開館30年を迎える2022年に、展示ギャラリーを、
丸の内にある明治生命館に移転する静嘉堂文庫美術館。
現在の世田谷区岡本の地で、
収蔵品が観られるのは今年6月までとなっています。
そんな岡本の地での最後から二番目の展覧会となるのが、“岩﨑家のお雛さま”。
静嘉堂が所蔵する雛人形や雛道具を一挙公開する展覧会です。
展示ケースには赤い毛氈が敷かれ、
いつも以上に華やかな会場となっていました。
(注:展示室内の写真撮影は、特別に許可を得ております。)
展覧会の目玉となるのは、三菱第四代社長・岩﨑小彌太が孝子夫人のために、
天皇家や旧家御用達の京都の老舗・丸平大木人形店に誂えさせた雛人形や雛道具です。
「岩﨑家雛人形」のうち内裏雛 五世大木平藏 昭和時代初期(20世紀) 静嘉堂文庫美術館蔵 【全期】
「菱台」 昭和時代初期(20世紀) 静嘉堂文庫美術館蔵 【全期】
これらの雛人形は、戦後に、散逸してしまったそうなのですが、
人形愛好家の桐村喜世美氏によって、奇跡的に雛人形と雛道具の多くが集められ、
近年、岩﨑小彌太と縁の深い静嘉堂に寄贈されました。
美術館で一般公開されるのは、
2019年の展覧会以来となるそうです。
優れた美術コレクターでもあった岩﨑小彌太が特注した雛人形や雛道具だけに。
単なる可愛らしい玩具というレベルを超え、
どれも立派に鑑賞に堪えうる美術工芸品でした。
中でも特に印象的だったのが、三人官女です。
「岩﨑家雛人形」のうち三人官女 五世大木平藏 昭和時代初期(20世紀) 静嘉堂文庫美術館蔵 【全期】
人形なので、止まっているはずなのですが。
まるで動いているかのような錯覚を覚えました。
それほどまでに人形が活き活きとしているのです。
耳をすませば、3人の会話が聞こえてくるかのよう。
3人とも黒柳徹子ヘアーなので、声はもちろん黒柳徹子の声で。
また、岩﨑小彌太がオーダーした雛人形以外にも、
静嘉堂が所蔵する江戸時代の雛人形も紹介されています。
「立雛」 江戸時代後期(18~19世紀) 静嘉堂文庫美術館蔵 【全期】
丸平大木人形店の雛人形と比べてしまうと、
どうしたって地味な印象は否めないのですが。
それはそれで、素朴な味わいがありました。
個人的に気になったのは、こちらの享保雛です。
「享保雛」 江戸時代後期(18~19世紀) 静嘉堂文庫美術館蔵 【全期】
お雛様がまさかのベリーショート。
樋口可南子ばりのベリーショートです。
おそらく、もとは飾りが付いていたのではないか、とのこと。
この小ざっぱりとした姿を見て、元の持ち主は、
「母さん、雛のあの髪飾り、どうしたんでせうね?」 と問いかけたかもしれませんね。
それから一番印象に残ったのが、こちらの嵯峨人形です。
「嵯峨人形 乙御前」 江戸時代(18~19世紀) 静嘉堂文庫美術館蔵 【全期】
キャプションには、乙御前とありましたが。
その顔は、完全に千鳥のノブさんでした。
クセがスゴい嵯峨人形です。
ちなみに。
会場には、今の季節に合わせて、
春を愛でる絵画や工芸品も合わせて展示されていました。
それらの中には、静嘉堂文庫が誇る国宝 《曜変天目》 も!
国宝「曜変天目」建窯 南宋時代(12~13世紀) 静嘉堂文庫美術館蔵 【全期】
さらに、珍しいところでは、
岩﨑小彌太が描いた梅の絵も展示されていました。
「紅梅図」 岩﨑小彌太 昭和時代前期(20世紀) 静嘉堂文庫美術館蔵 【全期】
実は、岩﨑小彌太は、
日本画家の前田青邨に絵の手ほどきを受けていたのだとか。
梅をモチーフにしながらも、あえて花ではなく、
幹にフォーカスしたところにセンスを感じました。
なお、雅号は 『巨陶』 とのこと。
もしかしたら、小彌太の 『小』 という字に、
コンプレックスを持っていたのかもしれません。
┃会期:2021年2月20日(土)~3月28日(日)
┃会場:静嘉堂文庫美術館
┃http://www.seikado.or.jp/exhibition/index.html