現在、日比谷図書文化館で開催されているのは、
“複製芸術家 小村雪岱 ~装幀と挿絵に見る二つの精華~” という展覧会です。
覆面芸術家ではなく、複製芸術家。
小村雪岱 (せったい) は、竹久夢二とほぼ同時代に、装幀や挿絵、
さらには、舞台装置など幅広いジャンルで活躍した日本画家です。
「雪岱調」 と呼ばれる独自のスタイルを確立。
その繊細で可憐な作風から、 『昭和の (鈴木) 春信』 と呼ばれています。
今回の展覧会では、そんな雪岱の装幀と挿絵をフィーチャー!
会場では、展覧会の監修者でもある小村雪岱研究家、
真田幸治氏の貴重な個人コレクションが公開されています。
装幀家として、数多くの装幀を手掛けた雪岱。
その洗練されたデザインセンスは、今観ても秀逸!
思わずジャケ買いしたくなるほどでした。
特にセンスが光っていたのが、こちらの 『鼠小僧次郎吉』 の装幀です。
白い地の部分を雪に見立てるセンス。
構図とアングルのセンスも振るっています。
ただ一つ難を挙げるとするならば、
『鼠小僧次郎吉』 感がまったく無かったことくらいでしょうか (笑)
ちなみに。
雪岱を装幀の道に導いたのは、小説家の泉鏡花です。
こちらの 『日本橋』 の装幀に、
当時は無名だった若手画家、雪岱を大抜擢したのだそう。
その出来栄えを気に入った鏡花は、
以来、ほぼすべての装幀に、雪岱を指名したのだとか。
なお、「雪岱」 という雅号を考えたのも鏡花。
本名の安並では、「雪岱」 と合わないだろうからと、
旧姓である小村を名乗るようアドバイスしたのも鏡花だそうです。
さてさて、そんな鏡花との仕事の中で生まれたのが・・・・・
美しくて洗練されたこの独特のフォントです。
“あれ?このフォント、どこかで目にしたことがあるような”
そう思われた方も少なくないのでは?
もし、雪岱の名を知らなくても、
彼が生み出したこのフォントは一度は目にしたことがあるでしょう。
そう。資生堂の商品や広告に使われているフォントです。
通称、資生堂書体。
実は、雪岱はデザイナーとして一時期、
創設されたばかりの資生堂意匠部 (現 宣伝・
その際に雪岱が使っていたこの書体をもとにしたフォントが、資生堂書体なのです。
ちなみに。
こちらの 「菊」 という香水瓶をデザインしたのも、雪岱。
マルチな才能の持ち主だったのですね。
さて、装幀家としてのセンスがキレキレな雪岱ですが、
挿絵画家としても、そのセンスはいかんなく発揮されています。
着色された挿絵ももちろん素敵なのですが、
黒一色で描かれた挿絵も、独特な抒情性があって素敵でした。
会場では、挿絵の原画も多く展示されていましたが、
挿絵が掲載された当時の新聞の切り抜きも多く展示されています。
雪岱の挿絵もさることながら、
このような形で切り抜きが残っていることにも感動しました。
そうそう、新聞と言えば。
↑この新聞に掲載されていた広告記事が妙に気になってしまいました。
誰がこのビジュアルで、味の素を買おうと思うのか。
歯磨きスモカを買おうと思うのか。
雪岱の挿絵を見て学んで頂きたいものである。