国際的に活躍した現代美術キュレーター、ヤン・フートと、
ワタリウム美術館がタッグを組み、1995年に青山エリアで開催された伝説の展覧会。
それが、“水の波紋95” です。
準備期間は、約3年。
開催期間は、わずか30日間。
今でこそ芸術祭という言葉が浸透していますが、
まだ越後妻有トリエンナーレも瀬戸内芸術祭も開催されていない時代に、
青山や原宿の屋外40ヶ所に現代美術の作品を設置したこの画期的な展覧会は、
まさに芸術祭の走りとして、当時を知る美術関係者や美術ファンに語り継がれています。
さて、この展覧会が行われた1995年は、
阪神淡路大震災や地下鉄サリン事件といった未曽有の災害が続々と起き、
いつになく日本は異様な緊張感に包まれていました。
そんな中で開催された “水の波紋95” はアートの力で、
来場者や青山エリアの住人に大きな希望を与えたそうです。
さて、現在、ワタリウム美術館で開催されているのは、
“まちへ出よう展 ~それは水の波紋から始まった~” という展覧会。
こちらは、コロナのせいで世の中が暗くなっている今だからこそ、
“水の波紋95” の記憶を呼び覚ますべく、その関連する作品を紹介しようというものです。
美術館の外観で目を惹くのは、
“水の波紋95” の時も飾られたホワン・ヨンピンの 《竹帚》。
2階の展示室では、当時、明治神宮の鳥居前広場に設置されたという、
カナダ生まれの現代美術家ロイデン・ラビノヴィッチの 《無題》 が設置されていました。
ちなみに、その奥に見える家具みたいなのは、
フィリップ・ラメットの 《罪の部屋》 という作品です。
この作品は、”水の波紋95” では、
キリンビール原宿本社ビルの広場に設置されていたそう。
観客は中に入り壁に向かって立つことで、
自分自身と、あるいは作品と対話することができるというものです。
傍から見たら、完全にヤバいヤツ。
しかも、ビール会社の広場ならば、アル中と勘違いされるかも。
また、黒い壁に展示されていたのは、
アメリカのミニマルアーティスト、ソル・ルウィットによるドローイング作品です。
彼は “水の波紋95” には参加していませんが、
今展では、“水の波紋95” の美術作品から、まさに波紋が広がるように、
関連する、あるいは想起させる美術作品も紹介されています。
さらには、現在活躍中の若手作家の新作も!
こちらは、松下徹さんの 《Long Circuit》 という作品です。
まるで工業製品のような仕上がりですが、松下さんの手によって描かれたもの。
どうやって、この綺麗な同心円を実現させているのでしょうか?
その理由は、キャンバスをろくろで回転させ、
工業用のエアガンを吹き付けることで、描いているから。
ありそうでなかった制作技法です。
そして、この展覧会に新作で参加している若手作家は、もう一人。
東京を拠点に活動するストリートアーティスト、DIEGOさんです。
グラフィティで埋め尽くされた不思議な建造物。
その中を覗いた瞬間、ギョッとする光景に出くわしました。
大量の監視カメラ。
悪いことはしていないはずなのですが、
これだけの監視カメラを向けられると、思わず挙動不審になってしまいました。
数秒間フリーズ。のちに、逃げるように後ずさり。
もし、本当にこの監視カメラで録画されていたら、お恥ずかしい限りです。
ちなみに。
グラフィティといえば、こんな作品も。
こちらは、キース・ヘリングが来日した際に、
ワタリウム美術館の向かいにあった建物に描いたグラフィティの一部です。
残念ながら、その建物自体は2018年に撤去されてしまいましたが、
このような形で壁画の一部は、美術館に大事に保管されているのだそう。
同じく、その建物の扉も保管されていた様子。
ただの落書きにしか見えませんでしたが、
これらも何人かのグラフィティアーティストが描いたものなのだそう。
・・・・・・・いや、キース・ヘリングをもう少し見習おうか。
さて、この展覧会は美術館内だけには留まりません。
まちへ出て、かつてその建物があった場所に向かいましょう。
そこには、カールステン・ニコライによる《インサイドアウト》 というベンチ状の作品が設置されています。
希望者は受付で手続きをすると、
このような特殊なスピーカーを受け取ることが出来ます。
そこから聞こえる音を聴きながら、街を歩いたり、
このベンチに座ったり、見慣れた景色が変化するのだそう。
そのおかげなのかどうなのかは不明ですが。
片方だけ異様に壊れたこのベンチが、
アート作品に感じられたのは確かです。
(美術館の方に伺ったら、それはアート作品ではないとのこと)
ちなみに。
今年の夏、26年ぶりに “水の波紋” が開催されるそうです。
乞うご期待!