一枚。
シルエットで表現された男女の口元から飛び出しているのは、
「美味しいものを食べたい」 や 「歌舞伎を見たい」 といったさまざまな欲望です。
その形といい、絵における役割といい、まさに 『吹き出し』 の源流。
ちなみに。
女性の色欲が 「結婚したい」 であるのに対し、
男性のほうの色欲は 「吉原に行きたい」 でした。
昔から、男ってのはこんな感じなんですね・・・。
なお、第1章では、もちろん北斎の作品も紹介されていました。
葛飾北斎『北斎漫画』 三編 (明治版) 雀踊り図 すみだ北斎美術館蔵
ご存じ、『北斎漫画』 。
『北斎漫画』 における 『漫画』 とは、「漫然と描いた画」、
すなわち、気の向くままに描いた画というような意味ですが。
『北斎漫画』 に登場する多彩なキャラクターや、
ユニークなコマ表現は、現在の漫画に通ずるところがありました。
続いて、第2章で紹介されていたのは、明治大正期の漫画雑誌です。
『團團珍聞』 第508号 眼を廻す器械 京都精華大学国際マンガ研究センター/京都国際マンガミュージアム蔵
漫画雑誌とはいっても、現在の 『週刊少年ジャンプ』 や、
『週刊ヤングマガジン』 などとは違い、ストーリー漫画が連載されているわけではありません。
掲載されているのは、滑稽な絵や時事ネタの風刺画。
漫画は漫画でも、『お笑いマンガ道場』 的な漫画です。
ちなみに、当時、こうした絵は 「ポンチ絵」 と呼ばれていたとのこと。
展覧会では、その語源となった貴重な雑誌、
チャールズ・ワーグマン 『THE JAPAN PUNCH』 も展示されていました。
チャールズ・ワーグマン 『THE JAPAN PUNCH』 1883年5月号 京都精華大学国際マンガ研究センター/京都国際マンガミュージアム蔵
展覧会のラストを飾る第3章では、昭和の漫画が紹介されています。
昭和になって、ようやくストーリー漫画が登場。
会場には、岡本太郎の父である岡本一平の漫画や、
岡本一平編 『児童漫画集』 京都精華大学国際マンガ研究センター/京都国際マンガミュージアム蔵
日本初の日刊連載の新聞4コマ漫画とされる 『お伽 正チャンの冒険』 など、
小星・東風人 『お伽 正チャンの冒険』 二の巻 京都精華大学国際マンガ研究センター/京都国際マンガミュージアム蔵
昭和初期の貴重な漫画の数々が紹介されていました。
これらの漫画家がいたからこそ、
長谷川町子や手塚治虫といった漫画家が続いたのですね。
そう考えると、とても感慨深いものがありました。
正直なところ、昭和初期の漫画は知らないものばかりでしたが、
特に印象的だったのが、平井房人の 『家庭報国 思ひつき夫人』 です。
平井房人 『家庭報国 思ひつき夫人』 全3集 京都精華大学国際マンガ研究センター/京都国際マンガミュージアム蔵
東京タワーのノッポンみたいなフォルムの主人公、
思ひつき夫人が、さまざまな倹約術を実践する漫画とのこと。
当時、日中戦争のため、倹約が奨励されていたこともあり、『思ひつき夫人』 は大ヒット。
実写映画化もされたそうです。
『コーンヘッズ』 みたいな感じで??
それから、もう一つ印象的だったのが、
坂本牙城による 『タンク・タンクロー』 です。
坂本牙城 『タンク・タンクロー』 (『幼年倶楽部』 第9巻4月号付録) 京都精華大学国際マンガ研究センター/京都国際マンガミュージアム蔵
空を飛び、海を行くロボット、タンクローの物語とのこと。
ロボット漫画の先駆けなのだそうです。
どうみても、人間の顔。どうみても、人間の手足。
これがロボットだというのなら、
ガンダムやエヴァンゲリオンよりも、
はるかに高スペックなロボットなのでしょう。
笑顔で飛行機を一刀両断してますし。
つい先日、『鬼滅の刃』 の最終巻が発売されたばかり。
そんなタイミングだからこそ、
漫画の源流を辿ってみるのはいかがでしょうか。