現在、武蔵野市立吉祥寺美術館では、
“阪本トクロウ|デイリーライブス” という展覧会が開催されています。
その色味や醸し出している雰囲気といい。
“デイリーライブス” の手描きフォント感といい。
なんとなく、若手俳優が主演声優を務めるアニメ映画を彷彿とさせるものがありましたが。
阪本トクロウさん (1975年生まれ) は、アニメーション作家ではありませんでした。
東京藝術大学の日本画専攻を卒業した画家です。
どこにでもありそうな風景をモチーフにしつつ、
人の気配がまったく感じられない空虚な世界を描いているという坂本さん。
正直なところ、今回の展覧会で初めて、坂本さんのことを知ったのですが。
その作風が僕の趣味にどストライクで、一発で心を鷲掴みにされてしまいました!
あまりにも好きな作風すぎて、
「何でこのアーティストを今まで知らなかったんだ!」 と、反省したほどです。
坂本さんの絵画はどれも、とにかくエモい!
何気ない光景なのに。
しかも、誰もいないのに。
向き合った瞬間に、僕の心のやわらかい場所がキュッと締め付けられるような。
そんな感覚に陥りました。
それから、何と言っても、坂本さんは、
ありきたりな光景を切り取るセンスが素晴らしい!
横断歩道や地面に敷き詰められたタイルをこのように切り取るセンス!
シンプルかつ大胆。
その絶妙なバランス感覚は、
琳派や福田平八郎に通ずるものがありました。
ちなみに。
個人的に一番衝撃を受けたのは・・・・・
『止まれ』 の 『ま』 の字の切り取り方。
この発想はなかった!
思わず脱帽しました。
ちなみに。
坂本さんに大きな影響を与えた画家の一人に、
「ウォーターフォール」 シリーズでお馴染みの千住博さんがいるそう。
かつて2年ほど、千住さんの製作助手も務めていたそうです。
なるほど。どうりで。
と、そう単純な理由ではないのでしょうが。
日常の1コマをモチーフにしたシリーズとは別に、
揺れ動く水の表情をモチーフにした 《水面》 シリーズも制作しています。
展覧会では、そこから派生版した近作 《weave》 も紹介されていました。
こちらは 「墨流し」 の技法を応用したものなのだとか。
動いていないのにも関わらず、
水の揺らめきを常に感じられるような。
不思議な絵画作品でした。
シリーズといえば、坂本さんには、こんなシリーズも。
大きな余白の中に公園の遊具が朧気に佇む 《エンドレスホリディ》 シリーズです。
遊具がただポツンと描かれているだけなのに。
「あぁ、もう子供時代には絶対に戻ることができないんだなぁ。。。」
そんな当たり前のことを強く実感させられて、急に切なくなりました。
泣く寸前でした。
いや、ウソです。少し涙が出ました。
なお、出展数は全部で約30点です。
展示室以外にも展示されていましたが、
欲を言えば、もっと他にも作品を観てみたかったです。
ちなみに。
平日に訪れたため、その時間たまたまだったのでしょうが。
僕以外に、観客がいませんでした。
こんなにも素晴らしい展覧会なのに!
そんな無人の会場もまた、
坂本さんの作品世界のようでした。