美術の世界には、奇跡を起こしたヒーローが数多く存在する。
もしも、そんな彼らにヒーローインタビューを行ったなら・・・?
インタビュアー (以下:イ) 「放送席、放送席。
こちらには、聖徳太子さんにお越し頂いております」
聖徳太子 (以下:聖) 「あ、どうも。最近は、厩戸王って言われる機会も増えてきたので、
久しぶりに、その名前で呼ばれましたね。どうぞよろしくお願いします」
イ 「本人的には、どっちのがしっくりきますか?」
聖 「まぁ、確かに生前は、厩戸王って呼ばれていましたけどね。
厩戸の前で生まれたから厩戸王って、安易なネーミングですよね (笑)
じゃあ、東京大学の前で生まれたら、東大王なのかっていうね。
バナナ園の前で生まれたら、甘熟王か!みたいな。
まぁ、そういう意味では、後世に付けられた聖徳太子のほうがカッコよくて、僕は好きですね」
イ 「聖徳太子さんって、意外とよく喋るんですね」
聖 「そうですか?
まぁ、僕はいろいろ奇跡を起こしているわけですけれども。
何せ最初に起こした奇跡が、喋りに関するものですからね」
イ 「そうなんですね!どんな奇跡なんですか?」
聖 「あれは、2歳の時でしたかね。
東の方角に向って合掌して、「南無仏」 と唱えたんですよ」
《南無仏太子立像》
イ 「・・・・・・・・・・・・・・・」
聖 「・・・・・・・・・・・・・・・」
イ 「・・・・・からの~?」
聖 「いや、それだけですけど。え?何か?」
イ 「それが奇跡なんですか??」
聖 「はい。奇跡ですよ」
イ 「え~っと、2歳なら、もう少し喋れません?
それ、普通の2歳児のエピソードですよね。
なんなら1歳でも 『南無仏』 くらい喋れますよ」
聖 「あ、じゃあ、別の奇跡の話させてください」
イ 「おっ?何ですか?」
聖 「これは37歳の時の話なんですけどね。
諸国から馬が献上されたんですよ。
で、その数百頭の馬の中にいた黒駒っていう、
甲斐の国より献上された馬にビビビッって来ましてね。
「これぞ神馬に違いない!」 ってことで飼育させたんです。
そのあと、しばらくしてから試乗したんですね」
イ 「はいはい」
聖 「そしたら、本当に神馬で、天高く昇っちゃって!
しかも、富士山まで超えちゃって!」
重要文化財 《聖徳大使絵伝》 (部分)
イ 「わー、それはスゴい奇跡ですね!!」
聖 「で、富士山を超えて、信濃国に辿り着いたんですよ」
国宝 秦致貞 《聖徳太子絵伝》 (部分)
イ 「・・・・・・ん?富士山の頂上に降り立った、とかではなく?」
聖 「そう。信濃国に。
そのあと、都に戻ってきたわけですけど。
この間、たった3日!スゴくないですか?」
イ 「まぁ、スゴいっちゃスゴいんですけど。
富士山を超える必要ありますかね?
だって、信濃国に行くのであれば、
そんな4000m近く上空を飛ぶ必要なんて無いですし。
率直な感想としては、“エピソード盛ってんのかな?” っていう気すらしました」
聖 「・・・・・・・・・・・・・・・。」
イ 「他に何か奇跡はないんですか?」
聖 「じゃあ、とっておきの一番有名な奇跡を話します!」
イ 「もしかして、あれですか?
一度に10人の話を聞き分けたっていう?」
聖 「あぁ、それは 『日本書紀』 ver.のほうですね。
『聖徳太子伝暦』 のほうだと、僕が11歳の時に、
子供36人の話を同時に聞き取れたって紹介されてますから」
国宝 秦致貞 《聖徳太子絵伝》 (部分)
イ 「36人!それは、スゴいですね!」
聖 「でしょでしょ!」
イ 「何がスゴいって、36人同時に喋るっていうシチュエーションが奇跡ですよね!」
聖 「そっちかい!」
イ 「あのぉ。昔から疑問だったんですけど。
聖徳太子さんは同時に何人から話をされても、
完璧に聞き分けることが出来るんですよね?」
聖 「そうですよ」
イ 「じゃあ、それに対しての返しは、やはり同時にできるんですか?」
聖 「それは無理ですよ。だって、口は一つしかないんだから」
イ 「てことは、10人なら10人、36人なら36人に対して、
それぞれ一人ずつ順番に答えていくってことですよね?」
聖 「そうですよ」
イ 「だったら、一人一人順番に話を聞いて、
その都度、答えた方がよくないですか?」
聖 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
イ 「10番目の人とか36番目の人なんて、
レスポンスが戻ってくるまでの時間が長すぎて、
“あれ?俺、何の話したっけ?” ってなっちゃうかもですし」
聖 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
イ 「あ、でも、あれですか?
『和を以て貴しとなす』 的な?
話す順番を決めないほうが良い的な?」
聖 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
イ 「もしもーし?僕の話、聞いてます?」
聖 「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。」
イ 「僕の話、聞き取れないのかな?まぁ、仕方ない。
こちらからは以上です。放送席にお返しいたします」
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