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コレクション 4つの水紋

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新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐため、

昨年12月末より臨時休館していた埼玉県立近代美術館ですが、

先日3月23日、感染防止対策を講じた上で無事に再開する運びとなりました!

 

そんな埼玉県立近代美術館で現在開催されているのは、

本来なら1月23日から3月21日までの会期で開催される予定だった・・・・・

 

 

 

“コレクション 4つの水紋” という展覧会。

会期をスライドし、5月16日まで開催されるそうです。

 

ザックリ言ってしまえば、展覧会の内容としては、

埼玉県立近代美術館のコレクションを紹介するものなのですが。

ただ、コレクションを並べただけの展覧会ではありません。

コレクションの中から4つの作品を選び、

その作品から水紋が広がるように、他の作品も紹介する。

そんな展覧会です。

 

 

・・・・・・・と言われたところで、

おそらくピンときていないことでしょう。

というわけで、その一例をご紹介いたします。


今回選ばれた4つの作品のうちの1つがこちら↓

 

 

 

近年新収蔵された新印象派の画家シニャックの 《アニエールの河岸》 という一枚です。
こちらは、シニャックの初期の作品とのこと。

右下の道を描いた部分は、印象派風、

河の水面を描いた部分は、新印象派風となっています。

つまり、印象派から新印象派のスタイルへと変わる、

まさにその変革期に描かれた、ある意味で貴重な作品なのです。

 

さて、この絵のポイントの一つは、

水辺の情景が描かれているということ。

そこで今展では、コレクションの中から、

水辺の情景をモチーフにした作品をピックアップ!

 

 

 

古今東西、ジャンルを問わず、

さまざまなタイプの水の情景を紹介しています。

 

さらに、展覧会では、《アニエールの河岸》 の重要な要素 “光の点描” にも注目。

シニャックに影響を与えたモネやルノワールの作品だけでなく、

 

 

 

 

点描スタイルが特徴的な瑛九や、

リキテンシュタインの作品も併せて紹介していました。

 

 

 

と、このように1つの作品を起点とし、連想ゲームのように、

埼玉県立近代美術館のコレクション作品が紹介されています。

「なるほど!」 と腑に落ちる連想もあれば、

「う~ん・・・そうかなァ?」 と力業な連想も (笑)

しかし、その多少の強引さも含めて、

どんな作品が次に出てくるのだろうと、

展覧会の最後までワクワク楽しめました。

星

 

 

さてさて、水紋の起点となる4作品の中で、

個人的に印象に残っているのは、 《仙境群鶴》 です。

 

 

 

若冲を彷彿とさせるような細密なこちらの絵画を描いたのは、奥原晴湖。

幕末生まれの女性画家です。

まだまだ女性画家が珍しかったこの時代、

特に画家の娘として生まれたわけでも、画家の妻になったわけでもなく、

自発的に画家の道を目指し、そして、画家としてちゃんと生計を立てていたのだそう。

もともとは、南画や文人画を描いていたという奥原晴湖。

その女性とは思えぬ豪放磊落な作風は、

木戸孝允や山内容堂といった要人たちに特に人気があったそうです。

 

 

 

しかし、明治の中頃あたりで、岡倉天心やフェノロサらが、

新しい日本画を提唱し始めると、南画や文人画の人気は低迷します。

55歳になった奥原晴湖は、東京を引き払い、埼玉県の熊谷へ。

以降、晩年まで熊谷で制作を続けたのだとか。

その熊谷時代に描かれたのが、先ほどの《仙境群鶴》 なのです。

体力的なこともあるのでしょうが。

晩年に近づくにつれ、緻密な作風から、

南画風、文人画風のスタイルに変化する画家は数多くいます。

しかし、奥原晴湖はその逆パターン!

歳を重ねるごとに、筆が冴え渡っています。

 

ちなみに。

 

 

 

右に描かれているのが、奥原晴湖だそう。

その髪型を見ると、ベリーショートであることに気が付きます。

なんでも明治4年に断髪脱刀令が出された際に、

それならば自分もということで、髪をバッサリとカットしたのだとか。

以降、ザンギリ頭を貫いたそうです。

 

作品の素晴らしさはもちろんのこと、

生きざまやエピソードも面白い奥原晴湖。

ブレイクの予感しかありません。

 

 

ブレイクするかもといえば、この人も。

水紋の起点の1つとして、屋外彫刻作品が選ばれていた重村三雄です。

 

 

 

もともとは油絵を制作していたそうなのですが、

ある日、FRP (繊維強化プラスティック) という素材と出逢い、

そこから、試行錯誤を経て、FRPで唯一無二の立体作品を作るようになったのだとか。

ちなみに、FRPと言われても、いまいちイメージが沸かないかもしれませんが、

名作椅子の一つとされるこちらのパントンチェアに使われているのがFRPです。

 

 

 

パッと見ただけでは、重村三雄作品と同じ素材とは思えません。

重村はFRPをFRPっぽく感じさせないように、

あえて表面にメタリックな塗装を施したのだそうです。

なんそれ!

等身大で作られたリアルな人物像は、

今にも動き出しそうな感じがありました。

投げ銭を渡したら動き出すタイプの大道芸人のようでした。

 

 

 

 

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