■新説 東洲斎写楽 浮世絵師の遊戯
作者:高井 忍
出版社:文芸社
発売日:2021/2/5
ページ数:448ページ
江戸時代後期に突如現れ、
わずか10ヶ月の活動期間に数々の名作を残し、
忽然と姿を消した浮世絵師、東洲斎写楽。
その正体を巡り、4つの歴史談義が繰り広げられる。
異説珍説数多ある中で、写楽が謎の絵師とされてしまったその理由とは…?
緻密な検証とユーモアたっぷりの発想で贈る、歴史謎解きエンターテインメント。
単行本未収録の新エピソードを含め、大幅に改稿。
(文芸社HPより)
「写楽の正体は、一体何者なのか?
北斎か歌麿か、版元の蔦屋重三郎か。
はたまた、外国人か。
もしくは、宇宙人か。それとも、未来人か。
かつては、その正体を巡って、
さまざまなトンデモ説まで浮上していましたが。
今ではすっかり、阿波藩お抱えの能役者、
斎藤十郎兵衛とする説が定着しているようです。
さて、短編3編と中編1編が収録されたこの1冊
舞台となる場所や時代、登場人物はすべて異なりますが、
どの小説も、写楽の正体について迫る内容となっています。
これまでに、あらゆる可能性が出尽くしている感があるので、
斬新な説は出てこないだろうと、
あまり期待はしていなかったのですが。
まぁ新たな説が出るわ出るわ!
『写楽=斎藤十郎兵衛』 という設定を守りつつ、
それを踏まえたうえで、他の可能性は考えてみる、
あるいは、無理やりこじつけてみるというスタンスが功を制していました。
そんなわけないだろ、と内心ツッコミながらも、
一応辻褄はあっているので、感心しながら読み進めることができました。
ただ、こんな無茶苦茶な説でも、
論理さえ破綻していなかったら成立するということは、
えん罪もこうして生まれるのかもしれません。
と、本筋とは関係ないところで恐怖を覚えてしまいました (笑)
個人的に一番面白く感じたのは、
『写楽 一七九四年』 という一篇です。
ある日、蔦屋重三郎は若き日の北斎に、
写楽という名で、浮世絵を描くように命じます。
しかし、この小説の世界の人物たちは、後の世で、
『写楽=斎藤十郎兵衛』 が定着することを知っているという設定です。
そこで、蔦屋重三郎は滝沢馬琴に、
『写楽=北斎説』 が成立する理屈を考えるよう命じます。
熟考の末に、馬琴が導き出した理屈 (屁理屈?) は、
北斎と関りの深いあの人物が大きく関わるという大胆な説でした。
この発想はなかった!
それと、写楽の正体以上に、個人的にビックリしたのが。
ドイツの美術研究家ユリウス・クルトが、その著書 『Sharaku』 で、
写楽をレンブラントやベラスケスと並ぶ 「世界三大肖像画家」 と称賛したというエピソード。
それは、まったくのガセネタなのだそう。
『Sharaku』 の中には、そんな記述が一切ないそうです。
確かに、冷静に考えてみれば、
ラファエロとかルーベンスとかゴッホとか、候補は他にゴロゴロいますよね。
説自体はどれも面白かったのですが、論理が破綻しないように、
丁寧に一つ一つ穴を潰していくその描写が冗長で、若干くどかったか。
(星3.0)」
~小説に登場する名画~
《四代目松本幸四郎の山谷の肴屋五郎兵衛》